【ASEAN】ベトナム医療は魅力的な投資機会か?(15)

2018年3月23日付NNA記事「製薬大手4社、2桁増益狙う 市場拡大受け18年も強気目標」(https://www.nna.jp/news/result/1740862)によると、ホーチミン証券取引所(HOSE)上場の医薬品メーカー4社による2018年の業績見通しは、市場の拡大を追い風にいずれも20%前後の増益を見込んでいるという。同記事によると、ベトナムの1人当たりの医薬品支出は25年には17年比で3倍弱の年163米ドル(約1万7,000円)に達するとされ、年齢構成の変化などを背景に今後は生活習慣病の医薬品などのニーズも高まるとみられる。

拡大する市場を追い風に医薬品各社は強気の業績目標を立てている。業界最大手のハウザン製薬(DHG)は昨年、税引き後利益が前年比1割減の6,400億ドン(2,800万米ドル)だったが、今年は2割増益の7,700億ドンを目指す。ドアン・ディン・ズイ・クオン社長代行は、「競争力ある新商品開発への投資を続ける。先端技術を使った商品を生み出せるよう海外の研究所とも協力する」と説明する。DHGは16年7月、大正製薬ホールディングスとの資本業務提携を結んでおり、提携3年目を迎える今年は協業の効果が期待される。

大手各社の強気の業績目標の背景に、医薬品市場の拡大がある。調査会社ベトナム・リポート社によれば、17年の国内市場は前年を52億米ドルで前年を10%上回った。今後5年は2桁ペースで伸びるとみられる。また1人当たりの平均医薬品支出も05年の9.85米ドルから17年に56米ドルに達した。今後も25年までは年平均14%以上のスピード成長が見込まれる。

保健省によれば、高血圧の患者数は人口の1割を上回る最大1,200万人に上る。また糖尿病患者は16年時点で人口の5.4%に相当する400万人を超え、過去10年間で倍増している。

市場の拡大に伴い医薬品流通では異業種からの参入も相次ぐ。デジタル機器販売最大手テーゾイ・ジードン(モバイル・ワールド)は昨年、中堅ドラッグストアのフックアンカン社を買収した。FPTデジタルリテール(FPTリテール)もドラッグストアへの参入が報じられているほか、デジワールドも機能性食品「キングスメン」のディストリビューターになった。

医薬品流通には外資の参入規制があり、地場が主導権を握る。短期間で1,000店体制を築いた実績があるテーゾイ・ジードンがドラッグストアでも大規模なチェーン展開に成功すれば、「調達コストの低減が可能になる。卸の中抜きなども起きるのでは」(業界関係者)との観測もあり、流通の在り方自体に変革が起きる可能性がある。

■今回のテーマは「ベトナム医療機関における医薬品や医療機器の調達」について

順調な拡大を続けるベトナムの医薬品業界は、ベトナムで医療サービスを提供する場合、ポジティブに働くのだろうか。

このシリーズのまとめとして、下記の10の医療サービスの進出の際に考慮すべき主要な点について、前回に引き続いて確認していきたい。

(1)現地で十分な患者数、また今後の患者数の拡大は見込めるか

(2)日本医療が現地での医療ニーズに対して十分効果的か

(3)(日本から医師を派遣する場合)現地で日系の医師が市民に対して医療行為を行うことが法規上可能か

(4)現地で日系の病院が提供するサービスに対して支払える「購買力」があるか(現地の所得水準が、日系医療サービスに対して支払えるレベルにあるか)

(5)日本企業に準じる、または上回る医療技術やサービスを提供している現地の医療機関はどの程度あるか(日系病院の強みが競合と比較してどの程度発揮できるか)

(6)現地で医療人材の確保が可能か

(7)集客面で好ましい立地の確保が経済的見合う形で可能か

(8)医薬品や医療機器など、現地において経済的に見合う水準での調達は可能か

(9)(日本から医師を派遣する場合)日本から安定して医師を派遣できる環境か

(10)現地で医療機関の設立が可能か(資本比率や許認可関連)

今回は、「(8)医薬品や医療機器など、現地において経済的に見合う水準での調達は可能か」について、ベトナムの医薬品・医療機器業界を取り巻く環境について見ていきたい。

■ベトナムの公立医療機関における医薬品・医療機器調達プロセス

ベトナムの医療機関における医薬品・医療機器調達プロセスにおいて、大枠を整理する。ベトナムにおいても、公立病院と私立病院では、その医薬品・医療機器の調達プロセスは大きく異なっている。

公立病院では、限られた予算内で対応する必要があるため、医療関連での調達に係る予算管理が厳しく、価格競争がより厳しい。基本的には年に数回行われる「入札」を通じての調達が基本だ。

予算管理は、病院の規模や管轄等によっても異なってくるが、基本的には調達に係る病院内の専門部署が、各科の専門医からの要望を反映しつつ、予算見合いで決定する。

ハノイ、ホーチミン、フエなど都市部の中央病院は相対的に設備も医師も充実している一方で、特に地方の中小の公立医療機関は、設備は極めて貧弱なのが現状だ。既にこのシリーズでも見てきたとおり、ベトナムの中央病院は慢性的に患者が溢れている。国の予算も優先的にあてがわれ、また各国のODA(政府開発援助)が寄せられているが、依然として現場の二^図を満たしておらず、潜在的な医療機器市場としては魅力的だ。

加えて、公立病院の数はベトナム全体の医療機関の約85%と、私立病院と比較して圧倒的に多く、従って今後の市場規模としての魅力度もそれだけ大きい。

■医師の裁量がより認められがちな私立病院

私立病院では、公立病院と比較してその数は限られており、加えて規模も小さい所が多い。病院規模にもよるが、予算管理は専門部署または担当者が各専門医からの要望を柔軟に反映して行うが、公立病院と比較するとより医師の裁量が大きい傾向がある。

特に、有名な医師であるほど、その病院の経営層に対する発言力が強いため、病院側の意向とは別に自らが使いたい医療機器を使いがちだ。そうした場合は、価格競争原理は働かず、「良い機器があれば積極的に購入する」意向がより顕著になる。

私立の中でも、特に外資系の病院は、そのグループ傘下の各国の病院がまとまって購入る「グローバル購入」が基本となる。この場合、ベトナムに購買担当者を置いているケースはまれで、シンガポールやその他の海外が管理しているケースが多いと言われている。

有力な私立病院は、設備の良さを前面に打ち出して患者の囲い込みを行いがちだ。従って、ある意味「広告費として」海外の高額な医療機器を積極的に購入する傾向にある。このような現地の有力な私立病院に対しては、日本のみならず海外の主要な医療機器・医薬品会社が積極的にアプローチをかけている。

■米系GEヘルスケアによるビンメック病院との提携

それを表す記事としては、2017年12月15日の、NNA記事「米GEヘルスケア、ビングループ系と提携」(https://www.nna.jp/news/result/1701306)がある。同記事によると、米ゼネラル・エレクトリック(GE)傘下の医療機器メーカー、GEヘルスケアは12月12日、地場コングロマリット(複合企業)ベトナム投資グループ(ビングループ)医療部門のビンメックと包括的な業務提携を結んだ。医療現場への先進的技術の導入と国際水準の人材育成が狙いだ。

この提携では、GEヘルスケアは医療画像や超音波、麻酔などの最新機器を提供する。能力開発では、主に循環器、腫瘍学における指導的立場の人材育成に協力する。GEヘルスケアの東南アジア担当者は、「教育や能力開発は、持続可能な医療システムの構築に不可欠。市民の医療へのアクセス、医療の質向上に長期的に貢献する」と強調した。

こうしてみてくると、冒頭の記事の話に戻るが、ベトナムにおける現地の製薬会社の事業拡大は、それが必ずしもベトナムにおける私立病院、特に外資系の病院にとっては、必ずしも購買量の拡大につながる話ではなさそうだ。ただ、ベトナムにおいてより医療ニーズが総じて高まっていることの、一つの表れであることは間違いないだろう。

<筆者紹介>

杉田浩一

株式会社アジア戦略アドバイザリー 代表取締役。カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学および生物学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)経済学修士課程卒。15年間にわたり複数の外資系投資銀行にて、海外進出戦略立案サポートや、M&Aアドバイザリーをはじめとするコーポレートファイナンス業務に携わる。2000年から09年まで、UBS証券会社投資銀行本部M&Aアドバイザリーチームに在籍し、数多くのM&A案件においてアドバイザーを務める。また09年から12年まで、米系投資銀行のフーリハン・ローキーにて、在日副代表を務める傍ら東南アジアにおけるM&Aアドバイザリー業務に従事。

12年に、東南アジアでのM&Aアドバイザリーおよび業界調査を主要業務とする株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。よりリスク度の高い東南アジア案件において、質の高いアドバイザリーサービスの提供を目指してASEAN各国での案件を遂行中。特に、現地の主要財閥との直接の関係を生かし、日系企業と現地企業間の資本・業務提携をサポートしている。


関連国・地域: ベトナム日本
関連業種: 医療・薬品

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