2002年10月30日(水)
身近なシンガポール法務第57回[社会]
雇用(8)
岡田ビジネスコンサルタンシー
岡田昌光
(b)秘密保持(続き)
前回、第56回・雇用(7)で、被雇用者は企業秘密を開示してはならない義務があり、その事を雇用契約書に記載する必要があることを申し上げました。
しかし裁判所は、秘密情報を開示してはならないとの義務付けは、当該従業員がいったん退職した後は、雇用者側の業務秘密の開示はしてはならない程度にとどめ、当該従業員の能力の発揮の阻害になるような広範囲での制限はしてはならないと主張しているのです。
裁判所の判断では、雇用終了後、当該の前従業員が前雇用者から得た情報の使用を制限する可能性を示唆していますが、情報の内容がどのようなものかによっても制限の度合いが変わります。
一般情報――この種の情報は一般社会情報を指します。容易に入手でき、明確に秘密とはいえない情報のことです。裁判所の見解は、この種の情報を指しません。
秘密情報――この種の情報は秘密情報として対応しなければなりません。理由は2つあります。
(1)被雇用者にこの情報は秘密情報であると伝えてあるから。
(2)その情報の内容から明らかに秘密であることが分かるから。
情報で、いったん学習したら被雇用者には必要情報として頭脳に蓄積され、当該被雇用者が勤務期間中に当該被雇用者の技能となり、知識の一部となる情報があります。裁判所は、当該被雇用者に、かかる情報を開示したり、不正に使用したりすることを禁止しています。
しかし、かかる情報の使用もしくは開示する能力をも制限しようとはしていません。仮に、その能力の使用によって雇用期間が終了し、かつての雇用者が競合することになってでもです。