2001年10月22日

第49回 台湾田畑<タバタ>、多品種少ロットこそ台湾の最適生産モデル



桃園県の中正国際空港にほど近いのどかな田園地帯に位置する台湾田畑は、TUSAブランドで知られるダイビング用品のトップメーカー、タバタの海外製造拠点として1986年に設立された。ダイビングマスク、シュノーケルなどの製品を、部品の製造から組立、出荷までを一貫して行い、ダイビングマスクは年産70万個、シュノーケルは同65万個と、いずれも世界一の生産量を誇る。

同社の最大の強みは、専門メーカーとして製品の多様な用途に細かく対応している点だ。主要なダイビングマスクのフェースパッドは、東洋人向けと白人向けの顔の形に応じた2種類を生産。近視の人が多い日本市場へは度付きレンズの交換が可能な2眼タイプを、欧米へは主に1眼タイプを中心に出荷する。製品の色も市場の傾向に合わせる。欧州は黄色が好まれる一方、日本はダイバーの60~70%が女性という特殊な市場なため、女性が好むパステルカラーやパールカラーを数種類出荷している。

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こうした「多品種少ロット」の生産方針によって、主要製品は5品目ほどでありながら、色や型別の種類は実に500以上にも上る。限定色のダイビングマスクなどには、年間の生産個数が400個のものすらある。世界のあらゆる地域のあらゆるユーザーに対応したものづくりは、他メーカーの挑戦を寄せつけない。

台湾田畑の生産する製品は、99%までが日米欧など海外市場へ輸出され、台湾市場に供給されるのはわずか1%だ。このような輸出型の拠点を、労働コストの高くなった今日の台湾で操業させることにメリットはあるのだろうか。他の多くのメーカーがしているように、中国への移転または拠点新設という選択肢はないのだろうか。

同社の及川真二社長兼工場長は、「中国は同じものを大量に作る場合にはいい。しかし我々のような生産形態は、中国では品質を維持できない恐れがある」と語る。その上で「台湾は従業員の質が高く、安心して仕事ができる」と、台湾にこそ利点があると強調する。

及川社長さらに、「進出した16年前と比べて製造コストはむしろ下がっている」と、驚くべきことを口にした。これは台湾人スタッフが育成された結果、不良品率が極端に下がったこと、および原料の現地化に成功したことが理由だ。

今年同社はBCJ(浮力調整ジャケット)を9月末現在で7,000着製造したが、全数検査によるエアー漏れ不良品はわずかに1着。他の製品を合わせても不良品率は0.5%と、多品種生産の工場としてはかなり優れた数字だ。「残念ながらこれ以上、下げることはなかなか難しい。従業員の目が肥えたため、いままでは合格になっていた製品も不良品と判断されてしまう」と及川社長。この厳しチェック能力が同社のブランド力を下支えしている。

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同社は勤続年数の長い従業員が多い。毎月1回、売上高や利益の数字を公表して経営の透明性を高め、目標の達成度に応じて臨時ボーナスを発給したり、優秀な商品提案に対して賞金を与えるなど、従業員の働く意欲を刺激する態勢を整えている。

これによって社員の定着率が高まり、スキルの向上が製品の質に反映しているのだ。 同社が今後特に力を入れるのがBCJだ。ダイバーの安全を握る製品だけに、手間をかけて品質の優れたものをつくり、ブランドの信頼性をさらに高める。

同時に、プロフェッショナル用、レディース用など用途別の種類も充実させていく方針だ。 台湾赴任が10年目になる及川社長は、東京都狛江市出身。幼い頃から多摩川で潜りに親しみ、ダイビング好きが高じてタバタに入社した。ダイビング歴は実に38年を数え、製品への愛着もことのほか深い。好きなことを仕事にするのは最も幸せなこと――と及川社長の自信と余裕に満ちた語り口がそう教えてくれた。

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