2003年 1月15日(水)
身近なシンガポール法務第67回[社会]
雇用(12)
岡田ビジネスコンサルタンシー
岡田昌光
裁判所は、このような方法での無効条項があってもいいものか、疑問を投げ掛けております。つまり、このような条項は、被雇用者に不安を与えかねないからです。このような条項が含まれている雇用契約書に署名してしまうと、この被雇用者の守秘義務範囲は知る由もなく、不安になり、仮に当該会社を退職し、新たな職を探す場合、困難な立場に立たせられるかもしれません。
かくして、当該会社は、秘密保持と競争制限にかかわる条項を施行することはできなかったのです。そこで重要なことは、制限契約書は、注意して作成しなければならないという事です。そして、被雇用者の立場に立って作成することです。義務の内容であるとか、開示されてもよい秘密情報の種類等が記載されていることです。
英国では、問題の条項が極めて広範囲にまたがっていると、裁判所は、施行できるように書き直す事はできないとされています。裁判所は“制限”が広い範囲で意味するような解釈が成り立つ立場はとりません。ですから、制限契約が施行できるように、雇用者は、かかる制限について、慎重に作成することが求められます。
“Garden Leave”(有給解雇)
一般的には、被雇用者が退職して競争相手企業に移りたいと申し出ますと、直ちに退職を認めるものです。ところが場合によっては、できるだけ長期に、かかる被雇用者を競争相手先から遠ざけようとするのです。この様な事態にみられるのが、この“Garden Leave”です。“Garden Leave”の期間中、当該被雇用者は被雇用の状態のままでいて、業務に就く必要はないとするものです。この条項を雇用契約に含めておけば、雇用者は、当該被雇用者を自宅待機のままにしておいて、雇用関係を維持することができるのです。そして、秘密保持を図ると同時に、当該被雇用者を会社の秘密情報から遠ざけようとするのです。
シンガポールでは現在のところ、このような条項が裁判所で取り上げられたことはないようです。
それにしても、この様な方法を使ってでも企業秘密を守ろうとすることに、筆者は強い関心を持ちます。
以上で“雇用”については終わります。