2003/03/04

第62回 台湾佳能<キヤノン>、高付加価値化が勝ち残りへの至上命題



コピー機、プリンターで世界のトップシェアを占め、近年はОA機器メーカーのイメージが強くなったキヤノンだが、そのブランド力の源泉はやはりカメラだ。台中県潭子郷の輸出加工区にある台湾佳能(台湾キヤノン)は、グループの一眼レフカメラの約90%を製造し、世界各地へ出荷している。

山田董事長
台湾佳能の設立は1971年。以来32年間にわたり、一貫してカメラおよび交換レンズを生産してきた。台湾佳能で生産してきたカメラは実に40種類以上に上る。80年代はコンパクトカメラが中心だったが、90年に同じキヤノングループの中国・佳能珠海が設立されて以降は、一眼レフカメラと交換用レンズが主力になった。2002年の生産台数は一眼レフカメラ130万台、コンパクトカメラとАPSカメラが計60万台、レンズが80万本で、デジタルカメラの普及とともに、生産台数自体はやや減少傾向にある。型枠、ペンタプリズム、レンズなど、主要なコンポーネンツをほとんど自前で生産し、組み立てている。

生産現場には、キヤノンがグループで取り組む生産革新モデルが取り入れられている。トヨタの「ジャストインタイム」の生産方式を参考に、昨年初頭から効率化を追求したラインを新たに組み直した。作業員はそれぞれ前工程、中工程、後工程の担当者3人で1チームを組む。作業員と部品の間の距離は25センチ以内、作業員と作業員の間隔は約60センチと具体的に距離を決めることで、作業時間を1秒でも短くする。このチームの作業員は1人が4分以内に約70~80点の部品を組み立てて、カメラを完成させていくのだ。1セルが1日に生産するカメラは500台と、生産性は極めて高い。

「このラインを採用したことで、品質が改善し、仕掛かり在庫も減少した。それだけでなく、社員の働く喜びが増した効果も大きい」と、同社の山田建男董事長は強調する。以前、作業員はベルトコンベアーの横に座って決められた作業を行っていただけだったが、現在は1人がほぼ1台を作ることによって、ものづくりの実感をより得られるというわけだ。 生産ラインの改善によって、以前は十数日分あった在庫は半分の7日分、金額にして10億円減らし、グループの利益に貢献した。キヤノンは2002年12月期の決算で純利益が1,907億円と3期連続で過去最高益を更新したが、現場のこうしたたゆまぬ努力が好業績を支えている。

台湾佳能
「生産性を極めなければ、台湾で生き残っていけない」と語る山田董事長の脳裏には、安い人件費をメリットに、グループ最大のカメラ工場に成長した佳能珠海の存在がある。いまや珠海は、カメラの生産台数では台湾の2倍に達している。「日本側の指導がうまく行けば、中国でもかなりのハイテク製品が作れることは事実。製造そのものはすべて珠海に移っても不思議ではない」(山田董事長)という時代を迎えているのだ。

中国の生産レベルが急速に向上する中で、台湾佳能が描く未来像とはどのようなものだろうか。山田董事長は「それはすなわち、少量で細かい好みに対応できる製品を作っていく、高付加価値化にほかならない」と断言する。カメラはもともと高級品で、キヤノンは高級品を売るビジネスモデルはしっかりしているため、市場そのものに不安はない。さらに製品だけでなく、物流などを改善して業務自体の高付加価値化を図り、消費者のニーズに応えていくことが目標だ。

研究開発(R&D)の強化も明確な方向だ。同社の日本人スタッフの半分はR&D担当。台湾人スタッフを合わせるとR&D要員は約50人と、ここ1年で大幅に増やして佳能珠海で作る製品のR&Dを担当している。珠海=大量生産拠点、台湾=R&D拠点という役割分担は今後さらに明確になろう。

「台湾で30年もオペレーションを続けてこれた理由は、製品をひたすら高付加価値なものに置き換えてきたこと。これからもそれを継続していく」と山田董事長は語る。新たな活路を求めて、同社は今後どれほどの高付加価値化を成し遂げた姿をみせてくれるのだろうか。

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