2003/03/11

第63回 天龍製鋸(中国)<天龍製鋸>、のこぎりドクターの中国工場



木、鉄、石、紙、プラスチック――ものづくりは材料の切断から始まる。天龍製鋸は、機械鋸(のこぎり)生産の分野で90年以上の実績を誇る老舗企業。日本工業の足もとを支えてきたパイオニアは、中国でも職人の技術と品質を守りつつ、今年さらなる飛躍を目指す。

工場リーダー
天龍製鋸(中国)は1994年、河北省廊坊市に設立された。顧客である機械メーカーの資材調達がグローバル化する中、価格競争力を高めるために中国進出。当初は韓国・英昌刃物との合弁企業としてスタートし、2000年から天龍製鋸の100%子会社となっている。

廊坊は北京と天津のほぼ中間地点。同社がある経済技術開発区に沿って高速道路が走り、北京、天津へはいずれも1時間程度という立地の良さ。加えて、金属を扱う企業としては「天津など海沿いの土地だと塩でさびやすいので、少し内陸部の方がいい」(鈴木寛善・董事長)というメリットもあった。

生産するのは主に、刃の先端に硬質のチップを取り付けたチップソーと呼ばれる丸鋸。電動工具用を中心として、木工用、鉄鋼用、アルミ用などあらゆる用途のものを作る。切る素材が変われば鋸も変わる。基板の直径、刃の数、刃先角度……組み合わせにより製品数は無限。鈴木一・総経理は「お客様の用途に合わせた製品を作る。注文生産の世界です」と説明する。

年内に生産50%拡大

工場風景
敷地内には2つの工場があり、面積は合わせて約6,600平方メートル。現在は月10万枚を生産し、ほとんどを日本や米国に輸出している。工業の成長著しい中国だが、日本などでは高品質の鋸を再研磨しながら使うのに対し、中国では安価なものを使い捨てにするのが一般的なため、日本の鋸メーカーにとっては市場にならないのだという。

売上高は生産開始当初の96年には2億円だったが、昨年は12億円と6倍に伸びた。登録資本金も、3回の増資により3億円から9億円に増加している。

好調な業績を背景に、同社は今年、隣接地に第3工場を新設する。面積は現在の2工場の合計を上回る7,500平方メートル。10月の稼働を予定しており、これにより生産量50%増、コスト30%減を目指す。

■機械のこぎりの元祖

天龍製鋸は1910年、丸鋸の修理・改造会社として創業。1920年には英国の技術を導入し、日本で初めて木工用丸鋸の生産に成功した。

丸鋸は直径が大きいほど高い技術が要求されるが、同社は50センチ以上の市場で圧倒的な強さを誇り、本社では3.5メートルの製品も作る。中国でも注文があれば2.5メートルまで対応できる。

チップソーの生産過程は原料となる合金を丸く加工することから始まり、刃を切って焼きを入れ、超硬質材のタングステンカーバイトでできたチップを刃先に一つずつ手作業で取り付けていく。顧客の要望に合わせ、切断時の騒音を減らすための特殊加工や着色なども行う。原料からこうした最終加工まで一貫して行えるメーカーは日本でも数少ない。

鋸メーカーにとっては、修理や再生も大切な仕事。基板のひずみを矯正する職人たちを見ながら、鈴木総経理は「欧州では鋸の修理ができる人を『ソー・ドクター』と呼んで尊敬するんです」と教えてくれた。長年の実績により蓄積された元祖「鋸医」の技術は、中国の職人たちへも確かに受け継がれている。

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