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【アジアで会う】輿石光希さん 看護師 第112回 健康管理と医療現場の改善を支援(ベトナム)

こしいし・みゆき 山梨県勝沼町(現甲州市)出身。特産品のブドウなどを生産する果樹農家に生まれ育つ。東京の看護学校を卒業後、日本で計26年間にわたり実務経験を積んだ。2012年に医療関連のコンサルティング会社、ジョインハンズ(東京都港区)を設立。昨年からベトナムのホーチミン市にある医療施設で外国人窓口の立ち上げに携わり、現在は同施設に看護師として勤務する。

淡いピンク色のナース服に優しい笑顔――。輿石さんに会った途端、医療施設にいる緊張感がふっとほぐれた。ホーチミン市中心部から車で30分ほど走った6区にあるホアンカン医療センター。輿石さんは、今年4月に外国人窓口が開設された同センターに看護師として勤める。その傍ら、在留邦人向けに健康管理を通じた予防医療や子育て、婦人科系の悩みなどに関する無料セミナーを週2回開催するなど、精力的に活動している。

看護師を目指すきっかけとなる出来事が起きたのは、小学校5年生の時。湯沸かし器を止めようとして熱湯が入った浴槽に誤って転落し、全身の20%にやけどを負った。病院の酸素テントに入れられ、医師からは「今夜が峠」と告げられたという。奇跡的に一命を取り留めたが、体のケロイドがひどく、3回にわたり形成手術を受けた。手術後に襲う猛烈な痛み。「痛みに苦しむ中、懸命に看てくれる看護師の存在は大きく、『自分も将来ああなりたい』と思うようになりました」。今も残るやけどの痕を見つめながら、当時を振り返る。

■30代半ばで師長に抜てき

東京の看護学校を卒業後、日本大学医学部附属板橋病院に5年勤務。結婚・出産後も仕事を続け、埼玉県の市立病院では30代半ばにして師長に抜てきされた。計17年にわたり内科や循環器・心臓血管外科、小児科などの病棟で経験を積み、大勢の患者との出会いと別れを通じて死生観を学んだ。「余命が短いと分かっている患者さんには、残された時間で何がしたいか希望を聞いていました」。患者の死に直面し、遺族や同僚らと涙を流したことも多々あったという。

看護師として忙しい日々を送る中、山梨県の実家が全焼したとの知らせが届いた。時を同じくして、父のがんが発覚。両親の面倒を見るため20年以上続けてきた看護師の仕事を辞めたが、退職直後に父は帰らぬ人となった。

とりあえず1年は働かない――。不幸が重なった心労で、知人からの復職の誘いをかたくなに断り続けていた。しかし、ある再会が輿石さんの心を変えた。人手が足りない診療所の手伝いをしていた時、過去に看取った患者の遺族が偶然にも訪れたのだ。「遺族の方から感謝の言葉を聞いた瞬間、また看護師として働きたいと思いました」。その後、法人病院に副看護部長として勤務し、病院の新築移転や電子カルテの構築、看護部の教育などに携わった。

■二つ返事でベトナムに

法人病院に3年勤めた後、独立して医療関連のコンサルティング会社を設立。会社の代表として奔走する中、知り合いの日本人医師からホアンカン医療センターでの外国人窓口立ち上げの話を持ち掛けられた。ベトナムは訪れたことすらなかったが、「『ベトナムの医療水準を上げていきたい。やってみるか?』と聞かれて、『はい!』と即答した」。なぜ即答したのか自分でも分からない。「動物的な勘かしら」と笑う。昨年から窓口開設の準備に携わり、社会人になったばかりの娘と大学3年生の息子を日本に残し、今年4月に単身でベトナムへと渡った。

病院にあふれる患者とその家族、日本では使われていない旧式な医療器具、素足にサンダルで働く看護師たち――。ベッド稼働率198%といわれるベトナムの医療現場は衝撃の連続だった。ベトナムに進出する日系企業は右肩上がりに増え続けているが、日本人が安心して受診できる医療施設は少ない。「高温多湿で大気汚染が問題となっているベトナムでは、病気にならない、病気になっても悪化させないための『予防医療』が大切」と語る。

「『患者の身体的、精神的な痛みを和らげる』『出会えてよかったと思われる存在になる』。この看護観は、看護師になった当初から揺るぎません」。在留邦人の健康をサポートする傍ら、8月からホーチミン市の看護大学で教壇に立つ予定。日本で長きにわたり培った知識と技術で、ベトナムの医療改善に全力を尽くす。(ベトナム版編集・本田香織)


関連国・地域: ベトナム
関連業種: 医療・医薬品

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