2004/05/11

第118回 東莞長谷川金属制品<長谷川工業>、職人芸が生み出す、こだわりの脚立



樹木の刈り込みから電球の取り換え、はたまた大掃除まで、日常生活の中で「高いところに登る」機会はなにかと多い。東莞市横瀝鎮に拠点を置く東莞長谷川金属制品有限公司は、そんなときに欠かせないハシゴや脚立をメーンに生産している、中国では数少ないメーカーの一つだ。

同社は日本の長谷川工業株式会社の中国生産拠点として、2001年7月に設立。「当初は何も分からず、全て手探りでのスタートでした」と同社の平山敬二総経理。同年10月には生産を開始、02年2月から輸出を開始している。

■アルミ溶接は職人芸

現場作業
現在同社がメーンに生産しているのは、園芸用三脚脚立(月産約5,000台)とハシゴ兼用脚立(月産約2万5,000台)の2種類。原材料となるアルミ押し出し材は主に香港、台湾系企業から調達している。

園芸用三脚脚立の製造は、まずアルミ押し出し材を設計図の寸法、角度に合わせて切断することから始まる。切断された押し出し材は溶接され、パーツに加工される。アルミの溶融温度は鉄や銅に比べると低いが、比熱・溶融潜熱が大きく熱伝導がよいため、急速に多量の熱を与える必要があり、溶接作業には非常に気を使う。またパーツの質は直接製品の品質に影響するため、この時点でパーツに対する全数検査が行われる。その後は仮組み。パーツを溶接して組み合わせ、製品の形に近づけていく作業だが、アルミは熱によるひずみが発生しやすいため、全て指定の順番通りに確実に溶接し、形を整えることが求められる。仮組みの住んだ製品は本溶接に回される。アルミ溶接はやり直しが効かないため、ここでの失敗は許されない。「当社のアルミ溶接は完全な職人芸。工芸品を作る感覚ですね」と、同社の村田安弘副総経理。

溶接作業の済んだ製品は検査に回され、外観や溶接忘れがないかを徹底的にチェックされた後、梱包し出荷されることとなる。

■厳しい 品質チェック

経営陣
ハシゴ兼用脚立の組み立ては大半がオートメーション化されているが、ピン入れなど一部の工程は手作業だ。6.1ミリのピン穴に6ミリのピンを従業員が1つずつはめ込んでいく。ピン穴を大きくすればオートメーション化やスピードアップも可能だが、村田副総経理は「整合性を考えると、ピン穴を大きくすることはできない」という。こんなところにも製品へのこだわりがかいま見える。

完成品には定期的に強度、安全性を確認する抜き取り検査も行われている。「人が乗るものですから、強度と安全性には最も注意を払っています」と平山総経理。重さをかけても変形しないか、ハシゴの状態で力をかけた際のたわみ幅はいくつか、戻り具合はどうか……など、労働安全衛生法、日本工業規格(JIS)、製品安全協会(SG)などの法規制を余裕を持ってクリアできる社内品質基準を定め、厳しい検査が行われている。

現在同社で働くローカルスタッフは152人。うち130人が現場作業員だ。個人のスキルが製品のカギとなるため、技術者を育てるための社内教育には力を入れている。

今でこそ多数のベテラン技術者を抱える同社だが、平山総経理によると「進出当初には一定以上のスキルを有したアルミ溶接要員が1人しか見つからないなど、頭を抱えたことも多かった」とのこと。それでも「ローカルスタッフの熱心さ、覚えの早さは驚異的。熱心なうえ手先も器用で、習得のスピードは日本より数倍早い」と平山総経理。東莞では従業員の定着率がよく問題視されるが、同社は各種レクリエーションや福利厚生の充実を通じ、従業員の定着にも尽力している。

現在は製品の100%を日本に輸出しているが「将来的には中国市場も視野に入れていきたい」と平山総経理。「ハシゴや脚立だけではなく、安全作業台など既製品では補えない工場向けの設備もオーダーメードで展開していきたいと考えています。顧客のニーズに応えられるものを中国で設計、製作していけたら」。今後は現地の企業も対象とした中国市場の開拓を進めていくのが目標という。【広州・菅原湖】

NNAからのご案内

出版物

SNSアカウント

各種ログイン