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【アジアで会う】新井孝弘さん 弦楽器サントゥール奏者 第231回 国宝に師事し、古典音楽と向き合う(インド)

あらい・たかひろ 1979年生まれ、埼玉県出身。東京都内の音楽学校を卒業後、印刷会社で働きながらバンドマンとして活動。2005年にインドの古典音楽に使われる弦楽器「サントゥール」と出会い、07年に渡印。以降、ムンバイに拠点を置き、インド古典音楽界の巨匠シブ・クマール・シャルマ氏のもとで学びながら、日印2カ国で演奏活動を行っている。

サントゥールはイラン発祥とされる弦楽器で、インドではカシミール地方を中心とする北インドの古典音楽で使用される。90本以上ある金属製の弦をクルミの木でできた撥(ばち)で叩くと、ハープの音色を硬くしたような、きらびやかな音が響く。

「サントゥールはペルシャ語だけど、サンスクリット語の名前もあって、“シャタタントリビーナ”というんです」と新井さん。シャタは「100」、タントリは「弦」をそれぞれ表し、弦楽器の総称であるビーナを付けて「百弦の弦楽器」という意味になるのだと、人懐っこい笑顔で教えてくれた。

■師匠の音源を聴き一念発起

「レディオヘッド」が大好きなロック少年で、もともとドラマーだった。遊びで始めた打楽器バンドで世界の“叩くメロディー楽器”を探し始め、05年にサントゥールの存在を知る。

「とりあえずやってみよう」と、すぐさま日本人サントゥール奏者の宮下節雄(ジミー宮下)氏に弟子入り。月1回のペースで宮下氏の住む岐阜県の田舎町に通い始める。「これが、山奥のいい場所で。きれいな川があってアユやそばがおいしくて、温泉まである。目的はサントゥールの練習が半分、休暇が半分だった」

ゆるゆると練習を続けること1年。宮下氏がインドの師匠にレッスンを受けに行くというので同行し、人生が一変することに。出会ったのは、日本の人間国宝に相当するインドの国家勲章「パドマ・ビブシャン」を受章した同国を代表するサントゥール演奏家、シブ・クマール・シャルマ氏だった。

「(僕が叩くと)先生は“グッド”って言ってくれて。“プロなのか”と聞かれて、“いえ、派遣社員なんで”と答えた」と笑う。日本では手に入らない師のCDを何十枚も買って帰国し、「ラゲシュリー」という曲の録音を聴いて衝撃を受けた。「13拍子の曲だけど、すごくポップに聞こえた。13拍子ってカウントするだけでも大変なはず。なのに、メロディーがすんなり入ってきて。パワフルでスリリングで、かっこよすぎて放心状態になった」

シャルマ氏のもとでサントゥールを本気でやろうと、インド行きを決意した。20代半ば。両親から「音楽で飯は食えないからしっかり働け」と言われ、「半年日本で稼いで、残り半年をインドで暮らす生活をする」と答えた。07年、折よくシャルマ氏の日本公演があり、両親を招待。「半年なんて中途半端なこと言ってないで、今すぐ行け」。演奏を聴いた後、両親はそう背中を押してくれた。

■「本場で活動を続けたい」

インド古典音楽に楽譜はない。弟子は師匠が歌った旋律(フレーズ)を記憶し、どう弾くかを落とし込む。「ラーガ」と総称される楽曲は1曲1曲が長く、演奏は1時間近くに及ぶが、そのほとんどは4小節ほどの短いフレーズが決まっているのみ。演奏の大部分は即興で形成される。さらに「その決まったフレーズを何回も出さなきゃいけないとか、決まりがあって。ルールにのっとって曲や旋律を壊さないよう、即興しなくてはならない」のだそうだ。

「同じ演目でも奏者によって違う音楽になるし、同じ演奏家でも今日と明日で異なる。それが、面白い」と新井さん。長いときには1日5時間、楽器と向き合う生活を10年以上続けている。

南部ゴアでの10月のコンサートの様子

南部ゴアでの10月のコンサートの様子

移住から2年後の09年に、ムンバイの国立舞台芸術センター(NCPA)で初舞台を経験。同年から高齢のシャルマ氏のツアーマネジャーとして全公演に付き添いながら、自身の演奏活動にも精力的に取り組む。今年10~11月はインド各地で10本近い公演をこなし、地元のテレビに出演するなど、多くのインド人を魅了し始めている。日本では11年から毎年、日本人タブラ奏者のユザーン(U-zhaan)氏と「北インド古典音楽ライブ」と題した全国ツアーを敢行。今年は約30公演を行った。

シャルマ氏でさえも、演奏できるラーガには限りがあるというインド古典音楽。「インド人はよく、“3回ぐらい生まれ変わらないとちゃんとした音楽家にはなれない”と言う。よくやるよなって、自分でもたまに思いますね」とまた笑う。「これからもインドで活動を続けて、本場でもっとお呼びがかかる演奏家になりたい。将来的にはインド以外のより多くの人に、演奏を聴いてもらえるようになれば」。穏やかに見えてストイックな演奏家の道のりは、まだまだ続く。(インド版編集・天野友紀子)


関連国・地域: インド
関連業種: 社会・事件

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