2001/04/16

第24回 YKK香港<YKK>、小さな部品、大きなこだわり



「スモールパーツ・ビッグディファレンス」――これがYKKのファスナー作りのモットー。消費者が服を選ぶとき、ファスナーが主役になることはまずないが、YKKは目立たぬわき役に職人のこだわりを施す。

工業ビルが立ち並ぶ新界地区屯門で、ひときわ目を引く大きなビルがYKKの香港工場。香港進出は1966年と早く、78年から屯門を生産拠点にしている。数回の増改築を経て、現在はビル3棟、計46フロアで総床面積14万3,026平方メートル。うち24.5フロアをYKKが使い、残りは他社に貸し出している。

ファスナーは、素材や製法によって【1】かみ合わせ部分が金属製の「メタルファスナー」【2】かみ合わせ部分がプラスチック製の「射出ファスナー」【3】土台となる布地にかみ合わせ部分がコイル状に組み込まれている「コイルファスナー」――に分けられる。YKK香港では、これらを合わせて年間5億本前後を生産している。

■「良いファスナー」の条件

藤川敏則工場長によると、YKKと他社との違いは「細かいところに手をかける」点。

何万本と生産しても品質にばらつきがなく、すべての製品が一定の高い基準をクリアするのが自慢という。

では「良いファスナー」とは?

藤川工場長はファスナーを1本テーブルに置き「ぺたっと平らなだけでも普通じゃない」と説明する。かみ合わせ部分と土台の布地を組み合わせる際に布地が引っ張られるため、普通に作れば製品は波打った形状になってしまう。ファスナーが波打てば、それを使った衣料品まで縫い合わせ部分が波を打つ。それを防ぐため、YKKでは土台に平らな布地は用いない。組み合わせの際にかかる圧力を、あらかじめ計算して折り込んでいるのだ。

さらに肌触り。ファスナー先端部などが肌に触れると、チクチクと刺さって痛い思いをすることがあるが、これは樹脂の切り口が露出しているため。YKKでは、肌を傷つけないよう、先端部の切り口をつぶす工程を怠らない。

染色の際、色ムラを出さないのも技術。色落ちしない、壊れにくい、布地がほつれない、といった「当たり前のこと」を「当たり前に実現する」ため、生産ラインには他社にはない工程がいくつも組み込まれ、材料もすべてグループ内で自家生産している。

ファスナーの質は、それを用いる衣料品の質に影響する。アパレルメーカーの高い要求に応えるため、情報に機敏に対応するのもYKKの強み。繊維品の人体への安全要求が高まると、「エコテックス」などの国際基準を満たすよういち早く対応した。

「開いて閉じるだけの部品だが、その裏では糸の1本1本まで手をかけているんです」。

■グループ内で切磋琢磨

58カ国・地域に拠点を持つYKKグループにあって、香港の生産量は米国、台湾とともに海外で3本の指に入る。香港には欧米バイヤーのヘッドオフィスが多いことから、その代表者らにグループの生産、マネジメントの現場を見てもらうモデル工場の役割も担う。いわば、中華圏での「YKKの顔」である。

それでも、圧倒的に安い中国本土製品の台頭は無視できない。香港工場の生産量は近年、頭打ちとなっている。

藤川工場長は「今後は、いっそう顧客の声に耳を傾けると同時に、こちらから顧客への情報提供も強化して付加価値を高めなければならない」と指摘。さらに「早くて確実な納期、クレームの絶対にない品質。この2つを世界一にしたい。そのために、まずグループで一番になる」と力強く語った。

グループ内の競い合いが、「良いファスナー」を「もっと良いファスナー」に変えていく。

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