2003/08/26

第85回 春翔欣業<トヨタ車体>、高技術力で台湾自動車部品業界をリードする



春翔欣業は、トヨタ系の車両生産メーカーであるトヨタ車体と台湾鉄鋼メーカーの春源鋼鉄の合弁で1997年に誕生した若い企業だ。

経営陣
製品は自動車用のドアASなど大物外板から原板小物溶接部品、およびプレス金型で、販売の70%を国瑞汽車をはじめトヨタ系の各社で占める。

同社生産の、自動車の足回りの重点部品であるサスペンションは、溶接棒を電気の熱で溶かし金属同士を溶接するアーク溶接を使用する。春翔の設立当時、アーク溶接の熟練した技術を持つ部品メーカーは台湾には存在せず、国瑞をはじめとした各自動車メーカーは、高度な部品は日本からの輸入を余儀なくされていた。

しかし、春翔が操業を開始したことによって、部品の台湾での調達比率は格段に向上し、今年3月発売のトヨタ「ヴィオス」では95%となった。この結果、大幅なコストダウンが実現した。

プレス金型の製作では、車の骨格となるサイドアウターやドアなど外板部品を得意としている。外観で線の流れにゆがみが出ないよう細心の注意が払われる。機械加工の完了時点では誤差を100分の2ミリ程度に抑えるのが精一杯だが、熟練工たちは1,000分の5ミリの水準を追求し、砥石を手に微妙なカーブの手仕上げをしていくのだ。

生産現場で働く社員は日本人の指導者3人を含めて220人。当然のことながらトヨタ生産方式が取り入れられており、1日当たりの目標生産高に対する達成状況の明示や、資材や人員の効率的な配置が徹底されている。それでも同社の春日部敏克総経理は、「作業環境を改善し、より安全性を追求することが目標」と課題を述べる。

作業現場
台湾の自動車市場は今年は買い替え需要もあって好調で、年間40万台を回復するとみられているが、ピークだった1994年当時の57万台の水準に達することは今後も難しい。同社は現状維持傾向が続く市場で、どのようにビジネスを拡大していくのだろうか。

春日部総経理は、「台湾の自動車生産の現場では、日本から輸入している部品はまだまだ沢山ある。それらを当社で生産してくことで市場はどんどん拡大する」と見通しを語る。実際、サスペンションのような複雑な部品が、台湾で生産できるようになったのは、春翔が手がけた最近2~3年のことなのだ。また、日本では耐圧度100キログラム級の高張力鋼板を使用したプレス部品が生産されるようになっているが、台湾ではまだ生産されていない。同社はそうした部品の生産開始を前提に、技術開発を進めている。

生産現場を歩いてみて目につくのは、日本や東南アジア各国へ輸出する製品の多さだ。輸出向け製品の割合は全体の20%だが、国瑞は昨年アジアで最大規模の研究開発(R&D)センターを立ち上げ、タイやインドネシアのトヨタ海外工場で生産される自動車のR&Dを行っている。同センターと緊密に協力することで、今後東南アジア向けの輸出はさらに伸びていこう。

そして、春翔がいま最も進出すべき市場と捉えているのが中国だ。トヨタは昨年より天津工場で「ヴィオス」の生産を開始し、部品は春翔や日本からの輸入および現地調達で賄っている。しかし、コスト削減を目指して部品の現地調達を拡大していく方向性が明確になっているため、春翔は来年にも中国に進出し、トヨタ工場との補完性を強化する考えだ。「トヨタが欲しがる難しい部品づくりを中国でもやってみたい。そのために言語が共通し、勤勉かつ優れた技術力を持つ台湾の人たちとやってみたい」と春日部総経理。台湾で培ったノウハウを中国でフルに展開する日はもう目の前に来ている。

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