2004年7月7日

第7回日本の税務問題~出向者の給与較差補てん~


最近の華南などの報道では、日系企業の中国現地法人の業績が概ね好調のようです。その一方で日本の税務調査のポイントとして出向者の給与較差補てんの問題がクローズアップされてきました。今回は日本の法人税について解説します。

これまで現地法人が負担する給与(および給与に相当する費用負担)は、現地での生活費を賄うだけの人民元給与、会社払いの家賃、中国の個人所得税ぐらいであり、日本払い円給与は本社が負担するものと何の疑問もなく本社の損金にしてきた会社もあるかと思います。

中国の個人所得税が支払い場所に関係なく、中国で働いた勤務の対価であれば日本払い給与も課税対象となることは比較的よく知られていますが、この日本本社が負担する給与を日本本社の損金にすることができるのか否かの法的根拠がどこにあるかご存知ですか。

法人税基本通達9-2-35がそれで、「出向元法人が出向先法人との給与条件の較差を補てんするため出向者に対して支給した給与の額は、当該出向元法人の損金の額に算入する」とあり、較差補てんの例示として、

・出向先法人の経営不振等により支給する賞与

・出向先法人が海外にある場合の留守宅手当

が挙げられています。

出向者の給与は現地負担の方向

「人民元でもらってもしょうがないから」とか「送金の手間も手数料もかかるから」という理由で本社から給与をもらうのは個人としてはよいとしても、会社としては日本の法人税対策上、現地法人に付け替える必要性があるかどうかを検討し、付け替えないのであれば現地法人が負担できない合理的な理由と説明を準備しておかなければいけません。

十分な利益を稼ぎ出している現地法人(特に独資法人)への出向者で、実態からして支配、被支配の関係にある出向先に対しては較差補てんを否認されるケースが更に増えると予想されます。出向者給与の相当部分を現地法人が負担するのが今後の方向性といえるでしょう。仮に較差補てんとして認められなければ寄付金とされ、特に国外関連者(海外子会社等)への寄付金であれば租税特別措置法第66条の4第3項により、全額が損金不算入となります。

日本側の寄付金問題から現地法人での給与負担を検討し始めた会社が陥るジレンマとして、会社間での付け替え送金に際して個人所得税の納税証明が要求されることがあります。本社での寄付金認定を嫌って給与を全額現地負担とする方針を決定、その前に個人所得税の修正申告を行ったというケースもあるようです。

2免3減を有効活用

また、当初想定していなかった販売量や取引価格の変動によって、思ったより利益が早くでそうな会社であれば、会計方針や会計上の見積もりの変更を伴うことなく損金として計上できる費用として給与を現地負担とし、2免3減等の減免優遇を最大限有効に活用することで、日中両国での総税金コストをセーブすることが可能ともなります。

給与が現地法人より個人に直接支払われる場合で本人がこれを日本に送金する場合、あるいは日本の本社が支払った給与を現地に付け替え、現地法人が日本の本社に当該給与相当額を日本の本社に送金する場合には個人所得税の納税証明が必要であり、現地が負担すべき給与であるという会社による証明を要求されるなど、実務手続きが煩雑となるデメリットはあるものの、これからは出向者の手間を押えながらも総合的かつ計画的な税務対策を練ることが必要となりましょう。

※本文は著者個人の意見であり、所属する法人とは関係ありません


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