2003年12月23日

第101回 花王(台湾)<花王>、全体最適を実現し「アジアをリードする工場」へ



新竹県湖口郷新竹工業区に位置する花王(台湾)の新竹工場。洗剤の「アタック」、紙おむつ「メリーズ」、パーソナルケア「シフォネ」「ビオレ」など約70種類200品目の製品を生産する同工場の現場に一歩足を踏み入れれば、一切の無駄を排した効率性を印象付けられるだろう。バブル経済が本格化する前の1986年の段階ですでにコスト削減の取り組みに着手した「花王イズム」は、同工場でもしっかり具現されている。

工場風景
新竹工場を率いる安井尚人・工場長は、かつて生産技術を経験した後、グループ全工場のオペレーション企画を担当するなど、生産管理のプロフェッショナル。その安井工場長が目指すのが「品質、コスト、スピードでアジアをリードする工場」だ。

花王は1986年に、グループを挙げてコスト削減を目的としたTCR(トータル・コスト・リダクション)活動を始めた。2000年からは第4次TCRに当たるVCR(バリュー・クリエイティング・リボリューション)を展開し、開発、生産、流通、販売の全体最適化を目指している。

新竹工場も2002年より抜本的な構造改革に突入した。アジア地域でのリアロケーションをはじめ、生産ラインへの台湾製機械の導入や現地原材料の使いこなし、製品容器の薄肉化などさまざまな改善によって、同年は売上高の1.5%に当たる8,000万台湾元のコスト削減に成功した。今年8月からは「アタック」の生産ラインで、平日と休日の電気料金の差額に目をつけたコスト削減の取り組みを始めている。同地区の電気料金は、平日は1キロワット当たり1.95元だが、休日は0.76~1.18元に低下する。月曜日を休む代わりに土曜日に働くことによって、年間で55万元が節約できる計算だ。「いまやコストダウンはこのレベルまで来ている」と安井工場長は胸を張る。

■少量多品種製品重視へ

安井工場長が特に重視するTCRが、機械と人力のコンビネーションの最適化だ。「機械に適した工程、人の手に適した工程をうまくマッチングさせればラインを効率的に組め、より生産性が向上する」という。

安井工場長
この改善を重視する背景には、台湾市場の変化が挙げられる。消費者の嗜好は多様化しており、より多品種の製品を少量で生産する必要がある。また、洗剤やシャンプーなど主力のハウスホールド製品は市場が飽和気味となる中、今後シェアを飛躍的に伸ばすことは難しい。収益力強化のためにも、付加価値の高いパーソナルユース製品などの少量多品種型製品の重視は不可欠で、必然的に機械中心の大量生産型から、人手を使ったフレキシブルなラインの構築が求められるのだ。

同社がこの10月に発表した「ビオレ・ピンクホワイトシリーズ」は、少量多品種型製品のまさに成功例だ。美白ブームに照準を当てた台湾独自の同製品は、発売後1カ月で市場のトップ5に入る人気を呼んだ。こうしたタイプの製品に注力する傾向は、今後ますます強まるという。

この戦略は同社の将来構想にもつながってくる。昨年58億元の売上高を記録した台湾は、花王グループにとってアジアでは最大、全世界でも第3位の重要な市場だ。しかし、生産拠点としての台湾の人件費は、すでに同社の上海工場の7倍、ベトナム工場の9倍に上っている。一方で日本と比べれば、1人当たりの生産性では遅れをとっている。新竹工場の位置付けは微妙なところにあるのだ。

■製品別の戦略で自立化を

「ここで勝ち残っていくためには、『コストで自立できる工場』にならなければならない」と安井工場長は強調する。「ハウスホールド、サニタリー、パーソナル製品、それぞれ違った戦略で自立化させていく。中華圏、アセアン圏、そして日本も含めた中で全体最適を実現しながら、質の高いリソースを生かして台湾にしかできないオペレーションを目指す。いかに知恵を出すかがカギだ」。

台湾に展開する多くの日系メーカーにとって示範となる経営モデルを展開する花王(台湾)の挑戦からは、今後も目が離せそうにない。
(吉川毅)

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