2001/10/09

第8回 三井高科技(香港)<三井ハイテック>、世界を支える「ICの足」



ICチップの台座とも足ともいわれるリードフレーム。その美しい幾何学模様は超精密化の証しだ。三井ハイテックは創業当時からの金型加工技術とノウハウ、絶え間ない技術革新で培ったスタンピング(打ち抜き)技術でそれを実現。トップメーカーとして前線を走る。

本田豊徳董事長

リードフレームは、薄い金属板に微細な打ち抜き加工を施した半導体パッケージの主要部材。ICチップを搭載するダイパッド部分、ICチップ上の端子と結線するインナーリード部分、外部端子となるアウターリード部分で構成され、ダイパッド部分を中心にインナーリードのピンが放射線状に広がる。「高集積化」「多ピン化」「納入期の短期化」の要請から、低コストで量産可能なスタンピング加工製法を、世界に先駆けて開発したのが、金型メーカーとして創業した三井ハイテックだった。

■金型が命「技術の結晶」

「金型は技術の結晶です」と、三井高科技(香港)の本田豊徳・董事長は声を大にする。スタンピング加工のリードフレーム生産は、その金型加工技術が核心となる。ミクロン単位の超精密金型をもってすれば、厚さ125ミクロンの鋼板を幅90ミクロンの刃(パンチ)で打ち抜き、240ピンもの高精度リードフレーム生産が可能だ。

工場内、ロール状の圧延鋼板がゆっくりと回転し、1台の重さが60キロ~70キロの超精密金型が上下に数台設置されたプレス機に流れていく。金型が寸分の狂いなく噛み合わさることで、鋼板はきれいな幾何学模様に打ち抜かれていく。使用する金型は日本で作られた最高精密の自社製品のみ。香港工場だけで金型はおよそ200種類、顧客の要望に応じてデザインされた刃(パンチ)が並び、さまざまな形状のリードフレーム生産に対応する。パンチのエッジを維持するため定期的なメンテナンスも欠かせず、熟練の技術者の活躍なしには不可能な工程だ。

リードフレーム

■香港に28年、これからも

三井高科技(香港)の立ち上げは三井工作所時代の1973年。これが海外初の生産拠点で、稼動と同時にスタンピング加工によるIC用リードフレーム生産を開始。以来28年間、香港域内をはじめ、華南地域、台湾などの顧客に製品を送り出してきた。三井ハイテック全体としては、消費地立地での生産を基本にシンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、台湾に工場を持つほか、中国本土には上海と天津にリードフレーム工場、東莞にモーターコア工場がある。

近年、メーカーによる生産拠点の本土移転(「北移」)が加速しているが、本田董事長にはあくまで「香港撤退の考えはない」。これは三井ハイテックが展開するアジア一帯の金融、物流、技術サポートの中心として、グローバル戦略での新たな付加価値を香港に見出しているため。低コストの「労働力」より高い「技術力」が必要なメーカーとして、「技術の蓄積がある香港」にとどまるメリットは大きいためだ。実際、香港の従業員88人の中には、立ち上げ当時から勤続28年というローカルの熟練技術者もいる。

■景気低迷、武器は技術のみ

米国半導体工業会(SIA)の最近の発表によると、今年8月の半導体製品の売り上げは世界全体で前年同月比42%の減少。米同時多発テロの発生で世界の景気減退は決定的になった。同社の受注にもその影響が懸念される。

本田董事長は「しばらくは辛抱のとき。メーカーとして技術の研鑚を重ねるのみ」と語る。業界の競合との戦いも激しい。だが、技術者の長年の経験に裏打ちされたノウハウ、技術力と開発力、そして品質、納期、コスト競争力がその戦いの武器になる。「最後には技術が勝つ」そんな信念とともに、三井ハイテックの「骨太な職人」の気概が感じられた。


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