2002年11月13日(水)
身近なシンガポール法務第59回[社会]
雇用(10)
岡田ビジネスコンサルタンシー
岡田昌光
前回(雇用9)で述べました、“Trade Secret”(業務秘密)に関する判例を申し上げます。
1998年“Buckman Laboratories (Asia)Pte Ltd v Lee Wei Huong”の判例。
“Buckman社”は特殊化学品のメーカーで、被告は、この会社に4年間勤務しておりました。被告は同社を退職し、同社の競合会社に入社したのです。 “Buckman社”は被告に対し、雇用契約書の秘密保持義務と退職後規定条項を順守するよう求めました。そして、裁判所に、被告の競合先への勤務差し止めと、かかる競合相手に企業秘密情報の開示をしないよう裁判所命令を出すよう求めたのです。
この問題の雇用契約書には「被雇用者は、アジア太平洋および中東地域において、いかなる競合先にも1年間勤務してはならない」との条項が記載されていたのです。
また、この雇用契約書の別の条項に「被雇用者は退職後1年間、規定地域における当該会社およびその関連会社の“Proprietary Information”(所有情報)の利益保護に適正な対応をしなければならない事に留意すること」になっているのです。
この“Proprietary Information”の定義は極めて広範囲に規定されていたのです。つまり当該会社およびその関連会社の本質、行為、財務、製品、サービス、市場、従業員、もしくは得意先にかかわるあらゆる秘密情報と定義していたのです。
裁判所の見解は、当該会社は自己の業務範囲をあまりにも広範囲に広げて、あらゆる情報を保護しようとしているとみたのです。
裁判所は、企業の全ての業務は決して、その企業だけの特別のものではなく、他の企業でも共有する部分もあるとの見方です。
従って、当該雇用契約条項の主眼点は、競争を制限しようとするものであり、当該会社の正当な企業利益を保護しようとする目的でないとみました。