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【特集企画】会計ビッグ4特別座談会(上) 10年後の会計業界を占う

近年、オーストラリアやニュージーランド(NZ)市場で、デロイト、EY、KPMG、PwC――の会計大手ビッグ4によるコンサルタント業務の拡大が目立つようになってきた。オセアニア市場で、ビッグ4はどこに向かっているのか。そこでNNAオーストラリアはこのほど「10年後の会計業界」をテーマに、ビッグ4の日本人代表者4人による座談会を開催し、4氏と率直な意見交換を試みた。【聞き手=NNA豪州編集部・西原哲也】(4氏の意見は各ファームを代表するものではありません)

【西原】今回はお集まりいただいてありがとうございます。今回の企画はビッグ4の日本人代表者が同じテーマでディスカッションするというもので、大げさに言えば「世界初の試み」ではないかと思っています(笑)。まず、それぞれのファームについての特徴を教えてくださいますか。

【竹中】デロイトの竹中です。デロイトは特にコンサルティングを強みとしています。この潮流は世界的にも同様ですが、日本人メンバーは会計、税務、M&A(合併買収)を中心に、日本企業をどうサポートできるかを日々考え、取り組んでいます。

【菊井】EYの菊井です。EYの特徴としては、ファームとしてグローバル化が特に進んでいることが言えると思います。グローバルにネットワークなどを使ってお客に対応していくというのがポリシーで、そこは強みといえると思います。

【大庭】KPMGの大庭です。うちのアドバイザリー業務では、ITやM&A関連を多く行っています。これは会社自体がいろんなアドバイザリー業務のファームを買収し、M&Aサービスも年々増えているというのが一つの特徴だと思います。

【神山】PwCの神山です。PwCとしては日系企業部およびファーム全体としても、例えばコンサルティングのチームが、アドバイザリーチームと一緒に動く形で、トランザクションのみならず企業買収後のサポートも含めて共に活動しています。

【西原】デロイトやKPMGは国ベースで活動していたり、PwCはグローバルなワンファームですし、EYだとアジアやEU、日本と地域ごとに分けていたり、4社のグローバル体制がやや異なっている組織構造があります。それぞれのメリットは何でしょうか。

竹中真一(デロイト)
日系サービス統括パートナー
公認会計士(日本、豪州、米国)

竹中真一(デロイト) 日系サービス統括パートナー 公認会計士(日本、豪州、米国)

【竹中】例えば監査面では、親会社主導で世界全体の子会社の監査を行い、各国で同じ手法でやらないと意見形成ができないので、世界全体のワンファームでやっていく利点は大きいです。一方で、現地特有の事情を考慮したサービスができなくなってしまう懸念はあります。メリットもあればデメリットもあるという気はしています。ただ、全体としてはグローバル共通のプラットフォームづくりを重視する流れはあると思います。

【大庭】KPMGはグローバルでフランチャイズ制ですが、プロフィットセンターをどこにするかが基本的な問題だと思います。基本的には国単位だと思いますが、フランチャイズ制内でサブプロフィット・センターというコンセプトもあり得ると思います。アジア国間の取引関係は密接で、各国の事務所間で追加の協力体制を築くというのが理想ではと思います。

【菊井】EYはグローバル化が進んでいて、メリットはとても大きいのですが、その体制を作るのはチャレンジングです。会計事務所のストラクチャーはパートナーシップで成り立つ企業ですから、各パートナーが利益を享受しあう体制を作らねばならない。株式会社のように、株主と経営の分離や、社長からスタッフへと権限移行される組織体制でないですから。パートナーの経験や知識をどう共有するか、パートナーシップは横と横のつながりで連携していくので、いかに効果的に情報を共有して問題を解決できるチームを作るかがグローバルネットワークを作る大きな課題となります。

【神山】伝統的には例えばタックス部門などでは縦割りになっていて、国ごとに分かれて各パートナーがそれぞれ島を持っていくことで、対応できていたところもあるのですが、現在は戦略的に大きく変わってきています。そういう面ではいかに「横串を刺すか」が重要になっていくと思います。そこで弊社でも各パートナーがいかに横串を刺してクライアントのサポートができるのか、そしてそれをやろうとした時にやはりオーストラリア国内だけではなく、日本であったり、アジアを巻き込んでトライアングルの形をなしてアプローチをしていこうとするのがひとつの動きではあります。

左から神山氏、大庭氏、菊井氏、竹中氏、西原

左から神山氏、大庭氏、菊井氏、竹中氏、西原

【竹中】横串を刺す、というのは海外にいる我々の伝統的な役割でして、日本人としてクライアントのコンパクトパーソンで、ファームの中の専門家に横串を刺しているわけです。だから専門家を説得したり、巻き込んだりしていくのが結構大変で、たぶんそれで皆さんも苦労していると思います(笑)。

【西原】ところで日本でも問題になりましたが、海外子会社の会計に不正が見つかったようなケースで、フランチャイズ制による監査見解の統一が問題をややこしくしたような側面があります。

【大庭】日本の会計士が海外に行って、現地で監査するというのは実務的に不可能な話で、その国の会計士に頼らざるを得ません。そこで意見の相違が出る場合は、現地国の会計士の意見を尊重するという基本は変わらないと思います。

【竹中】そうですね。監査するというのは変わらないですが、その国によってレギュレーションが違います。例えば、とても大きな子会社が米国にあるとしたら、米国の会計士から了承を得ないと日本の会計士も連結全体の監査意見を出せないです。やはり国単位で監査をやらざるを得ないというのは変わりないのですが、しかしその過程で、齟齬(そご)が生じないように、マニュアルや考え方の統一というのは進めていく必要があると思います。ガバナンスの話はすごく難しいですね。

【西原】ではアドバイザリー業務に関してですが、4社とも最近、いろんなアドバイザリー企業を買収しています。これは何を示していますか?

【竹中】たぶん、監査の割合が低いデロイトが話しやすいと思います(笑)。デロイトはコンサルを大きくする戦略をここ10年くらい行っています。オーガニックな成長は10%強程度でこれに買収分が上乗せされます。クライアントの要望も最近、テクノロジーやAI(人工知能)、ロボット化など多様化していますよね。我々が既存で持っているサービスでは対応できず、ブティックファームで開発しているケースも多いです。自分たちで養成してスペシャリストを作るよりも既存ファームを買った方が早く、すぐに提供できますので、将来成長する見込みのあるファームをどんどん買っているのが最近の傾向で、年間に2~3社買収しているイメージです。

菊井隆正(EY)
パートナー/
アジア・オセアニア地域統括ジャパン・ビジネス・サービス

菊井隆正(EY) パートナー/ アジア・オセアニア地域統括ジャパン・ビジネス・サービス

【大庭】弊社は、日本や米国でもアドバイザリー業務を伸ばそうとはしているのですけど、もともとオーストラリアはアドバイザリー業務の占める割合が大きいです。そうしたビジネス・カルチャーがオーストラリアにはもともとあります。

【神山】弊社は大きいところでは、2014年にブーズ・アンド・カンパニーというコンサル会社と経営統合しました。現在は監査法人というよりは、どちらかというと「プロフェッショナル・ファーム」というような位置づけで、コンサルチームが大きくなってきています。

【菊井】ビッグ4の役割は、かつては違っていました。会計事務所といえば、監査や税務が主流でしたね。オーストラリアがグローバルになり始めたのは、2000年のシドニーオリンピック、資源ブームに火が付き始める04年くらいからでしょうか。企業の組織が大きくなる過程で、会計事務所のサービスの拡張が始まって、投資アドバイスや業務改善などのアドバイサリーなどの需要が増えてきたのでしょう。でも、一時米国のエンロンの問題があった時に、アドバイサリーなどのサービスを切り離した時代もありましたけど(笑)。

【竹中】ビッグ4はメンバーファームごとに対応は異なりましたけど、多くがコンサルティング部門を分離しましたね。

【菊井】今はまた風潮が変わってきて、シナジーを求めてサービスを拡張したり、オーガニックな成長よりも買収で組織をどんどん変えてきたと思います。数年前にEYがマーケティング調査会社を買収したんです。なぜ会計事務所が?と思ったのですが、投資コンサルのデューデリジェンスの一環でブランディング調査などもできるわけですね。また製品開発のフロント調査をして、業務プロセスのコンサルに広げるなど、そこからアドバイザリーに入ったりするんです。

【竹中】独立性を保たなければいけないので、足かせになる監査を切り離すという選択もあるかもしれませんね。

【菊井】あり得ますよね。やはりグローバルになるほど、全体的に判断しますよね。一地域でしたら、そこだけの論議で済みますが、グローバルで提供している以上、監査をどうするかについては世界規模で決断せねばならないプレッシャーはあると思います。

【西原】ちなみに、ビッグ4で監査の比率が高いのはどこですか?

【竹中】オーストラリアはどこも低いですが、世界的にはPwCさんでしょうか。

【神山】逆にPwCは日本において監査部門が大きくないので、そういった面では独立性の縛りが少なくなることから、M&Aやアドバイザリー業務は逆に動きやすかったりします。

【西原】一定期間後は強制的に監査会社を替えるローテーション制度をオーストラリアに導入すべき、という意見についてはどうですか?日本が考え始めているようですが……。

【竹中】監査事業にはデメリットなところもありますが、監査提案の機会が広がっていくというメリットもあります。ローテーションが導入されるのでしたら、いつかは監査から外れるということなので必ずアドバイザリーにならないといけないですね。なので両方やる必要があります。そうなると監査を切り離す議論はたぶんないと思います。

大庭正之(KPMG)
グローバルジャパニーズプラクティス・パートナー
米国公認会計士

大庭正之(KPMG) グローバルジャパニーズプラクティス・パートナー 米国公認会計士

【大庭】監査法人のローテーションに関しては米国ではまだ検討されていないと思います。欧州はすでに導入しているので、欧州モデルがある程度参考になると思います。導入されれば、会社側も会計事務所も、追加負担が発生します。新監査人に会社はまた一から説明しなければならない。互いに負担がかかります。欧州ではまだ導入したばかりで、監査の客観性を維持できるメリットがどの程度なのか、市場ではまだ見極められていません。

【竹中】入札機会は増えますが、クオリティーが維持できない懸念があります。監査の初年度というのは、コストが普通のランニングベースの倍くらいかかるので負担が大きいです。1年目のコストを上乗せできず、さらに入札時に相当ディスカウントするケースが出てくるので、クオリティーへの懸念が出てきます。

【菊井】入札に関する監査に関しては、独立した監査という立場に対して、監査フィーの競い合いにある程度規制を入れる議論はあってもいいかと思います。かつての日本では、企業規模によって監査料はこのくらい、と決まっていましたよね。効率化を求めて本質を失うと監査市場が混乱するし、クオリティーも損なわれてしまう。

【西原】オーストラリア当局の間で、ローテーションを導入すべきだという空気はあるのですか?

【竹中】オーストラリアは、結構頻繁に監査会社を変えてしまうのです。こだわりなく。ただ制度となると、議論になるのではとは思います。

【大庭】仮にオーストラリアで導入される場合、上場会社に限るべきだと思います。非上場会社も対象にすれば、日本が導入されていない状況で、豪州子会社の監査人を変えなければならない。もし重要な子会社が対象になった場合、日本で監査意見の表明に支障をきたす場合も出てきます。

【西原】話は変わりますが、AIの影響についてはどうでしょうか。監査、アドバイザリー、税務、それぞれ違うと思いますが。

【大庭】すべての業務に影響があると思います。アドバイザリーでは、AI関連サービスを売る方に影響が出ると思います。

【竹中】売るサービスで一番流行しているのはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)。アプリを横断する大きなマクロみたいなもので、例えば自動で経費申請が全部合っているかリサーチしたり、受注処理を入力したり、そういうものをすべてやってくれます。

【菊井】皆さんが言っているように、AIに関してはこれから我々の業界にとって好機にもなるし、脅威にもなると思います。会計事務所の一部の機能では会計士自体が必要なくなるでしょうし。将来を予測することは難しいですが、例えば50年後、ビッグ4はAIの導入で大きく変化しているかもしれませんし、すごく可能性を秘めていると思います。

【竹中】監査では、多くの人手を要したチェックはすべてAIにやらせたり、金融機関のデータをそのまま引っ張って突き合わせたり、そういったものがどんどん増えていく。すると我々の、人的リソースが余ってくるので、会計事務所ももっとできることが増える。投資家の期待も高まり、テクノロジーを使った多くの新しい業務が出てくる。アナリスト情報のように将来情報の何らかのチェックをやる必要性も出てくるかもしれません。

【大庭】2030年までにどれだけの仕事が自動化できるか、という日本のデータがあります。自動化可能率は、公認会計士業務が89.9%、税理士業務が92.5%。一般の会社の会計業務に関しては99.8%というリサーチが出ています。単純な作業はほとんど自動化する。逆に自動化できない分野が何かというと、会計士の高度な判断が入る部分、例えば減損等の会計問題です。しかしながら、よく考えると減損に係る判断は将来の予測に関することです。この将来の予測のために膨大な情報を集める作業があり、この部分はAIができるのではないかと思います。

【西原】AIが代わりにやるのだから、ビッグ4に頼まなくてもよいという会社が出てきて、ビッグ4としてはマイナスになるような気がしていました。

【大庭】監査に関してはグローバルでネットワークは非常に重要です。

【竹中】それに、国ごとにレギュレーションも異なります。あとはビッグ4自体の名前に価値があるとは思うので、ビッグ4ならこの水準でやってくれている、という価値はあるとは思います。

神山雅央(PwC)
PwCオーストラリア・パートナー
ジャパンサービスデスク統括リーダー

神山雅央(PwC) PwCオーストラリア・パートナー ジャパンサービスデスク統括リーダー

【神山】AIや自動化の導入に伴って人的リソースが要らなくなる部分ももちろんあると思います。例えば個人所得税申告関連ですと、10年以内にオーストラリアでは申告書を作る作業自体がなくなると言われています。これは税務当局により申告書が作成され、納税者側で異議がなければそのまま申告手続きを完了します、というような動きになると予想されるものです。それと同時進行で、今ないビジネスやサポートというのは増えていますので、新たな分野で人的リソースは必要になるのではと思います。膨大なデータ分析でのAI利用は間違いなくスタンダードになると思います。

【大庭】会計士のデータの判断能力というのは、入所して最初の5年とか、現場で雑巾がけのような仕事をやりながら判断能力が徐々に養われてきます。AIの環境では、判断効力を有する人材の育成に関して、かなり根本的に変えなければならないと思います。人材教育のあり方自体が変わってくると思います。

【全員】どうなるのですかね(苦笑)。

【竹中】すると、判断ツールのELearningが開発されるのではないですか(苦笑)。

【西原】AIの浸透度という意味では、現在どのくらいの位置にあるのですか。

【大庭】デジタル化はすごく進んでいますが、この業界は、AIというレベルにはまだ到っていないです。ただ思ったより早いスピードで来るとは言われてはいます。10年、20年とかそんな長い期間ではなくて、もっと早いスパンで来るとは思いますけど。

【菊井】アジアで検討されている企業も幾つかあります。あるタイの会社は、経理を20人以上で賄っていますが、AIが導入されると数人で済んでしまう。後の人は要らなくなってしまうわけです。

(明日付に続く)


関連国・地域: オーストラリア
関連業種: サービスマクロ・統計・その他経済

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