2001/02/26

第18回 天津雅馬哈電子楽器<ヤマハ>、世界に響け、鍵盤が奏でるハーモニー



エボニー&アイボリー、完全な調和を保ちながらピアノの鍵盤の上に並んでいる――。ラインを流れる白黒の鍵盤を眺めていると、昔憶えた曲がふと頭を巡った。機械や台車の音に混じって、時折聞こえる電子音。なんだか懐かしい響きだ。

吉川総経理

ヤマハ最大のポータブルキーボード生産基地「天津雅馬哈電子楽器有限公司」は、天津経済技術開発区に位置する。1990年4月の創業以来、順調に生産台数、業績を伸ばしてきた。同社の現在の年産台数は世界全体の30%強に当たる約100万台。世界のポータブルキーボードの約3台に1台は天津ヤマハ製ということになる。2000年の売上高は8億6,000万元、税引き前利益は7,900万元に達し、2001年も増益を見込んでいる。

■繁忙期は夏~秋

「もう手狭でしてね。倉庫も外部で借りているし、委託できる作業は外注にお願いしているんですよ」と語るのは、同社の吉川良正総経理。「これでも今は閑散期だからいいですけどね」。同社の繁忙期は7~10月。欧米のクリスマス、ニューイヤー商戦向けだ。毎年5~6月ごろに新製品を発表。10月末の船積みに向け、工場は7~10月の4カ月間、24時間のフル稼働となる。

同社製品は現在、全体の約85%が世界各国に輸出されている。最大供給先は米国で全体の30%強を占める。その一方で、吉川総経理は「伸び率でいえば中国向けがトップ。今後の伸びが最も期待できるのも中国」と説明、教育現場向けを中心に中国専用モデルも5機種生産している。

「幼稚園の先生」が検査

「幼稚園の先生」がチェック

工場を歩いていて目につくのは、電子基板の数々だ。「IC、CPU、LCD、メモリー、半導体など、コンピューターと同じですよ。インターネットから楽曲データをダウンロードして、楽器に再生させたり、MIDIを活用したり、技術革新でいろいろな可能性が広がります」と、吉川総経理。

電子基板のラインを抜けると、出荷前検査を行うブースにぶつかった。時折聞こえていた電子音の発信元はここ。2つのブースに女性職員が1人づつ入り、ラインを流れる完成品を弾いて音を確かめている。

吉川総経理によると、検査担当者は全員、なんと幼稚園教諭の養成学校からスカウトされた女性たち。数年前、現場から「担当者の水準が低すぎて、不良品が流れてしまっている」との苦情が上がった。すぐに対策会議が開かれ、人材探しを検討。「鍵盤が引けて、音程が分かり、基本的な音楽知識がある」が条件だ。ひとしきり侃々諤々(かんかんがくがく)あった後、ある社員が「幼稚園の先生はどうだろう」と発言したのがきっかけで、養成学校からの青田買いとなった。結果は大成功。不良品の出荷率は一気に低下した。

■さらなる飛躍

吉川総経理は「生産も順調に伸びていますし、経営は好調といえます。設備拡張なども具体的に検討しています」と語る。折しもヤマハ本社は先月23日、中国国内への投資性公司(中国における持ち株会社)「雅馬哈楽器音響(中国)有限公司」の設立を発表。中国国内における投資管理業務を行い、楽器およびAV機器の国内販売を集約することにより、総合力の発揮を目指すとした。同社の設立が天津ヤマハの事業展開に追い風となるのは確実だ。

中国での国内販売はまだまだ開拓の余地大いに有り。天津ヤマハは今後もキーボードの鍵盤のように、社内の製造・管理、グループ企業との調和を保ちながら、中国のすみずみまでポータブルキーボードを行き渡らせる構えだ。

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