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「豪州政治に寛容性あり」 D・ローウィさん(時事漫画家)インタビュー

日本とオーストラリアの新聞で最も違う点の一つに、時事漫画がある。日本の大抵の新聞にも掲載されているが、風刺や皮肉がほとんど効いていないものが多く、その存在もあまり目立たない。だがオーストラリアでは、読者が赤面するほど露骨に権力を冷やかすような風刺が多い。全国紙オーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー(AFR)に毎日掲載される時事漫画家のデビッド・ローウィさんが描く漫画は、オーストラリアに住むビジネスマンであれば誰もが見たことがあるだろう。ローウィさんは昨年末、オーストラリア時事漫画家協会の金賞(Gold Stanley)を受賞した。ローウィさんに、仕事の舞台裏について聞いてみた。【NNA豪州編集部】

――同協会主催の金賞の受賞は5回目だそうですね。そもそも漫画家になったきっかけは何ですか。

幼い頃から絵が好きで、画家になりたくて自分で勉強したりして、いつも絵を描いていたのです。私はオランダ生まれで、5歳でキャンベラに移住してきました。というのも父がオランダの外交官で、政治に関することはいつも周囲にあり、慣れ親しんでいました。

まだ学生の頃、キャンベラの新聞「キャンベラタイムズ」に作品を自主的によく送っていたら、次第に時事漫画の仕事をもらえるようになったんです。その後ロンドンにも移り住みましたが、ロンドンは雨ばかり降って好きになれなかったので、オーストラリアに戻ってきたら、私が帰ってきたと知ってキャンベラタイムズの編集者が、私をAFRに紹介してくれたのです。

オーストラリアの新聞は、皆カラーを好みます。だいたい一つの作品は、構想の時間を除くと2時間くらいかけますね。

時事漫画家オブザイヤーを受賞したデビッド・ローウィさん

時事漫画家オブザイヤーを受賞したデビッド・ローウィさん

――特定の政治家にきつい風刺を含むケースがよくあります。本人たちからの反発や圧力はあるのですか?

うーん、それはありませんね。

――全くないのですか!

例えばある政治家が、AFRの政治ジャーナリストに「デビッドに『あまり俺のことを厳しく描かないでくれ』と言っておいてよ」と、ジョーク半分に言うケースはあるようですが(苦笑)。また、現在はスカイニュースのコメンテーターを務めるペタ・クレドリン(アボット政権時代の元首相主任補佐官)に会った時にも、彼女のことをかなりやゆして描いたので気を悪くしているだろうと思ったのですが、本人は「いえいえ、そんなことないわよ。気に入ってるわ」と言っていましたね。

スコット・モリソン財相に会った時も、彼はそんなにシリアスに受け取ってはいませんでした。時事漫画には目くじらを立てないというのが、オーストラリアの政治文化なのです。

TPPの船に乗るターンブル首相が、トランプ大統領をもりで突こうとする安倍首相に「鯨(捕鯨)について話したいんだけど…」とひと言。日豪会談を受けて。

TPPの船に乗るターンブル首相が、トランプ大統領をもりで突こうとする安倍首相に「鯨(捕鯨)について話したいんだけど…」とひと言。日豪会談を受けて。

――ローウィさんはアボット前首相をよく描いていますが、その冷やかしの程度は目に余り、度を超しているように見えます。

最近、米国のトランプ大統領をよく風刺して描いていますが、アボット前首相は「オーストラリアのトランプ大統領」のような存在です。彼は時にあきれるようなことを決めたり、話したりしてきたからです。そういうことをする度に、つつきたくなるのです(苦笑)。

――ターンブル首相に比べ、アボット前首相は日本びいきで日本の政治家や産業界には人気があったので、あれだけコケにされるのを見るのはやや気の毒な感じがします。

2014年度の予算案を覚えていますか? あれは全くひどいものでした(※筆者注・アボット政権初の予算案は、過去20年間で最も厳しい緊縮予算として、国内各地で抗議デモが行われた)。また、英フィリップ殿下にナイト称号を贈るとか(※2015年当時のアボット首相は、独断でエリザベス女王の夫、フィリップ殿下にナイト称号を贈ると発表した。これに国内から批判が噴出し、後のターンブル首相が、勲章制度としてアボット前首相が復活させた「ナイト」「デイム」の称号を現代にはそぐわないとして廃止)。あれ以来、チクリチクリと針で刺すようにアボット前首相を風刺するようになりました。

――ターンブル首相についてはどう思いますか?

やや失望しています。以前は非常に強いリベラルな主張を持っていたのに、今は首相の地位を守るため、それを押し通すことができなくなっているようです。現在、支持率が下がっているのは理解できますね。

ターンブル首相はもともと、保守の中でもソフトな労働党寄りの側にいたので、労働党寄りのシンパを失望させているのです。かといって、労働党にしてみれば生半可な立場です。保守派の支持者にもアピールできていない。つまりほとんど、死人が歩いているようなレイムダックと化しているのです。「スピーチがうまい、弱いリーダー」です。

――自由党のほかの政権幹部についてはどう見ていますか?

ジュリー・ビショップ副首相は、いつも政権内で仕える上役には誠実だというふりをしていますが、政変が起きた時にはいつも、その上役の背後からナイフを突き立てるようなことをしていますね(※アボット氏を首相の座から引きずり下ろした「ターンブルの乱」でも、ビショップ副首相がターンブル氏に寝返り、政権転覆の舞台裏で暗躍したとされる)。スコット・モリソン財務相やピーター・ダットン移民・国境警備相は硬派だと言う人もいますが、私には分かりません。

最近はだれがいい政治家なのか分かりにくくなっていますね。

――これまでに描いた時事漫画がボツになったことはありますか?

この24年間で1~2回ですが、あります。トイレを描いて、ひどい政治的なメッセージを込めたのですが、それがやりすぎだとしてボツになりましたし、ターンブル首相の件もボツになりました。

――それは編集者の政治的意向と関係がありますか?

そうでしょうね。ただし自分で描いていますと、例えばAFRなら何が良くて何が悪いというセンスは分かってきます。それでも、基本的には制限はないです。政治コメンテーターとしてテレビなどに呼ばれることもないですし、極めて自由です。

オーストラリア政府は、銀行業界の相次ぐ不正に関して調査する王立委員会設置。ただし強欲なブタの四大銀行は痛がるふり。「少なくとも痛がってるようには聞こえるだろ」

オーストラリア政府は、銀行業界の相次ぐ不正に関して調査する王立委員会設置。ただし強欲なブタの四大銀行は痛がるふり。「少なくとも痛がってるようには聞こえるだろ」

――ローウィさん個人的には、保守連合派ですか、労働党派ですか。

個人的には、どちらかと言うと労働党寄りでしょうか。労働党の家庭で育ったので。でも政策的には似通っているので、中立と言えるかもしれません。

――ローウィさんの漫画には、時に民間のビジネスマンもからかいの対象としてまな板に載せていますし、地元の四大銀行を4匹のブタとして描くこともあります(3ページ参照)。問題にならないのですか?

オーストラリアではよくあることで、その程度なら全然問題ないですね。大手銀行なら、もっと人物を特定することもできます。

ツイッターを手にしながら、岩のドームを平和のハトでおもちゃにする米トランプ大統領。

ツイッターを手にしながら、岩のドームを平和のハトでおもちゃにする米トランプ大統領。

――フランスの政治週刊紙「シャルリー・エブド」の時事漫画がかつて、イスラム教を冒とくしたとして社会問題になったように、オーストラリアの時事漫画にもタブーはありませんか。

確かに、宗教を汚すといった内容は気を付けないといけませんね。以前、インドとパキスタンの国境紛争の問題についての時事漫画で、ヒンズー教の神のガネーシャが原子力のおもちゃをジャグリングしている、といった漫画を描いたのですが、オーストラリアのインド大使館から反発を受けたことがありました。心情的にはインド寄りのメッセージを含めたのですが、でも問題はその政治的内容ではなくて、神様であるガネーシャを冷やかして描いたこと自体にあったようです。キャンベラの新聞社の編集責任者がインド大使館に謝罪に行っていました。

最近も、トランプ大統領が岩のドーム(※イスラエルのエルサレムにあるイスラム式神殿。イスラム教の聖地のひとつ)に座っている漫画を描きました(3ページ参照)が、これはそれほど問題になりませんでした。読者の側にある程度の寛容性がなければ、メッセージは伝わりません。

――逆にAFRからローウィさんへの要請はあるのですか。

バランスを取るように、とは言われています。ただし私の時事漫画の内容から、多くの読者は私を、左寄りの労働党シンパの漫画家だと思っているでしょう。でも、労働党が政権を握ったら、私は同じように労働党を批判すると思いますよ。その代わり、政治情勢を日々勉強する必要がありますね。できるだけ多くの新聞を読みます。

――各紙の論調は、ローウィさんの漫画に影響しますか?

それはありませんね。以前、ニューズ系であるオーストラリアン紙が時事漫画を描いて欲しいと依頼してきたことがあったのですが、私は断りました。オーストラリアン紙のためには描きたくないのです。その理由の一つとして、編集者から「これこれこういうトーンで描いて欲しい」などという条件があったのです。ニューズ系メディアは、フェアファクス系よりも編集者が力を持っているのでしょう。私は断って良かったと思っています。何よりも、いい漫画家なら、自分独自のアイディアを生かして描くことに喜びがあるはずですから。(聞き手=西原哲也)


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: メディア・娯楽マクロ・統計・その他経済政治社会・事件

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