2004年11月 4日(木)

第4回 「経営範囲(2)」[経済]


先生:前回は、経営範囲の概念について勉強しましたが、今回は、経営範囲を超えて活動をする場合のリスクについて、勉強します。これは、いわゆる中国Doing Business問題(中国国内において登記されていない外国企業が中国国内で営業活動を行なうこと)のリスクでもあります。

生徒:関係当局は、企業が経営範囲を超えて活動しているか否かをどのように判断するのでしょうか?

先生:関係当局(県級以上の工商行政管理部門)は、企業が経営範囲を超えて活動している疑いがある場合、【1】関連する経営活動の停止命令を発し、【2】関連する企業及び個人への聞き込みを行い、【3】関連する経営場所への立ち入り検査を行い、【4】関係資料の閲覧、コピー、封印、差押えを行い、【5】関係物品の封印、差押えを行うことができます。これらの職権を行使する契機としては、告発、風説、なんらかの記録や手続、全く別の犯罪や事件等、様々なケースが考えられます。

生徒:それらの職権を行使することによって、企業が経営範囲を超えて活動しているか否か判断するのですね。では、企業が経営範囲を超えて活動していると判断された場合には、どのように処分されるのでしょうか?

先生:大雑把に言えば、【1】警告、【2】罰金、【3】違法所得の没収、【4】営業停止・整頓、【5】営業許可証の押収、【6】営業許可証の取消の6種類の行政処罰があります。罰金の金額は、原則2万元(26万円:1元=13円)以下ですが、規模が大きく、社会的影響が重大な場合には、2万元以上20万元(260万円:1元=13円)以下となります。また、刑法には、「違法経営罪(中国語:非法経営罪)」という犯罪が存在しますので、それに抵触し、刑事責任を追及される可能性も考えられます。

生徒:経営範囲の逸脱に関しては、厳しく処分される虞がありますね。では、経営範囲を超えてなされた行為の民事的効力はどうでしょうか?例えば、「食品の生産、販売」という経営範囲を有する企業が食器を生産して販売したような場合、その売買契約は当然に無効になってしまうのでしょうか?

先生:この点、旧契約法に該当する経済契約法等のもとでは、「経営範囲を超えて締結された契約は違法経営にかかわるものであるから、当然に無効である」という考え方が支配的でした。しかしながら、1999年10月1日から現行の契約法が施行され、同年12月19日に契約法の適用に関する解釈(「本解釈」)が発布され、本解釈は、「国家の経営制限、経営特別許可及び法律法規の経営禁止規定に違反しない限り、人民法院は、経営範囲を超えて締結された契約について、経営範囲の逸脱を理由に無効と認定しない」旨を明示しました。 生徒:先ほどの事例について言えば、食器を販売した企業は、何らかの処分を受けるかもしれないが、本解釈に従う限り、人民法院が食器の売買契約を無効と認定することはないということですね?

先生:そうなりそうですね。経営範囲を超えて締結された契約について、経営範囲の逸脱を理由に無効と認定しないという方向に原則を転換した点は、経営範囲に対する取締りを重視しつつも、取引の安全に配慮した結果ですので、画期的な転換であったといえます。

生徒:中国における経営範囲は、日本で言えば「定款所定の目的」のようなものでしょうか?

先生:確かに、「定款所定の目的」と類似しています。日本の企業も「定款所定の目的」の範囲内においてのみ法人格が与えられると考えられています。ただ、日本の企業は、定款に記載された目的自体に拘束されることなく、目的達成に必要又は有益な行為を行うこともでき、それを逸脱したからといって行政処罰もありません。更に判例上は、一定の行為が定款所定の目的の範囲外と判断されることは殆どなく、実質的には「定款所定の目的」による制限は撤廃されているのと同様であると言われています。企業が永続的かつ営利的存在であり、その活動が広汎にならざるを得ないことから、これは合理的な帰結といえそうですが、中国の企業に対する経営範囲の制限も、徐徐に緩和されてゆき、やがては事実上撤廃されたのに近い状態まで至るかもしれません。

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