2001/05/21

第28回 上海江崎格力高食品<江崎グリコ>、コンマ何秒の「口どけ」



半年でヒット商品を生み出す――。中国進出を決めた際、江崎グリコが自ら課した課題だった。1996年に発売した野菜クラッカー「菜園小餅」から数えて6年。今では、満を持して送りだしたポッキー「百奇」が、上海地区で「9割以上が食べたことがある」と答えるお化け商品に成長している。チョコレートの風味と触感を大切にするために、夏場の販売を見合わせるほどのこだわり。日本で生まれた技術と味が、上海の若者の心を舌を確実にとらえている。

「四川省のどこそこに良質の小麦があると聞けば飛んでいき、またその村でいい材料の噂を聞きつけては山を越える。そんな繰り返しでした」。

当時、工場長として生産サイドの責任を一手に負っていた西田幸博総経理は、懐かしそうにそう振り返る。今でこそ希望に沿った価格やスペックの材料が手に入るようになったが、一昔前の中国で、高品質の素材を安定して集めるのは至難の業。文字通り東西奔(ほん)走の毎日だった。

グリコが上海市場に向けて最初に発売したのは野菜をふんだんに使ったクラッカー。トマト、ごま、ピリ辛ネギの3種類でスタートした。95年の上海進出から約1年が経っていた。その後99年にグリコ独資の上海江崎格力高食品有限公司が誕生、ポッキーの販売をはじめる。

「スナック系のビスケットを作ろう」。サクサクとした歯触りが人気の「菜園小餅」は、そんな上海グリコの方針に基づいて選択された。

■3年目の上海ポッキー

ポッキーを上海に初めて送りだしたのは99年10月。今年で3年目に入る。日本と同様、モーニング娘。をキャラクターとして、テレビなどで積極的にコマーシャルを打っている。上海市内を縦横無尽に走る路線バスには、ポッキーやプリッツ、中国市場独自のビスケット「goo」などグリコ製品で染められた車両も。

商品開発は日本本社の支援で行うが、日本にある商品でも調合を変えており、「むしろ日本製よりおいしい」くらいだと胸を張る。「40年近い歴史を持ち、改善の余地がないほど完成度が高い」というポッキーでも、市場が違えば工夫が必要だ。

チョコレートは、カカオ豆から取り分けたカカオマスに、砂糖やカカオバターを混ぜ合わせてつくる。時間をかけて練り上げたチョコレート生地をテンパリング(温調)マシンで温度を調節しながら固めていく。テンパリングはカカオバターの結晶を理想的な形に仕上げるための重要な工程。冷却と加熱とを繰り返すテンパリングの良しあしがチョコレートの美味しさの秘密である触感を決める。

口に入れた途端に解け出すあの触感は、カカオバターの性質から生まれる。ポッキーに使うチョコレートはほぼ人間の体温で融けるようになっている。融点の微妙に異なるカカオバターをブレンドして、滑らかな「口どけ」を作りだすのだ。

「味覚は10分の何秒かで決まる。このわずかな時間に口の中に何が走るか、美味しく感じるか。コンマ何秒が味の決め手になるのです」。その秘訣を聞いても、西田総経理は笑って詳しくは教えてくれなかった。

NNAからのご案内

出版物

SNSアカウント

各種ログイン