2004/02/03

第105回 高雄山葉<ヤマハ>、ノウハウ蓄積生かし高級ギター生産で世界一へ



音楽・楽器業界をリードするヤマハ。台湾には2カ所の生産拠点を設けている。台湾山葉(桃園県)がピアノを中心に製造するのに対し、高雄山葉はギターに注力する一大製造基地だ。

■楠梓加工輸出区の最古参

生産ライン
高雄山葉は高雄市の楠梓加工輸出区内にある。1970年に設立され、同加工輸出区内の最古参。3階建ての建物を中心に原料倉庫、汚水処理施設などを備え、総床面積は2万8,720平方メートルとなっている。入り口受付前には光り輝くギター製品が並べられ、音楽の世界へと誘ってくれる。

同社は1971年からアコースティックギターの生産を開始した。これまでの生産製品はドラム、ステレオ、アンプ、エレキギターに加え、テニスラケットやゴルフクラブなどのスポーツ用品にまで及んだ。1996年から本格的にミキサーやエフェクターなどPA機器の生産に乗り出し、現在はアコースティックおよびエレキギターと共に生産の中心になっている。現在は製品の生産高比率で、アコースティックギター約40%、エレキギター約15%、PA機器約45%になっているという。

日本人5人を含む社員500人をまとめるのは、高雄山葉には4回目の駐在となる富田総経理だ。自らもギターを弾くという富田総経理は技術部門の出身。初めての駐在となった20年前は設計部門、その後は品質管理、購買・生産などの根幹業務に携わり、今回は総責任者として2003年9月に来台した。

ギター生産の特徴を伺うと、「作り方のノウハウ」を何よりも強調していた。他の製造業以上に、ギターの木工加工や塗装には熟練の技術が必要とされる。その積み重ねが、高付加価値を有した質の高いヤマハ製品の創造につながるという。社員の平均年齢は40歳を超えるが、工場立ち上げ時から携わっている技術者が多くいるベテラン集団だ。

■緻密な木材保存と熟練の塗装技術

富田淳爾・総経理
ギターの生産は、原料の調達、乾燥、木工加工、塗装、組み立て、調整、検査といった過程を経るが、中でも重要なのは最初の調達と乾燥工程となる。原料となる木材は、「価格の変動が激しく、切り出しの時期も限られている」(富田総経理)ことから、安定調達が難しいというが、壁がなく屋根のみの倉庫には、インドネシア、カナダ、米国、インド、アフリカ各国から切り出された木材が山のように積まれていた。ここで数カ月、ものによっては半年から1年もの間放置される。空気と太陽など自然の中での天然乾燥により含水率を下げた後は、人工乾燥炉でさらに乾燥させ、楽器部品に耐えうる木材を作る。家具や建材とはレベルが違う乾燥度合いで、精密な楽器を生産する上できわめて重要な工程だ。

また、塗装工程も塗料の種類や厚さが品質に直結するため、経験がものをいう作業となる。わずかな違いが完成品の音に微妙に影響する。高雄山葉ならではのノウハウがここで生きてくる。

塗装工程で出る塵、汚水は、大きなパイプを通って工場の外にある処理施設に運ばれる。環境にも配慮した運営に、模範工場との評価の声も高い。

ギター工場の多くはここ10年ほどで中国に移転していった。コスト削減が図られ、生産本数も増加するからだ。しかし製品の品質ではまだまだ「Toy(おもちゃ)の部類」(富田総経理)の物も多いという。社員の入れ替えも激しく、ギター作りに重要なノウハウの蓄積がスムーズに行われるか、疑問も残る。だからこそ完成度の高い台湾拠点の存在価値が大きくなってくるのだ。

富田総経理に今後の目標を聞くと、「中~高級品で世界一のギター工場を目指す」と頼もしい答えが返ってきた。生産効率を上げながら高付加価値の製品を生み出すのが理想。グループのマザー工場として君臨し、ヤマハのギターを台湾から世界へ送り出す。
(奥山要一郎)

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