2001/02/12

第16回 台湾理研工業<リケン>、WTO時代の日中台連携目指す



自動車やオートバイのエンジン内部で、出力を得るピストンの外周に組み付けられる、ピストンリング――。エンジン内の気密を保ったり、摩擦熱を外部に逃がすなど、エンジンの性能を維持する上で欠かせない役割を果たす部品だ。

橋井哲雄副董事長

自動車やオートバイのエンジン内部で、出力を得るピストンの外周に組み付けられる、ピストンリング――。エンジン内の気密を保ったり、摩擦熱を外部に逃がすなど、エンジンの性能を維持する上で欠かせない役割を果たす部品だ。

台北市からほど近い台北県五股工業区にある台湾理研工業は、このピストンリング生産で世界トップクラスの実力を持つ(株)リケンの合弁子会社。事業開始は1968年で、台湾の自動車部品の合弁メーカーとしては最も初期に進出している。中華汽車(三菱自動車系)、裕隆汽車製造(日産自動車系)、三陽工業などの大手をはじめ、台湾で業務を展開するほとんどすべての自動車・オートバイメーカーと取引関係を持っており、現在、新車市場向けの製品シェア率は約60%と、ライバルメーカーを全く寄せつけないトップの地位を長期間にわたって守り続けている。

台湾理研の運営に当たる橋井哲雄・副董事長兼総経理は、唯一の日本人スタッフでもある。中国・アモイにある同社の100%子会社の、アモイ理研工業の董事長も兼任しており、台湾とアモイを頻繁に往復する多忙な生活を送っている。「赴任4年目を迎え、ようやく慣れてきました」と、落ち着いた口調で語る。

■小さな名わき役

ピストンリングは、円に近い細いC字形をしており、大人の手のひらに乗るくらいの大きさで厚さ1~2ミリほどの鋳鉄またはスチールでできている。エンジン内のピストン1本当たりに、2~3本が組み付けられる。要求される機能は気密性以外にも多岐にわたり、各取引先のオートバイ・自動車メーカーのエンジンモデルごとに、求められる仕様が異なる。このため、流れ作業で一度に大量生産することはできず、各タイプごとに図面を見ながら丹念に仕上げる多品種少量生産が基本となる。まさに職人としての根気と技能が必要とされる仕事なのだ。

そして、台湾理研の高水準の材料・加工技術と製品品質が多くの取引先から評価されており、特定の顧客だけに頼らない、安定した経営につながっている。

ピストンリング

日本から台湾へ、そしてアモイへ

現在、ピストンリング技術の研究開発(R&D)は日本の(株)リケンが行っており、台湾理研はその技術を生産現場で応用し、改良を加えている。そして、こうした現場のノウハウ中国のアモイ理研に伝え、レベルアップを図っていくことが台湾理研の重要な使命となっている。

なぜならば、現在中国の自動車市場は飛躍的な拡大期を迎えているためだ。昨年の自動車販売台数も前年比18%増と伸びており、グループは市場開拓の大きなチャンスを迎えている。

さらに、台湾と中国の世界貿易機関(WTO)加盟によって、台湾の自動車部品と2輪車部品の輸入関税は2004年までに25%~15%へとそれぞれ引き下げられるため、台湾理研にとってアモイ理研から製品を調達するメリットが大きくなる。

このため台湾理研は、アモイ理研を強化すべく、現在幹部社員を4人常駐させ、現地スタッフの教育・指導に当たらせている。「中国の優秀な人材が集まったことと、同じびん南語を使う台湾出身の幹部らの努力によって教育は着実に成果が上がっている。しかし、アモイ側のスタッフにはまだ改善意欲が十分でないと感じている。課題の生産性アップのために、インセンティブの導入を検討している」と語る。さらに、今年から(株)リケンからの日本人総経理を派遣して技術力と販売力を強化し、現在のピストンリング月間売上本数の約60万本を、大幅にアップさせる戦略だ。

一方台湾理研は、アモイ理研も含めた低価格の中国製ピストンリングが将来は市場に参入することを見越して、高付加価値の新製品の開発と、生産コストの削減を精力的に進めている。WTO時代を迎え、日中台連携のモデルケースを作ろうというグループの挑戦が、いままさに始まろうとしている。


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