2004年10月12日

第137回 商菱ロ業(昆山)<エム・シー・アルミ>、小ロット・多品種を可能にした匠の技



アルミニウム合金地金専業大手のエム・シー・アルミが、生産量世界一、消費量世界第二位のアルミ大国・中国で、自動車向けの高品質アルミニウム合金を生産している。自動車産業の伸びを追い風に、着々と業績を伸ばしている。

生産ライン
商菱ロ業(昆山)有限公司は1995年、エム・シー・アルミ、三菱商事、エンケイの3社の合弁で設立された。二輪車のホイールを生産するエンケイの中国進出をきっかけに、将来の中国のモータリゼーションを見込み、中国での事業展開を決めた。

周囲に日系企業が数十社しかなかった時代に、全くの手探り状態でのスタートだった。設立当初から赴任している上野堅司董事長は中国ビジネスの成功の鍵について「優秀な幹部を探す能力があるか、出会える運を持っているかにつきる」と語る。そして同社はそれを持っていたといえるだろう。加えて「現地幹部に任せる、失敗してもいいと腹をくくる」という上野董事長の一貫した方針が人材を育て上げ、安定した経営体制が整えられた。

工場は翌96年末に稼働したが、振り返ってみると「95年の進出は、実際には早すぎた」と上野董事長。日系自動車メーカーの進出にはまだ早く、当初手掛けていた二輪車向けも、中国の消費市場では日本製品のコピーや廉価品が出回り、理想的な状況ではなかった。「高品質な製品を作ってさえいれば売れる」との当初の考えが間違っていたことに気付かされた。こうして事業展開を模索する中で、アルミ合金メーカーでは珍しい「少量受注、小口配達、多品種」という体制が確立された。

■細かい受注に対応

経営陣
設備はすべて日本から輸入した。日本人の常駐技術者の数に限度があること、現地スタッフはすべて素人であることから使いやすく故障しにくい日本製を導入することを決めたという。原料は、日本では自動車や建材、飲料缶などのアルミ合金スクラップが主となるが、中国ではまだ回収システムがないため、アルミニウムのバージン材を使っている。バージン材は中国国内で調達、一部の輸出向け製品には増値税対策のため、オーストラリアの輸入原料を使っている。

溶解炉の容量は18~20トンだが、インゴット連鋳ライン全体の稼働時間を12時間にするため、1回の投入量を15トンに設定した。24時間で2回のライン稼働となる。アルミと銅やケイ素などの添加物を炉に投入し、800度で溶解しながら攪拌する。途中でサンプルを取り出し、発光分光分析装置にかける。見た目では全く分からない各金属の成分を数値化し、品質をチェックするのだ。不具合があれば必要に応じて、アルミまたは添加物を炉に加える。この微妙な調整が高品質を生み出す匠の技だ。その後、フィルターで不純物を取り除いたあと、鋳型に流し込まれる。

現在の唯一のリサイクル材料は、ホイール工場から戻されたアルミ切粉だ。まず焙焼炉で水分、油分を取り除き、磁力選別機で鉄分を排除された切粉は再び、ホイール用のアルミ合金原料として生まれ変わる。

97年からはるつぼを使って、合金添加用として使用する母合金(マザーアロイ)の生産、輸出を始めた。日本ではいわゆる3K作業として生産できなくなったるつぼ生産だが、ここでは十分に対応できる。

現在、約30製品を生産している。同社の他の工場と比べても倍以上の製品種を、1つの炉で回すのだ。毎回溶解炉を洗浄するわけにはいかないため、合金成分の異なる製品の生産スケジュールには非常に神経を配る。このノウハウが同社の強みである「少量受注、小口配達、多品種」を支えているのだ。最低3~5トンから受注する小回りさが受け、自動車部品に限らない幅広いアルミ製品分野の引き合いが入っている。

■狙いは再生アルミ市場

日系自動車メーカーの進出、そして中国のモータリゼーションの加速からここ数年、受注が急速に伸び、工場はフル稼働状態となった。現在の年産量は約9,000トン。来年には2基目のラインを導入する2期事業への着手を検討している。2期が完成すれば生産能力は倍増の1万6,000トンへと拡大する予定だ。設立時の事業計画より倍の時間がかかったが、堅実に軌道に乗ってきた。陶守誠一郎総経理は「品質管理、きめ細かいサービスで客先から高い評価を受けている」と胸を張る。

中国のアルミの年間消費量は400万トン。すなわち将来的にはリサイクル原料となる。再生アルミの高い技術力を持つ同社は、リサイクル意識の高まる中国で大きな潜在力を持つ再生アルミ市場をターゲットに長期的な事業展開を図っている。【上海・平良孝子】

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