2003年10月14日

第91回 無錫黒崎蘇嘉耐火物材料<黒崎播磨>、高付加価値製品への転換で事業拡大



広い工場敷地のなかには、ドシン、ドシン――とかすかに振動を伴うプレス機の重く規則正しい音が響く。ここ無錫黒崎蘇嘉耐火物材料有限公司が作り出す耐火物製品が、鉄鋼業やセメント、非鉄金属、窯業、化学など、高温・高熱工業を支えている。

吉村正総経理
同社は、1995年に黒崎播磨と江蘇蘇嘉投資集団公司がそれぞれ68%、32%出資し、合弁で設立した。中国側が土地・設備を現物出資する形で、敷地内に工場を置き生産を始めた。

同社が中国進出を考えたのは1988年ごろにさかのぼる。マグネシアなど原材料の生産地などを回り、吉林省の瀋陽市の工場との合弁プロジェクトが決まった半年後に、天安門事件が起きた。すべてを振出しに戻して、再びパートナー探しが始まった。問題の多いとされる国営企業を避け、郷鎮企業を目標とし、92年から技術供与を行い、製品供給関係にあった蘇嘉集団と組むことになった。

■量から質へ

切削加工
設立当初は吹付材や流し込み材など粉末の不定形耐火物製品や堰ブロックの生産から始まった。その後、96年に転炉用や特殊容器用のマグカーボンレンガ、99年にスライディングノズル(SN)とSN装置やSN自動制御装置などエンジニアリング部門、03年には浸漬ノズルやストッパー、ロングノズルなどのノズル工場を新設、順調に事業拡大してきた。

現在は合弁先が所有していた約4万7,000平方メートルの土地を出資してもらい、新工場で生産が始まっている。 生産量は99年の1,600トンから00年には一気に2万2,000トンに拡大した。だがその後、01年の1万8,000トン、02年には1万5,000トンと年を追って縮小していった。

「実は、マグネシアに関して新しい規制ができたんですよ」と、同社の吉村正総経理。マグネシアの含有量が70%以上の製品は原材料とみなすという規制が施行され、原材料の貿易ライセンスを持たない企業の輸出が不利になったのだ。 そこで、同社は方向転換を決めた。マグネシアの含有量の多い製品を、ライセンスを持つ地場原材料メーカーに移管。設備投資と技術供与を行い生産することにしたのだ。

この一方で、同社ではSNや連続鋳造用ノズルなど付加価値の高い製品に注力する。その結果、税引き後の売上高は00年の6,100万元から01年は6,700万元、02年は7,800万元と好調に伸び、今年は1億2,000万元を見込んでいる。

■企業秘密は壁の向こうに

敷地内には工場2棟、その間に事務所ビル、食堂、LPGガス貯蔵区がある。原材料は酸性の二酸化ケイ素、塩基性の酸化マグネシウム、酸化カルシウム、中性の酸化アルミニウム、酸化クロル、非酸化物の黒鉛、カーボンなど。中国はこれらの主要な生産国ではあるが、純度など品質が基準に達していないため、一部を輸入に頼っているが、吉村総経理は「一概に輸入原料が高いとは言えない」とする。中国国内調達にかかる増置税や輸出還付税などを考慮すると、輸入原料が安くつく場合もあるこのかねあいを注意深くみながら原料を調達する。

管状ノズルの工場内は、原料の粉砕から秤量、混合・混練、成型まで大型の生産機械が並ぶ。これらのラインは、製造技術の秘匿の関係から設けられた大きな壁の向こうに設置されている。成型された製品は乾燥、焼成と進み、NC旋盤による切削加工に回る。ここでは、数名の技術者の腕から複雑な形状や精度を求められる製品が作り出される。完成した製品はエックス線透過により、ひびや亀裂、異物の混入がないかを確認する。このほか製品の構造や性質により、防酸化剤や各種塗料の塗布、金属プレートの装着など細かな加工が行われる。

現在は従業員300人を抱え、三交代制で24時間操業している。ここ数年は無錫新区など大型工業団地の急速な発展により、人材の流動が目立っているという。吉村総経理は「以前は工場の門をたたいて、就職先を探しにくる工員が多く、それで雇用をまかなっていたが、今はさっぱり」という。合弁先とのかねあいもあり、給料の調整を自由にできないという問題もある。良い人材を惹きつける職環境づくりが課題となっているようだ。

現在、同社周辺の土地4万7,000平方メートルを新たに確保し、工場拡大を計画しているほか、日本本社と関連会社によるエンジニアリング会社を新設し、同社のメカ関連部門を移管する予定だ。中国特有の規制や政策変更に素早く対応し、着々と事業拡大している。

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