2001/03/05

第19回 坂田種苗(蘇州)<サカタのタネ>、手作りで生みだすハイテク種子



播いてみなければ、分からない――。色でも形でも重さでも、外観ではその品質を見分けることはできない種子づくり。不良品をはじくのではない。不良品を作らない、究極のものづくりがここにある。

上海市と江蘇省の境界の街、太倉市にひっそりと立つ四角い建物。ここが広大な中国の大地に点在する委託種苗農場のヘッドオフィス、種苗最大手「サカタのタネ」の中国現地法人だ。花卉(き)や野菜の種子の試作や展示のほか、委託農場の生産指導、営業支援を手掛ける。全国各地の委託農場では、野菜と花卉の種子をそれぞれ数十品目生産している。

法人設立は1998年とまだ新しいが、同社の中国進出は1980年代後半から始まった。地域によって全く異なる気候条件を持つ大地を駆けめぐり、委託農場を探した。「当社の技術者は車も通らないような農村の道なき道を進み、農家に通った」。五味信二総経理は当時の苦労をこう語る。

■種は手作り

「サカタのタネ」の品質レベルは、従来の中国のそれと大きな差があった。生産側も使用側も購入した種1袋のうち30%の不良種子があっても販売可能という商環境の下、サカタの品質基準である発芽率や純度を守ってもらうために、言葉にできない苦労を重ねてきた。

遺伝子の違う2個体の交配によってできる第1代目を、雑種第1代(First filial generation)といい、通称F1という。異種交配によるF1は親よりも優秀な性質をもつことを利用した育種方法だ。例えば野菜だと、色よく形がきれいで揃い、耐病性の高い製品が育つ。自然受粉で何代も種子増殖を繰り返せる固定種とは異なり、 人間の手で受粉作業を行うF1は厳しい品質管理を必要とする。親種を植え、開花を見計らい雄しべを取り除いた母方に、異種の父方の花粉を掛け合わせる。農場ではたくさんの品種を同時に扱うので、かなり神経を使う作業だ。

その管理レベルを見守るのが、年間150日に及ぶ出張で農場を回る技術者。中国全土に散らばる委託農場に足繁く通うことで、管理・育成技術を指導すると同時に、種づくりにかける情熱、サカタの姿勢を伝える。播いてみなければ分からない、手直しができない種子という製品では、品質管理だけが命だ。五味総経理は「10年経って、安定した生産基地ができた」と微笑む。

大型の委託農場では、多いときには数百人の作業員が一斉に受粉作業に取りかかる。単純だが慎重を要する交配は、機械化はもちろん、風や昆虫などに媒介を頼むわけにもいかない。完全に人出に頼る労働集約型業種だ。広大な土地、低い人件費など生産基地としての中国への期待は大きい。

高い技術力で開発した種子。その品質は農場に張り付く技術者、そして手作業で育てる作業者の「人間力」に支えられている。

こうして生産された種子は、すべて日本に輸出。再度品質検査を行った後、さらに加工し、世界各国で販売される。

種にも偽物

種苗産業も他業種メーカーと同様に、同社のパッケージを模した偽物に悩まされている。「こんなに安いけど本物か」という問い合わせや「発芽しなかった」というクレームから偽物を発見することもあるという。「これもサカタの製品はいい、という認識があるからこそ」。中井マネージャーは「サカタブランドが中国の消費者に浸透し、サカタの種でいい製品を生産したい農家が育ってきている」と指摘する。

国の保護政策が複雑にからみあう農業には、さまざまな規制がかかる。生産基地として、市場として大きな魅力を持つ中国での事業拡大戦略を進めている。今後、3ヘクタールの付属農場も活用し、試作や販促など中国事業を本格化させる。

「中国での種づくりの秘訣は品質管理。それを支えるのが、全国を駆け回る技術者」と五味総経理。事業が拡大してもその姿勢は変わらない。

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