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【特集企画】業界座談会第3弾・小売り業 ブランディングをどうする?(下)

(前日からの続き)

【西原】紀伊國屋書店のお客さんは他店に浮気せずに来てくれますか?

【河合】例えばコミックは、何ドル何十セントとかの違いだけでお客さんは店を変えるんですけども、それ以外の例えば家族連れをターゲットにすると、総合書店という強みが出てくるのではないかなと考えています。

【小泉】お客さんの半分以上が英語話者だと、我々日本人が紀伊國屋に感じていることを感じてくれているんですかね。

【河合】あまり関係ないかもしれません。どちらかというと彼らは紀伊國屋だから来ているわけではなくて、紀伊國屋としての商品の品揃えをやっているから来てくれていると考えています。もちろんアジア系もどんどん増えてきてはいるんですけども、我々のポジションとして日系書店がネイティブに本気で書籍を売っているというのはなかなか珍しいケースだと思っています。

【小泉】品揃えのいい変わった名前の本屋っていうイメージなんですかね。

【河合】紀伊國屋じゃなくて「KINO」と呼ばれます。先ほどの皆さんのお話で、突き詰めるとブランディングだと思うんです。どういう風に自社を売っていくかという。

【西原】各社とも、日系ブランドという意識は白人オージーの間で当然あると思いますが、どうですか。

【藤本】それはあると思います。やはりメード・イン・ジャパンを気にされる方もいますし、スタッフからもそれが強みだと言われます。ただ一方で、我々がやりたいのはさっきのジュリークさんと一緒ですが、アンチゴージャスのようなことで、そんな派手なTシャツを着るんだったら、我々のオーガニック・コットンの物をこの値段で買った方がよほど豊かだ、ということを世界に伝えたいというコンセプトを持っています。それを、どう伝えていくかが大事です。すると、Eコマースはそれほど気にしなくていいように思います。Eコマースはクリックした物がただ届くだけのものなので。店舗でどう体験してもらうかがやっぱりキーになるんじゃないでしょうか。

左からMUJIオーストラリアの藤本MDと、セイコー・オーストラリアの小泉MD

左からMUJIオーストラリアの藤本MDと、セイコー・オーストラリアの小泉MD

【小泉】うちも、日本ブランドとしてポジティブにとらえられているようです。まさに技術力が高いとか、真摯(しんし)な取り組みでクオリティーがいいとか、サービス含めてまじめにやっているという所ですけども、我々としてはそのさらに上のプレミアムを出したいです。例えば車で例えると、ドイツ車なのか日本車なのかというと、日本車は皆リスペクトしているけども、10万豪ドル(約819万円)で車を買うぞとなると、レクサスさんは頑張っていると思いますが、ドイツ車を選ぶ方が多いですよね。例えば今のブランド・パーセプションとなると、超高級プレミアム時計でまず頭にくるのがスイスです。超高級店で「Watches of Switzerland」という店があるくらいです。スイスは国策でやってたりするわけです。

【西原】国の資本が入っているのですか?

【小泉】いえ、どこかの国に輸出する時に関税交渉などを政府が一緒になってやってくれたりします。そこはやはりスイスにとっては時計産業が重要ですし団結も強いので。一部では日本ブランドを敵視する姿勢も感じられます(苦笑)。セイコーがクオーツを69年に出して売れ始めて、あのときは時計が全部クオーツになるというくらいの勢いでした。するとスイスのメーカーがみんな壊滅的な打撃を受けて、その恨みがまだ続いているという話もありますから。ただ彼らが頑張ったおかげでクラフトマンシップが90年代から再評価されて今度は我々が苦労していますが(苦笑)。

【山本】うちはむしろ、メード・イン・オーストラリアと、オーストラリアのブランドだという部分は強みだと思います。やはりナチュラル、オーガニックという話ではオーストラリアは非常に進んでいるので、機能面は日本の研究開発をいかに最大化していくかが重要だと思います。ところで皆さんは、日系ブランドとして、運営面でのローカライズはどういう状況でしょうか。ローカルの方にどの程度任せていますか?

【小泉】うちの場合は日本人は私一人でして、時計は大きい業界じゃないので現地社員含めても100人もいません。そういう意味では完全にオーストラリアの会社です。日本人が来て日本のやり方でやるというのはごく限られていて私が日本のブランディングの方針を理解して、その全てをオーストラリア式にしますね。

【山本】ブランドなり方針なりをオージーに理解させるのは時間がかかるんでしょうか。

【小泉】うちの部長以上のシニアマネジャーって勤続年数がすごく長いんです。20年以上です。おそらく2年おきに人が入れ替わってたら、永遠にその議論は続くと思うんですよ。社員からよく言われるのは、この国で10年20年という社員がこんなにごろごろいるのは異常だと(苦笑)。5年で日本人のトップは変わりますが、営業部長は20年、サービス部長は30年です。そこは時間をかけてやってきた部分なのかなと思います。

【藤本】うちは親会社が作った商品の輸入販売ですし、品揃えはほぼ親会社の方針に従っていますので難しくはないです。一番難しいのは店頭ですね。直営で運営していて、ローカライズはしたいけれども、一方で日本のブランドとしてのサービスであったり、売り場メンテナンスであったり、接客は実現させたいという思いはあります。店長や部長以上は、日本に行く機会があり、本社の社長の話を聞いて、日本の店舗やバックヤードを見せ、これがやりたいことだと伝える教育ができるので、理解は早いと思います。

【河合】私は、日本人とオーストラリア人の良いところを混ぜるにはどうすればいいかと考えています。彼らは行動力がある反面、自分が正しいと思うことは譲らない傾向にあるので、私としては人の組み合わせを考え、段取りをしながら会社としてよい方向に向かっていく、また私は日本の方針を現地に落とし込むというところですね。ただし、例えば日本でタトゥーが入った店員は却下ですが、そういう個性的なスタッフがフレンドリーにお客様にアドバイスするのは強みです。そういう意味では日本風の五大接客用語を教えるとかは全くないですね。

左からオーストラリア紀伊國屋書店の河合支配人と、ジュリークの山本会長兼CEO

左からオーストラリア紀伊國屋書店の河合支配人と、ジュリークの山本会長兼CEO

【山本】スタッフに対してもブランディングが必要ですよね。例えばヴィトンなら、どこの国でもヴィトンの価値が共有されています。そこまでうちのブランドを引き上げるには、やはり会社の取り組みとして従業員のベクトルを合わせていかないといけないと思うんです。評価というのは業績、つまり、売り上げになりがちですが、それだけだと売り上げさえ上げればいいのかとなるので、評価する基軸をブランド基軸において、そこも評価してあげるという形にしたいと思っています。ただ現場からすると、これやって売り上げが上がるのかっていう議論はなかなか怖いものです。でもやはり我々のブランドとしてこれが大事だからこういうステップをちゃんと踏んだら評価してあげるよと、これを達成したら評価する、というのがあるべき姿だと思います。

【小泉】小売りスタッフで、現地で日本人は採用していますか?

【山本】日本人だから採るということはしないですね。

【河合】ブランドの担い手としては特に日本人は考えていないですね。単純に条件が合えば採ります。

【藤本】うちもそうですね。狙って採ってはいないですけどもオフィスにも店舗にもいますし、ワーキングホリデーの人も応募してきます。オーストラリア人スタッフが、ワールドカップの日本代表が負けた時のきれいなロッカールームの写真をもってきて、これがやりたいんだというようなことを言ってオフィスを片付け出したりとか、学ぼうとはしてくれますね。

【西原】こちらの企業を買収したはいいけどその後のマネジメントで日本人と現地人との間で必ずしもうまくいってないケースもあるそうです。

【山本】我々もそのケースにならないようにしないといけませんね。そうなると日本人の駐在員が増えてたりします。研究開発などの部門にいてもいいと思うんですけど、管理職などに置こうとするとそういうことが起きてしまうので、買う方もそういうことを覚悟して交流を深めるとかを積極的にやらないと現地の人たちの定着だとかロイヤリティーみたいなものが根付かないんじゃないですかね。

【小泉】MUJIは日本人は多いんですか?

【藤本】今オフィスだと3分の1くらいですね。当然彼らは英語をしゃべれるので基本的には英語でしゃべってますし、僕も日本とミーティング会議する時もわざと英語でしゃべって、みんなに理解させたりしますね。メールも英語でも書いて、日本側もちゃんと教育しないと。それはオーストラリアだけの問題ではなくて、他の国でも困っていることです。日本人はグローバルと言いながらグローバルの対応組織や窓口に日本人を配置していたりする。それではそもそもグローバルとは言えないのではないでしょうか。現地の人たちの不信感につながらないようにしないといけないですよね。

【河合】うちも日本人はいますが、採用についてはその人のバックグラウンドもありますが、人を見ています。オーストラリア人は平等性を尊ぶので、社員間の情報の共有といった所では透明性の確保が大事ではないかなと思います。

【小泉】なかなか日本の本社からこちらの状況を理解してもらえないジレンマはありますか?

【河合】ありますね。わりと世界の片隅なので。週末とかに、晴れてたらもっと客来るんじゃないの?とか言われたりするんですけど、こちらは晴れてたらみんなバーベキューに行くので(笑)。

【藤本】季節が逆なので、うちも売り上げを報告する時に何でこれが売れてないんだという疑問があまりないことが最近分かりました(苦笑)。何が売れ筋かイメージされにくいのでしょう。

【小泉】やはりオーストラリアはどこにも属さないエリアだ、というところがありますね。どの事業部にエリア分けしたときにくるのか、ほんとはオセアニアなんでしょうけど、オセアニアだけってなかなかないのでどっかにくっつくと思うんですけど。

【小泉】店舗家賃とか人件費とかものすごく高いですけどちゃんともうかりますか?

【山本】我々も悩みとしては小さくないです。特に家賃、従業員の人件費。後はオーストラリアは景気が比較的安定していますので小売りの人間を取るのは難しいですね。かといってそれを価格に転嫁できるかというとなかなかそうではないのでそこは非常に悩ましいことですね。

【藤本】抜けていくテナントも多いし、家賃は交渉次第だと思います。

【西原】オーストラリア以外の国と比べると家賃交渉はどうですか?

【藤本】交渉しやすいですね。欧州などではそもそも受け付けてくれません。

【河合】うちも家賃は最大の課題ですが、ただどちらかというと人件費の方が高いという印象ですね。日本人の感覚だとキャッシャーの給料が祝日には時給が5千円近くになるのはちょっと難しいなあとは思います。これからどうするかは課題なんだろうと思います。

【山本】これはオーストラリアだけではないですが、オーストラリアでは人件費が最低2~3%毎年上がるので、ある程度そこを絞らなければならない。長期的に見たら人件費だけで相当上がっています。日本はそこまで上がらないじゃないですか。日本だと成績が悪かったら他部門に異動させるようなことができますが、こっちでそんなことやってたらどんどん膨らんでしまうので、ある程度入れ替えていかなければいけない。

【西原】最後に、今後のオーストラリアの市場見通しをお願いできますか。

【藤本】まだ小さい規模ですし、これから伸ばしていける店舗もありますので、ただ物を売るだけではなく、MUJIのコンセプトとか、考え方とかを丁寧に伝えていけばまだまだ拡大できるのかなと考えています。

【小泉】人口も増えてますし経済も活性化していますので有望なマーケットかなと思います。特に富裕層がきちんといるマーケットなのでセイコーとしても平均単価を上げて高いものを売れるようにステップアップしていきたいなと思います。

【河合】オーストラリアの出版業界は堅調に伸びているんだと思います。我々としても紀伊國屋書店の強み、弱みを分析してそれをきちんと速いサイクルで動かせればまだ生きていける業界であると考えます。

【山本】セイコーさんとかMUJIさんはブランドをしっかりと確立されている印象をすごく受けました。一定の富裕層にしっかりアプローチしていく、これはブランドがしっかり根付いて発信していく事が明確だからだと思うんです。我々はナチュラル、オーガニックの先駆けと言いましたが、正直言ってあぐらをかいているところもあったかもしれないと思うので、やはり我々が持っているすごいものをもう一度ブランド軸として動かしていきたいなと思います。オーストラリア発祥のブランドなので、オーストラリアの人々がジュリークに誇りを持てるようなブランドにならなければいけないと思いました。今日はとても参考になりました。

【西原】皆様ありがとうございました。(了)


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: 小売り・卸売り

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