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【アジアで会う】高田健太さん トゥン・カイン・インターナショナル社長 第237回 自分の看板を掲げて生きる(ミャンマー)

たかだ・けんた 1989年大阪府生まれ。明治大卒業後、2013年に丸紅に入社。自動車部でインドネシア事業に携わった後、ヤンゴン外国語大学ミャンマー語学科に企業派遣留学。18年に独立し、ITマーケティング、映像制作、翻訳、物流などを手掛ける「トゥン・カイン・インターナショナル」設立。ミャンマー語名のトゥン・カインとして、日本に関連する動画をフィエイスブックに配信する。フォロワーは約17万人。昨年公開された国際交流基金アジアセンターなどによるオムニバス映画「アジア三面鏡」のミャンマー編「碧朱」に、主演の長谷川博己さんの同僚役として出演した。

最大都市ヤンゴンの路地裏にある事務所から、そろいの青いポロシャツを着た運転手が自転車に乗り、次々と出発していく。12月に開始した物流オンデマンドサービス「ハイソー(Hi-So)」で運ばれるのは、個人事業主がフェイスブックで販売する小さな化粧品から、誕生日の恋人に贈る花束、家族が出勤時に忘れたお弁当まで。

■ラストワンマイルに商機

ミャンマーでは物流の効率化が進まず、電子商取引(EC)大手ですら、受注から品物到着まで1週間はかかる。ましてや個人事業主は自分で品物を運ぶかタクシーを使うしかなく、いつ届くのか不確定、コストも高くつく。ハイソーは、自転車でラストワンマイルをつなぐことでの商機に着眼した。現在、市内での運転手の品物受け取りからお届けまでは約1時間。配送料はタクシーなどの半額に収まる上、運転手に報酬が支払われる。

市内全域に広げるのはこれから。認知度アップを含め挑戦は続くが、熱意を支えるのは「一部の特定市場を対象にするのでなく、広く多くの人に役立つ事業で世の中の課題を解決したい」という思い。ITマーケティングや翻訳事業も展開しながら、成長部門と位置づけるハイソー事業に重点投資を続ける。

もともとは丸紅の商社マン。落語家の故・六代目笑福亭松喬の長男として生まれ、小さな頃から「落語家継ぐの?」と尋ねられた。「父には一生かかってもかなわない。自分にしかできないことを」と落語家にならない約束で大学に進学。高校時代に描いた人生設計図のキーワードは「外国」と「経営」だった。

「想像以上にわくわくする世界だった」という商社マン時代に、インドネシア事業に精を出した後、語学留学の社内制度に応募。大学時代にバックパッカーで訪れたミャンマーを行き先に志望した。「当時は民政移管直後で海外から人が押し寄せ、ヤンゴン中心部のパゴダの周りにあった公衆電話屋からようやくホテルが予約できた」。熱気に浮かされ帰国する際、ヤンゴン空港で、オバマ前米大統領の専用機が駐機していたのを鮮明に覚えている。

■「えっ、君って丸紅?」

願いかなって駐在したミャンマーで、現地名「トゥン・カイン」としてのもう一つの顔ができた。フェイスブックで現地の習慣について思うことを自ら出演の動画で発信。「ミャンマーの若いカップルは、意外に屋外でいちゃいちゃしてますよね!」――。愛嬌たっぷりの切り口が、日本に関心を持つ若者を中心に受け、フォロワーが急増した。要望を受けて「ヤバい」「リア充」など日本の若者言葉を説明する動画も加えると、日本在住のミャンマー人労働者や留学生にも輪が広がり、フォロワーは17万人を超えた。

そんなある日、仕事で会った日本人に「トゥン・カインの高田健太だろう!え、君って丸紅?」と言われ、はっとした。「社会人になってから、『高田』の名でなく『丸紅の人』と覚えられることが多かった。久しぶりに自分個人が認識された爽快な感覚があった」。帰任が近づく中、悩みが深まった。ついに昨年1月、丸紅を退社して起業し「高田健太として生きる」と決断。暖かく送り出し、今も仕事で付き合いを続けてくれているかつての上司や同僚には強く感謝している。

「外国」と「経営」。29歳の今、かつて人生設計図に描いたキーワードに沿う第2幕が開いたと感じている。正直、人生設計図の存在は忘れていたが、亡くなった父が額に入れて実家に飾ってくれていた。「あらためて、当時はどんなスピード感で、人生を歩む目線を持っていたかを、大事にしたいと感じた」。

独立から1年。「森の中をさまよい、ようやくぼんやりと景色が見えてきたところ。今年は、その中に感じる課題や駆り立てられる使命感に全力で向かっていきたい」という。落語家として自分の看板を守り抜いた父も、「高田健太」を掲げて歩み始めた息子をどこかで面白そうに眺めているのかもしれない。(共同通信ヤンゴン支局・齋藤真美)


関連国・地域: ミャンマー
関連業種: 運輸IT・通信マクロ・統計・その他経済

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