2001/08/13

第40回 台湾東電化(台湾TDK)<TDK>、中台相互補完で空洞化を乗り越える



台湾メーカーが中国への生産シフトを進める中、台湾に長年拠点を置く日系メーカーは、その位置付けの見直しを迫られている。

台湾で電子部品を作り続けて35年になる台湾TDKも、生産コストの上昇、およびそれに伴う提携メーカーの中国移転によって、生産戦略を転換させている。来台9年目の高杉春正・台湾TDK会長は、中台間での開発と生産の適切な分業によって、台湾拠点の発展を目指している。


高杉春正(台湾TDK会長)

高杉春正・台湾TDK会長(NNA撮影)

台湾TDKは現在、国内外のIT(情報技術)メーカー向けにトランスコア、チップコンデンサー、ラバーマグネットなど多品目を製造している。このうち最も生産量が多いのは、パソコンや携帯電話機の電源部の電圧コントロール等に使われるトランスコアだ。楊梅工場(桃園県)では、用途別に形状やサイズの異なる数百種類を月当たり約500トン生産している。これは台湾市場で、実に65%のシェアを占める。

■台湾拠点の役割を明確化

楊梅工場は1980年代まで、TDKグループのアジア最大の電子部品製造拠点だった。しかし、1990年代に入ると従業員の人件費が生産コストを圧迫し始めた。このため台湾TDKは1994年、中国・福建省アモイ市に新たな生産拠点としてアモイTDKを設立。台湾TDKを素材技術の開発と指導、運営管理を行う中台の「司令塔」と位置付けることで、アモイTDKとの役割の分担を図った。

まず、人件費負担の大きいトランスの製造工程をアモイ工場に移転した。同工場へは台湾TDKから技術者40人を派遣して各種部品の生産指導を行なっている。

台湾での生産を前工程と台湾向けの製品のみに集中させつつある一方で、基礎材料研究所を設立し、同研究所ではトランスの芯材で製品の性能を決定付けるフェライトコアの新材質開発を行っている。これまで日本のTDK基礎材料研究所が同素材の研究を行っていたが、中国に研究開発(R&D)基盤を移すことで、より中華圏市場のニーズに即した素材開発をタイムリーに行うことが可能となる見通しだ。

さらにR&D業務に当たる素材研究のデータ収集作業は、アモイTDKの研究所に移転させることにより、開発コストを大幅に圧縮した。アモイTDKは、日本の20分の1の低廉な人件費を利点に90人近い中国人研究員を採用し、短期間に大量の研究データ蓄積を達成。この結果、新材質の開発をし生産コストを3分の1に圧縮することが可能となった。

「中国と競うよりも、中国と共に発展して行く方法を考えなければならない」。

明確な中台分業システムの確立が、台湾拠点の生き残りの鍵となりそうだ。

■半歩でも前へ進む

「半歩前に進めば黒字」――これが高杉会長の業績に関する持論だ。地元の競合他社と厳しい競争を繰り広げる中で、わずかでも他社より確実なリードがあれば、業績をより伸ばしていけるという考えだ。

フェライトコア分野では、現在台湾にライバルメーカーが23社あり、このうち15社までが台湾TDKの元社員が興した企業だ。

台湾TDKでは、フェライトコアのR&Dに加えて、新しい製品分野の開拓も積極的に行っている。近年は付加価値の高い光ディスクドライブのピックアップヘッドのR&Dに力を入れており、まもなく日本本社との共同開発による台湾初のDVD-RW(追記型デジタル多用途ディスク)スリムコンボドライブ向けヘッドの生産を開始する。この製品は台湾の先端オプト・エレクトロニクスメーカーも生産を行っておらず、台湾の部品メーカーに差を付け、業績伸長の起爆剤となることが期待されている。

台湾TDKの今年の目標売上高は、昨年比30%増の180億台湾元。中台工場の補完性を完璧に近付けて、相互の強みを発揮させあう同社は、台湾の産業空洞化を巧みに生き抜く日本メーカーの1つのモデルを示唆している。


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