2003/04/08

第66回 大志(保定)電器、中国に「コーヒー革命」を



大志(保定)電器は今年、大きな賭けに出た。これまでの中心事業だった電子部品のOEMから撤退、新たに開発した電器製品の普及に全力を注ぐ。視界の先に広がっているのは、巨大な可能性を秘めた中国コーヒー市場だ。

工場風景
大志(保定)電器は今年から、全自動コーヒーメーカー「曼特詩」の生産を始めた。生のコーヒー豆を使うのが特徴で、焙煎、ミル、ドリップを1台でこなす。

使用法は、機械についている焙煎釜に生豆を投入し、ドリッパーにフィルターを付け、タンクに水を注いでスイッチを入れるだけ。生豆は好みの深さに焙煎され、冷却して一度ストックされる。その間、先にマシン内にストックされていた焙煎豆を好みの粗さで挽き、適温の湯でドリップ。約10分ほどで10杯分の本格コーヒーができ上がる。

■新しいコーヒービジネス

同社は「曼特詩」を企業などに販売またはリースし、「曼特詩」を導入した顧客は、同社から定期的にコーヒー豆を購入する。

磯江則明・董事長によると、このビジネスを始めたのは「中国のコーヒーは高くてまずい」という思いがあったから。中国のコーヒーショップでは焙煎豆や挽いた豆をストックして使用している場合が多いが、コーヒー豆は焙煎してから10日、挽いてから3日もすれば鮮度が失われてしまう。生豆を使うコーヒーメーカーなら、いつでも新鮮な香りを楽しめる。「ライバルは焙煎豆」を合言葉に、新しいコーヒービジネスへの挑戦が始まった。

マシンの開発では、味の決め手となる焙煎時間や温度の設定、また焙煎の際に生じる煙対策に苦労した。何度も試作を繰り返し、いよいよ事業スタートと思った矢先に不具合が見つかって再調整を余儀なくされたこともある。コストを下げるため、マイコンと煙除去用の触媒を除く全ての部品は中国製。納得のいく部品を調達するため、各地のメーカーを訪ねて回った。

豆は日本の専門業者から輸入し、同社で10杯分ずつ小袋にパッケージして顧客に販売する。「コロンビアブレンド」「モカブレンド」「ブラジルブレンド」「ブルーマウンテンブレンド」「タイシブレンド」の5種類があり、一番人気はオリジナルの「タイシブレンド」だ。このブレンドを決めるため、スタッフは毎日数十杯のコーヒーを飲み続けた。磯江董事長は「最後には味も香りも分からなくなる。本当に切なくなるほどコーヒーを飲みました」と当時の苦労を振り返って笑った。

2度目の大転身

磯江董事長
中国で十数年のビジネス経験を持つ磯江董事長は、かつては地方の銀行マンだった。バブルの絶頂期に「銀行ビジネスに疑問を感じて」退職。製造拠点としての中国に着目し、1989年に持ち株会社となる株式会社タイシ(本社:鳥取市)を立ち上げると、翌90年に河北省保定市に電子部品のOEMメーカーとして大志を設立。専門技術はなかったものの、大手メーカーの生産請け負いで順調に業績を伸ばした。

しかし、99年頃から顧客メーカーが中国で部品の自社生産を行うようになり、OEM専門だった大志の受注は減少。2000年に電子部品からの撤退を決意し、新ビジネスとしてコーヒー事業に着手した。

磯江董事長は「今後は市場としての中国で勝負する」と語る。ある調査によると、中国の都市部での1人当たり年間コーヒー消費量はわずか4杯。近年はコーヒーショップが急速に増えていることを見ても、中国がコーヒーの巨大な潜在市場であることは明らかだ。

同社のコーヒー事業は今年からようやく動き出したばかりだが、すでに北京の日系企業を中心として100台の「曼特詩」をリースした。近く上海にも営業拠点を設ける計画で、今年2,000~3,000台の普及を目指す。

利用者が増えれば増えるほど、マシンの生産コストも豆の輸入コストも下げられる。磯江董事長は「商社などと提携して代理店制度を確立できれば理想的。全国に1万台以上『曼特詩』を置ければ、中国のコーヒー市場は大きく変わる」と夢を語った。

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