2004年4月21日

第2回会計をめぐる問題~引当金の巻~


本社への決算書提出の期限が過ぎても、まだ監査が終わらない。引当金を積むべきか否か。いくら積めばいいのか。会社と会計士との攻防は、日・中いずこも同じようだ。

2003年度の会計監査がようやく終わった。A氏が上海の製造子会社甲社に総経理として赴任してから2度目の決算だ。連結対象子会社の甲社は、3月初旬までには監査後の決算書を本社に提出するように指示を受けていたが、引当金の計上をめぐって監査人ともめ、監査報告書を手にしたのは3月も末に近くなってからである。その間、本社からは毎日のように催促の連絡が入ってきた。

会計は判断と見積の産物だ。現預金であれば、“期末にいくらの現金と預金があるか”というだけのことだから、それをそのまま決算に反映させればよい。しかし、ある顧客の売掛金に貸倒引当金を積むか積まないか、いくら積むかということになると、貸し倒れが発生する可能性を予測・判断することが必要になる。

「企業会計制度」では、実態に合わせて貸倒引当金を積むことが求められる。回収が遅れている売掛金に引当金を積まないなら、積まないなりの理屈と根拠がなければならない。保守的な会計士を納得させるにはそれなりの材料を用意しなければ。在庫や設備も、今の価値が簿価より小さいと判断されるなら、同じく相応の引当金を積むことが必要だ。

明らかに貸し倒れの可能性が高い売掛金については個別に引当金を積み、その他の売掛金については過去の経験から帳簿年齢が1年以内なら1%、1~2年なら20%、2年以上なら50%の引当金を積むというのが甲社の決めたルール。

さて、 甲社の顧客乙社は業績が芳しくなく、最近になって生産停止状態に。乙社の売掛金は2年近くも未回収のままだ。甲社は乙社の売掛金に20%の引当金を積んだ。

甲社はある本社向けの製品を生産するための原材料を大量に仕入れたが、本社の販売計画の変更で、この製品の生産量が当初計画よりも大幅に減ることになった。すでに仕入れた原材料は他の製品への転用もできず、新製品の生産開始がいつになるかもわからない。だが、原材料の仕入は本社の指示によるものなので、万一この原材料が使われなかったら本社に引き取り責任があるとして、甲社は引当金を積まなかった。

さらに、甲社は遊休設備に対して前年度は100%の引当金を積んだが、今年度は同じく遊休状態にある生産ラインの引当金の計上を見送った。再使用の可能性もないわけではないというのがその理由だ。

甲社の2002年度の業績は好調だったが、2003年度は一転、売上が伸び悩み、厳しい決算になった。引当金をいくら積むかで最終損益が赤になるか黒になるかという状況だ。もっと引当金を積むべきだと主張する会計士に、言葉で説明しても無理だろう。この場合、在庫なら本社からの一筆書面、設備なら中長期生産計画の提出が必要だ。だが、本社からの書面は社内稟議の時間を考えて断念(それ以前に担当者の交代で責任の所在がはっきりわからない)、生産計画は未作成、という状況では、引当金の積み増しを受け入れざるを得なかった。

A氏は思った。03年度の決算は、早々に帳簿を締めたのはいいが、監査に向けての準備が足りなかったようだ。監査で問題になりそうな会計処理があれば、こんどは決算前に予め会計士と打ち合わせをしておいたほうがよいだろう。決算の早期化で、きっと来年は、本社への決算書の提出期限ももっと早くなる。やれやれ。

※本文は著者個人の意見であり、所属する法人とは関係ありません


NNAからのご案内

出版物

SNSアカウント

各種ログイン