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【アジアで会う】徳江紀穂子さん リバネスシンガポール社長 第291回 東南アジアの研究者に活躍の場を(シンガポール)

とくえ・きほこ 1973年東京都生まれ。5歳の時に父親の仕事の関係でシンガポールに移住。同国で小学校の大半を過ごす。中学校は日本、高校はタイのインターナショナル校に進学。米ペンシルベニア州立インディアナ大学に進み生物学を専攻。豪ニューイングランド大学大学院で修士課程修了。立教大学大学院の博士課程ではカッコウの托卵を研究した。リバネス(東京都新宿区)には2011年に入社。16年にシンガポールに赴任した。

研究者やグローバルリーダーの育成・発掘、教育事業、スタートアップ支援を手掛けるリバネスのシンガポール法人で社長を務める徳江さんは、学術研究者としての実績も積んだユニークな経歴の持ち主だ。

大学院修士課程では、昔から好きだった動物の行動生態学を学んだ。立教大学大学院の博士課程在籍時に取り組んだ、オーストラリア・ダーウィンに生息するカッコウの托卵(他の鳥の巣に卵を産んで世話を任せる習性)の研究では、ある行動について世界初となる画期的な発見をした。

従来は、托卵のタイミングで宿主(托卵相手)がカッコウの卵を排除できなかった場合、カッコウのひなが宿主の卵を巣から落とす。そのためカッコウのふ化後は宿主による対抗策はないというのが通説だったが、この説をひっくり返すデータを現地調査で発見。宿主がカッコウのひなをふ化させた後に巣から排除する行動を初めて確認し、これまでの鳥類学会の常識を覆す調査結果として注目を浴びた。

ただ徳江さんは、この体験を客観的に捉えていた。鳥類学会という限られた世界では大発見だが、それ以外の一般の人から見れば「ふ~ん、そうなのか」で終わってしまう。自分の専門性を追求するよりも、多様な専門分野の情報を広く発信する側に回れないかと考えるようになった。

そんな時に、研究室に置いてあった雑誌が偶然目に留まった。研究者と企業の橋渡し事業を手掛けるリバネスが発行した、研究者向けのキャリア紹介雑誌だった。リバネスのサイトを調べると、研究職出身者が多い会社であることが分かり興味が湧いた。

11年5月に入社して2週間後、いきなりシンガポールへ出張する機会を得た。日本のある大学が新学部設立に伴い、シンガポール国立大学(NUS)の様子を調査してほしいと依頼してきたのだ。社会人になりたてで仕事の段取りもほぼ分からないまま、各種手配やアポ取りを夢中でこなした。「自分が育ったシンガポールへ仕事で行くことができるとあってワクワクしました」と振り返る。

■持続的な事業運営を意識

リバネスは、中高生らに科学技術の楽しさを知ってもらい研究者の卵を育てる教育開発をはじめ、人材、研究、創業、戦略、国際、地域開発を事業の柱としている。徳江さんは入社後に人材開発を担当。大学生に自分の才能を生かしたキャリア形成の在り方を講義して回った。

その後、海外プロジェクトを手掛ける国際開発事業部に異動。1年ほど過ぎた頃、マレーシア法人を設立する計画が浮上し、徳江さんに法人社長就任の話が持ち上がった。「もともと人前で話すのは苦手だったし、社長を目指していたわけではないので最初はとまどいました」と語る。

13年にマレーシア法人を設立したが、現地で活動するのは自分1人。会社という「箱物」はできても、人を雇い収益を生む事業モデルを構築しなければならない。法律や現地市場に関する本を読みあさりながら、人的ネットワーク作りに奔走した。教育開発や人材開発事業について外部の人に一から説明する体験を重ねるうちに、度胸もついてきた。

4人の現地社員を雇用し、業務を軌道に乗せた。研究者は「お金を稼ぐ=悪」と考える傾向があるが、会社の代表として動くうちに「持続的に発展する事業運営」の重要性を意識するようになった。

マレーシアでの実績が評価され、16年にシンガポール法人の社長を引き継いだ。苦労したのは人材の確保だ。マレーシアでは「科学技術の発展と地球貢献を実現する」というリバネスの理念に共感してくれる求職者が多かった。シンガポールでは理念に共感するものの、社員の採用面接時に「教育事業はもうからないのではないか」といった意見も聞かれた。それでも地道に採用活動を続けるうち、研究者出身で教育事業に興味を持つ人などが集まり、今は4人の現地社員がいる。

現在は、研究に挑戦する中高生に発表の場を与える学会や、研究者と企業を結び付けるセミナーの開催、地場新興企業の日本進出支援など幅広い事業を手掛ける。海外での新拠点設立に向けて、社内で後進の指導にも当たっている。

どんなに技術が進歩しても、最終的な判断は人間が決めるものだと考えている。「だから人にとって教育は大事なんです」。将来は、自分が高校時代を過ごしたタイでの活動が一層増えるとうれしいと話す徳江さん。東南アジアの研究者が世界で活躍するのを楽しみにしている。(シンガポール&ASEAN版編集・清水美雪)


関連国・地域: シンガポール日本
関連業種: 社会・事件

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