2014/06/30

本社留学で中核人材を育成:ヤマハ発動機、共通の人事評価制も 


アジアでの売上高がグループ全体の約46%を占め、アジアの従業員数も全体の6割に上るヤマハ発動機。主力の二輪車を中心に生産工場の現地化を進めるために、人事のグローバル化に取り組んでいるほか、海外拠点の中核人材を育てる「本社留学制度」を導入するなど、研修制度も充実させている。人事や労務管理の現地化に向けた取り組みについて、人事総務本部人事部長の岡野敦彦氏と生産企画部人材開発グループリーダーの小栗律志氏に聞いた。

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---海外における人事政策を教えてください。

岡野:海外の人事労務管理は、歴史的にグループ会社が、独立独歩で進めてきた。こうして伸びてきた経緯があるが、グローバル化の一環で人事についても、現地化を推進しようと、2012年からグループ共通の人事評価基準など人事管理制度の構築を行っている。

その前段として、海外における社長や役員、製造・販売・開発・管理部門など、特定のポジションに就く外国人の比率を調べたところ、約250あるポストのうち、50%ぐらいはローカルの人が就いていることが分かった。決して悪い数字だとは思わなかったが、柳(弘之・代表取締役社長)が12年に、現地の人材を積極的に活用して、この比率を8割に引き上げようという方針を掲げた。そこから人事のグローバル化へとかじを切った。

---グローバル人事の評価制度を具体的に教えてください。

岡野:この評価制度を適用するのは、海外のグループ会社の主要ポストで、本社が人事管理をする。実際にどのポストまでを対象にするかは、現在洗い出しをしている最中だ。重要なポジションを担うため、ビジネスリーダーとして求められる資質も評価していく。ヤマハ発動機のスピリットを伴った行動をしているか否かの評価、またパフォーマンスの面でも、グループ共通の物差しで目標をセットしてもらおうと考えている。

ただ人事や労務管理は、各国で法律が異なり、一律に進めるのは困難だ。そのため、欧州、北米、南米、東南アジア諸国連合(ASEAN)、インド、中国、台湾の7地域で会議を開き、域内の人事担当者のトップに、直接グローバル人事の方針を伝えて、理解してもらえるよう努めている。

---人事評価制度は、将来的に幹部ポスト以外の一般社員にも波及させていくのでしょうか。

岡野:設立して30年が経過しているような海外拠点では、人事制度がきっちり出来上がっており、いきなり全部を変えるのは難しい。だから進めるなら時間をかけて浸透させることになる。ただ、欧州を例に挙げると、域内のグループ会社の人事を、オランダで統括しているため、人事評価も共通化した方が良いだろうということで、主要ポスト以外にも広げる方向で話をしている。

---現地化を進めるうえで、現地の人材育成にも力を入れていると聞きました。どのような取り組みをしているのでしょうか。

小栗:本社の社員が海外に出向いて研修を行うなどもしてきたが、一番効果が大きいのは、海外の製造拠点から本社に来て製造技術を学んでもらう留学制度の「ME(Manufacturing Engineer )300」だろう。品質管理やコスト、納期の作り込みができる中堅クラスのローカル製造技術者を育成するために、入社して4~5年経った従業員を対象に、08年から始めた制度だ。当初は5年で100人を育てることを掲げて「ME100」としてスタートし、12年に達成したため現在は300人を目指すME300へ衣替えしている。

MEは、原則1年間で、最初は日本語研修を受け、その後は各職場に配属され、OJT形式で生産技術だけでなくヤマハ発動機の企業理念も学んでいく。7期目の今期はアジアを中心に43人が来日した。昨年も30人以上が受けており、現地化の加速に伴い年々、参加者が増えている。

きっかけは7年前に、製造拠点の現地化を進めるうえで、生産準備プロジェクトの中心を担う中堅クラスの製造技術者が、海外のローカル従業員の中にどの程度いるのか調査したところ、ほとんどいなかったことから始まった。ヤマハ発動機の主力商品である二輪車の97%は、海外で生産されているだけに、ローカル技術者の底上げには、人材育成が最優先だと考えた。

---研修の効果はどのように表れていますか。

小栗:研修を終えた技術者に対するフィードバックは、各国からもらっている。海外だとある程度経験を積むと、転職する技術者も多いが、MEの1~5期生の計107人のうち、退職したのはわずか5人しかいない。定着率は高いと思う。マネジャーに昇格した人も10人ぐらいいて、効果は出ていると感じている。

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---定着率が高い理由をどう考えていますか。

小栗:これをやっているから、というのは特にない。我々は事前に研修計画を作るなど、しっかり受け入れ準備をする。研修に参加している従業員には、「あなたは重要な人材ですよ」と熱意を伝え、本社のOJTトレーナーもマンツーマンで愛情を持って丁寧に指導している。だから本人もヤマハ発動機で働いていることに愛着を持ってくれているのではないか。現地に戻ってからも、若手の手本になってくれている。

留学制度を通じて、海外拠点ともコミュニケーションがとれるし、留学生がパイプ役になり、ネットワークを構築できるメリットも大きい。

---これからも中堅クラスの人材は重点的に育成する方針に変わりはないのでしょうか。

小栗:MEを通じて、中堅クラスの製造技術者はだいぶ育ってきたので、次はマネジャークラスのローカル化を進めたいと考えている。そこで今年の秋から、マネジャー育成プログラムを始める。MEを終え、現地に戻って2~3年勤務した中堅クラスから、幹部候補にしたい人材を選抜して、本社で研修をする。これまでは技術的な内容がメーンだったが、工場をマネジメントする視点や生産管理、工場管理などについてもOJTで学んでもらう。カリキュラムは、研修終了後に現地で就くポストも勘案して、個人ごとにアレンジするつもりだ。期間は原則1年間だが、送り出す側の事情も考慮し、柔軟に対応したい。受け入れは10人ほどに絞る。

---製造技術者の定着率が高いということは、人材不足の問題はないのでしょうか。

岡野:製造技術者に比べると、開発系のスタッフは、教育投資をしても何年か経って辞めるというケースはある。上海、台湾、タイ、インドネシア、インドなどの開発系スタッフの定着率は、けっして高くないという印象だ。定着率を上げるために、本社で行っている開発業務も、現地に任せることでモチベーションアップにつなげている。

小栗:そういう意味では、開発部門でもMEのような研修をしており、毎年何名か本社に来てもらっている。

製造部門の雇用に関しては、最近は落ち着いてきたが、以前はインドネシアの生産工場で増産が続き、毎週のように何十人も従業員を採用してきた。人材不足というよりも、基礎を教えることが課題となり、ASEAN地域の研修拠点をインドネシアに開設した。現在は、タイ、フィリピン、ベトナムなどASEAN地域のローカル社員の技術的な研修をする際にも活用している。

---人件費などのコスト上昇への対策はどう取り組んでいますか。

岡野:人件費をコストと見て、カットしてほしいというような指示は、本社から海外のグループ会社に出していない。確かに総人件費の管理という意味では、本社からの指示も考えられるが、それよりもヤマハ発動機のブランドロイヤルティーを持って仕事をしてもらい、成果を出してもらう方が、会社にとっては大事だと考えている。(人件費と)人材育成とのバランスが重要だと思う。

小栗:工場では、人件費が上がれば製造コストも上がる。だが、人件費の上昇は仕方がないことなので、設計の標準化や共通化、製造上のロス削減など、さまざまな業務改善で対応している。

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---インドには女性専用の二輪車製造ラインがあると聞きました。人材活用の観点で取り組まれたのでしょうか。

岡野:インドではほとんどシェアが取れていない中で、市場を見極めるべく、マーケティングをきっちり行った結果、女性に乗ってもらうスクーターがキーになるという判断に至った。それならば、ものづくりをする段階から女性に携わってもらう方が説得力もあると考え、女性従業員も工場で組み立てを行っている。彼女たちからはすごく働く意欲を感じている。販売店でも女性スタッフを雇用し、女性の消費者が入店しやすい雰囲気を作るなど工夫している。

---労働争議の対策についても教えてください。

岡野:インドネシアでは散発的にあるものの、現在は顕在化しているわけではない。ただ、海外グループのトップとして海外赴任する社員は、事業系出身者が多く、人事に詳しくないため、現地の労働組合との付き合い方を事前にレクチャーしている。組合の性質は国によって全く異なるので、基本的には労使協調の目線でどれだけ会社の情報を開示して、あるがままの姿を見せられるのかが重要だと伝えている。ASEAN、中国、台湾など海外7エリアで開いた会議では、現地の人事担当者同士で労務問題や組合との関わり方などの情報も共有してもらった。やはり組合とコミュニケーションを取って信頼関係を築けるかが大事になる。(聞き手・写真 京正裕之)


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