2004年9月15日

第12回発生主義と発票主義


原材料を仕入れ、現物も倉庫にあるのに、帳簿に「原材料仕入」が計上されてない、製品を客先に納入し、検収も終わっているのに、帳簿に「製品売上」が計上されてない、なんてことはありませんか?

ご存知の通り、“発生主義”というのは会計用語であり「現金の受け払いに関係なく、収益は実現した時点で、費用は発生した時点でそれぞれ認識する会計上の原則」です。

従って、原材料を仕入れ、現物も倉庫にある場合には、帳簿に「原材料仕入」として記帳されますし、製品を客先に納入し、検収完了している場合には、帳簿に「製品売上」として記帳されなければなりません。

これに対して“発票主義”を筆者が(勝手に)定義させて頂きますと「現金の受け払いに関係なく、収益は発票を発行した時点で、費用は発票を入手した時点でそれぞれ認識する原則」といえましょう。「仕入れたけど発票まだ来てません。だから仕入処理できません」とか「売り上げたけど、まだ発票は発行してません。だから売上処理できません」といわれて未処理のまま、あるいは仕入計上や売上計上が数カ月後となり月次財務諸表が実態とズレてしまうことを指します。

例えば増値税法上、月次申告が必要であることはご存知の通りですが、月次ベースで売り上げに伴う増値税(=売上増値税)から仕入れに伴う増値税(=仕入増値税)を控除した額を申告書に記載して納付する必要があります。その際に売上増値税額については増値税発票が発行されていることが必要となりますし、仕入増値税額については、取引相手側から増値税専用発票を入手していることが必要となります。

中国においては“発票”の授受に基づいて申告を行なうことが要求されることから、記帳と税務申告のズレを嫌うあまり、発票主義による経理処理を行うという現実もあることは否定できません。

会計原則上は認められない“発票主義。では、“発票主義”と“発生主義”のバランスを如何に保っていけばよいのでしょうか?仕入取引と売上取引に分けて考えてみましょう。

《仕入取引》

ものは入荷したが発票未入手の場合、当然、相手先に対して発票の発行依頼することは必要ですが、経常的な取り引きで、かつ、決済条件等の関係で月ズレが生じてしまう取り引きの場合には、増値税相当額を「その他未収入金」勘定等で仮計上し、発票入手時に「未払増値税」勘定等へ振替える処理をすることも一法でしょう。そうすれば、仕入額も債務額も仮計上され、また、申告実務にも影響を及ぼしません。

《売上取引》

ものは出荷したが、発票未発行の場合、その理由は様々でしょうが、いずれにしても仕入取引のように他の仮勘定を使用した仮計上はできません。売上計上と同時に増値税専用発票を発行し、増値税を納付する必要があるためです。従って、“発生主義”に基づき出荷等を基準に売上計上する場合には、同時に発票を発行しなければなりません。ただし、客先に渡すのを客先検収後とする、検収により修正を要する場合には翌取り引きにかかる発票にて値引き処理等とする、等々の方法が考えられるでしょう。

以上のように“発生主義と発票主義のズレ”を解消する為には財務部門において発票の入手および発行管理を厳格にしておく必要があり、発票ベースでの財務管理に比べ煩雑さが増えるのは否めません。しかし、経営実態を常時適切に把握する為には“ズレ”を解消するための多少の煩雑さはやむを得ません、税務調査でも指摘されるポイントでもありますので恒常的にずれが生じる取引スキームであるなら早めに改善していきましょう。

※(本稿は税務会計上のポイントを実践形式で解説したものです。著者個人の意見であり、所属する法人とは関係ありません)


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