2001/06/18

第32回 珠海麒麟統一ビール<キリンビール>、良質のダムがはぐくむ、新しいビールトレンド



工場の裏手には岩肌が露出した山が広がり、その奥には中国では珍しい軟水を供給するダムがある。南国の風が吹く海浜都市・珠海に拠点を構える珠海麒麟統一ビールは、この良質な水と日本で培ったノウハウを武器に、中国のビールトレンド改革を狙う。

珠海麒麟統一ビール(以下珠海キリン)は、1996年11月にキリンビールと台湾・統一企業の合弁企業として設立された。前身である珠海ビール厰の設備と「海珠ビール」のブランドを引き継いでの会社設立。資本金は7,400万米ドルでキリンが60%、統一が40%を出資している。

珠海キリンビール

生産しているのは海珠ビール、キリン一番搾りなど。比率は海珠ビールが約95%を占め、一番搾りが約5%となっている。年間売上高は3億1,200万元、昨年は約1,000万箱を販売した。

製品は95%が国内販売、5%は隣接するマカオに輸出されている。マカオへの輸出は全体からみればわずかだが、それでもマカオ市場ではトップシェアを誇る。一番搾りは上海や北京など沿海部の大都市へも出荷。主力製品の海珠ビールは、珠海を中心とした珠江より西の地域、中山や斗門、江門、そのほか番禺や東莞、潮州、汕頭などで売られている。

■自社専用ダム

海珠ビールという製品名では、一見すると日系のビール会社の製品と分からないかもしれない。しかし、珠海キリンの製品には、キリンが日本で培ってきたノウハウとこだわりがふんだんに詰め込まれている。

大事な原料の一つである水は、工場裏手にあるダムから供給を受ける。このダムは周辺を岩盤質の山に囲まれており、水質は中国には珍しい軟水。しかも、このダムから供給を受けているのは珠海キリンを含む企業2社だけというからぜいたくだ。

一番搾りの主要原料は、麦芽はカナダから、ホップはドイツとチェコから輸入しており、この辺りは日本での製造とまったく同じ。でんぷん分の米は中国で調達する。ビールの味を左右する酵母は毎年1回、日本から試験管に入れて空輸。この酵母を、珠海工場で数トンにも培養して使用している。

キリン

「ビール生産は大規模な機械を使った装置産業。よって品質の安定は工程管理と化学分析、試飲によって決まる」と説明するのは、生産管理を担当する柳瀬和彦部長だ。工程は、ドイツ製の制御コンピューターなどの先端技術とともに、教育を経たオペレーターにより厳しく管理。また工程の中では、麦芽など農産物の品質変化に対応するために、糖化の時間を変えてみるなど微妙な調整を繰り返し行う。「今では日本の一番搾りのコンセプトを満足できる味を出せるようになってきた」と柳瀬部長は自負する。

成分のバランスなどを計る化学分析も当然重要だが、結局最後は「人の舌」でチェックするのは、中国も日本も同じ。珠海キリンでも選ばれたパネラー数人によって試飲が繰り返される。 気になる流通

同社の販売は全て問屋を通じて行われている。問屋が工場までやって来て、代金と引き換えに製品を持っていくシステム。この制度なら代金の焦げ付きは起こらないのだが、どうしても製品の保存や管理が問屋任せになってしまう。これについて同社の宮原富士樹総経理は、「販売部を通じて問屋を指導するなどして対応している」と説明。珠海市内なら、現在は生産から2~3日で消費者のもとに届いているという。

その上で宮原総経理は、「ビールは温度と振動、太陽光を激しく嫌う商品。流通制度の整備は今後の課題」と語った。

■目標は中国ビール市場のトレンド

珠海キリンはこの夏、すっきりしたのど越しの新製品「南極氷」を発売した。同社は今後も多くの時流に沿った新製品を開発し、この風光明媚な海浜都市・珠海から、中国のビールトレンドを創ることを目指す。


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