2003年10月28日

第93回 台湾アップリカ<アップリカ>、赤ちゃんの幸せを最優先して業界頂点に



台湾アップリカ(新竹県湖口郷)は、大手育児用品メーカー、アップリカの台湾での生産・販売会社だ。同社で製造しているのは、高低を調節できる乳児のベッド兼イスのハイローベッド&チェア、カーシート、およびベビーカーで、ハイローベッド&チェアは月産8,000台の98%を日本に輸出している。

森岡部長
同社のものづくりは、「赤ちゃんの幸せをまず第1に考える」ことに集約される。同社によると、ゼロ歳から4歳くらいまでの乳児は、「頭と脳」「体温調節」など、細心の注意を払うべき「8つの未成熟」があり、酸素飽和度の低下、うつ伏せ寝などによる突然死などの「3つの危険」がある。同社の製品は、これらの「8つの未成熟」に対応し、乳児を「3つの危険」に晒さないことに最大の注意が払われる。

主製品であるハイローベッド&チェアでは、最も重要な部位である頭部を守るために、思いがけない衝撃を受けても頭部の揺れを最小限に抑えるパッドを備えているほか、素材にも強力な衝撃吸収材を用いている。また、常に快適さを保てるよう、背板に開閉可能な穴を開けて通気性を3段階で調節できる機能を備えて、危険とされる暖め過ぎの状態を避けることができる。

作業工程は極めて慎重に行われる。「ねじがゆるんで、赤ちゃんが飲み込まないか。樹脂成形の時に面の滑らかさが失われて、赤ちゃんの柔らかい肌を傷つけないか。自分の頬にすりつけて大丈夫かという感覚でやっています」と森岡郁夫・台湾アップリカ製造部長は語る。

こうした乳児と母親の立場に徹底して立った姿勢こそが、同社を業界で際立った存在に押し上げた理由だ。

40年前、日本の育児用品市場には114社のメーカーがひしめいていた。しかし、現在残っているのはアップリカを含めて2社だけになり、残りはすべて淘汰されてしまった。目先の売り上げを重視し、乳児のことを真剣には考えていない製品、すなわち「単なるものづくり」に走った結果、消費者から見捨てられてしまったのだという。「今は高付加価値の時代。赤ちゃんをどう守るかということに集中してきたアップリカ50年の歴史が、いまようやく認められてきました」と森岡部長は胸を張る。

製造部門
ところで、同業界での台湾の位置付けだが、製造拠点としてはすでにピークを過ぎている。アップリカが台湾に進出した1988年当時、ベビーカーの全土での生産台数は300万台に達していたが、いまやほとんど中国に移転してしまった。台湾アップリカも、生産は以前よりも減っている。

同社は中国広東省中山市にも工場を持つ。他の業界と同じように、中国へのさらなる生産移転を進める考えはないのだろうか。森岡部長は、「お金の面から考えると中国移転ですが、台湾の赤ちゃんを幸せにするには、まずここに製造拠点があることが第1です」と述べる。この目的の達成のため、今後は販売により力点を置いていく考えだ。

同社が台湾での販売を開始したのは5年前。この7月に新竹市にオープンした台湾最大のショッピングセンター、新竹風城購物中心に直営店を設けるなど、新竹一帯から中南部にかけて販売網の拡大に力を尽くしている。

台湾も今、世界の先進各国と同じように出生率の低下に悩まされている。昨年生まれた子供の数は過去最低の24万6,758人で、10年前より23.2%も減少した。市場環境は決して有利とは言えない。「いかにアップリカの考え方をお客様に理解してもらうか、が今後の最大の課題」と森岡部長。しかし、これまで日本などの市場でそうであったように、評価される製品を作っていけば、確実にシェアを伸ばしていける確信はある。台湾で市場を確立し、将来的には中国や東南アジアに販路を広げていくことにまで目標は広がる。

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