2014/07/18

基幹職の3分の2が現地人材:東レ、統一的労務管理進める 


早くから本社に「国際勤労部」を設け、グローバルで統一的な労務管理に取り組む東レ。現地人材の育成と登用に注力した結果、現在は経営基幹ポジションの約3分の2が現地人材で占められるまでになった。東レ式マネジメントノウハウを身に付けた現地人の部長が部下を指導する好循環が生まれている中国での事例などを国際勤労部長の山本隆弘氏に聞いた。

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---全社共通の労務ポリシーは何でしょうか。

日本の本社に海外関係会社の人事・労務マネジメントを所管する国際勤労部を設けたのが2000年9月で、比較的早くからグローバルレベルの労務管理に取り組んでいる。グループ共通の人材マネジメントの仕組みを作り、特に現地での基幹人材の確保、育成、登用に注力してきた。

具体的にはまず「グローバル・ジョブ・バンド(G―Band)」というグローバル・グレーディングの制度を設けている。これは海外関係会社の経営管理職のポジションを、職責や役割、会社業績への貢献度などに基づき4段階の「ジョブ・バンド」(職務基準)で管理するものだ。

G―Bandポジションに就いている現地基幹人材は「ナショナル・コア・スタッフ(NCS)」と呼ばれ、本社が直接管理している。バンドAやバンドBはおおむね社長ポジション、バンドCは役員、バンドDは部長という具合だ。ただ、同じ役職であっても、職責や役割などによって「バンドA」「バンドB」など格付が異なることもある。

NCSに求める能力要件、行動規範は「東レグローバルコンピテンシーモデル(GCM)」としてまとめている。この能力要件を満たせるよう人材育成を支援しており、NCSについては5年間にわたる「個人別育成計画」を毎年策定している。人材育成の基本はOJTだが、ほかに日本やそれぞれの国・地域で行うマネジメント研修などに計画的に参加させて育成を進めている。

2013年度の場合、G―Bandポジションの671人のうち418人が現地基幹人材(NCS)で占められており、全体の約3分の2が現地人材ということになる。

また、2011年11月に、全東レグループが共通した考え方でHRマネジメントを推進していくために「東レグローバルHRマネジメント(G―HRM)基本方針」を定めた。◇基幹人材の安定的確保と長期人材育成◇グローバル競争に打ち勝つ人材の選抜と育成◇適材適所の追求と公正性・納得性・透明性の向上◇企業体質強化のための多面的な施策の継続実行――の4つの項目があり、その下にこの基本方針を具現化するためにより実務的な「東レグローバルHRマネジメント(G―HRM)基本項目」を定めている。

以前は、国・地域や会社によって文化や環境も異なるので、それぞれの事情に合わせてHRマネジメントを進めていた。ただ、現地の良いやり方を尊重しながらも、やはりグループ全体で同じ方向に向かってHRマネジメントを進めていく必要があるということでG―HRMを作った。今これをグループ各社に浸透・展開しているところだ。

---G―HRMは浸透していますか。

製造会社を中心にグループ各社では毎年「人事・労務業務課題」を設定している。各社固有の課題とともに、先述の「G―HRM基本項目」に関する課題を必ず定めてもらい、国際勤労部が現地に赴き、課題の進捗状況を確認するためフォローアップ会議を行って浸透・展開状況を確認している。

また、グループ各社の人事・労務担当部署が実施すべき「人事・労務業務基本事項チェックリスト」を作成し、各社に実施状況を自己評価してもらっており、各社とも「何をやるべきか」を理解している。

そのほかグループ研修やグループHR会議なども通じて、粘り強く説明・意見交換を繰り返しており、国・会社によって状況は異なるが、G―HRMが着実に浸透・展開されてきていることを実感している。

---現地人材の反応はどうですか。

こういう基本方針を打ち出すとグループ意識が生まれてくる。現地では規模の小さい会社もあり、自分の所属する組織にしか目が行っていないことも多い。だが「グループ」の視点が出てくると「他のグループ会社の良い面を取り入れよう」との考えも生まれ、よりグループ力を発揮できるようになってきた。

彼らは日本で研修を受けると非常にモチベーションが上がる。世界各国からグループ各社の社員がやって来るため、東レグループの大きさを実感し、グループの一員として誇りをもって帰っていく。

---賃金高騰や人手不足の対策は。

国・地域によって違いはあるが、早くから進出している中国の場合、最低賃金がどんどん上がり、もはや労務費が安い国とは言えない。しかし賃金を抑えるとよい人材を確保・定着させることはできないので、中国に合った信賞必罰の考え方でメリハリをつけてやっている。江蘇省南通市の東麗酒伊織染(南通)有限公司や東麗合成繊維(南通)有限公司のように独資で進出した会社は歴史も長く(それぞれ1994年、1995年)、生え抜きの現地人材が部長や役員を務めている。こうした優秀な人材には業績とも連動させながらそれなりの処遇を行っている。

中国では巨大な内需を取り込むため、特に現地の営業人材を計画的に育てる必要がある。人材育成はOJTとOFF―JTの組み合わせで進めており、OFF―JTでは現地の人材教育プログラムを活用したり、日本で研修を受けさせる取り組みを行っている。

南通のように約20年も事業を続けていると、東レ式の経営やマネジメントを身につけた部長や役員なども登場してきた。それらの人材が部下の中国人に東レ式マネジメントを教えるという好循環ができてきており、それは強い競争力だ。今後はこうした幹部人材をグループレベルで活用していきたい。

---中国のグループ企業でストがありません。

労使関係は最も重視している。中国では「工会」の仕組みがあり、管理職も工会に加入している。この工会も活用しながら良好な労使関係を構築しており、ストが起こる雰囲気はない。広東省のある会社では、周辺で大きなストが頻発している時期に、中国人の製造部長が日本人の工場長に対して「自分たちが日ごろからきちんと管理しているのでストは絶対に起こりません。任せてください」と言い切っていた。

「尖閣」の時も問題はなかった。広東省の当該会社周辺でデモが発生し、別の会社の工場にデモ隊が突入しようとしたが、当社の従業員はそういうことはなかった。日ごろから労使で定期的に話し合うなどコミュニケーションは大事にしており、信頼関係はできている。東レでは良好な労使関係は非価格競争力であるとして、中国に限らずグループ全体の方針として最も大事にしている。

---現地社員向けの処遇やポストはどうしていますか。

G―HRM基本方針にもうたっている通り、能力と実績を重視し、人と組織にとって最適な職位登用を行うように努めている。先述の南通の会社では、日本の職能資格的な仕組みを取り入れ、部長職の資格を区分化する、参事や理事といった上位資格を設けるなどして昇格感を持たせる工夫も行っている。こうしたステップを踏んで上がってきた現地幹部の中から董事(取締役)になる人材も出てきている。

---取締役登用のステップは中国だけですか。

中国や東南アジアの早くから進出して歴史のある会社が中心となっている。取締役登用の前段階として理事の制度をインドネシア、タイ、マレーシアの会社でも取り入れている。理事として役員待遇を数年間続け、役員としての能力があると判断されれば実際に取締役に登用する。

歴史のある会社では、現地で経営やマネジメントを任せられる人材の厚みが増している。そうした会社では部長層はほとんど現地人材であり、部門長や取締役も増えてきており、タイやマレーシアでは会長や社長が現地人という会社もある。

写真2

---労務で苦労する点は何でしょうか。

新しい国・地域に進出する場合、そこに関する人事・労務マネジメントの知見がなく、苦労することもある。バングラデシュなどがそうだった。ただ、中国やインドネシア、タイ、マレーシアなどは歴史があり、労務担当の日本人出向者も配置しているので現地で彼らがローカルHRメンバーと連携して日々奮闘しており、本社から見ると概ね問題はない。

インドネシアでも最低賃金が年々大きく上昇し、賃金交渉で苦労する企業もあると聞くが、当社は比較的問題なくやっている。同国の場合、賃上げは組合と交渉を行うが、組合幹部の経験者を会社の人事部門に配置し、うまく対応させることなども行っている。もちろん、各社で日常的に労使のコミュニケーションをしっかり図り、良好な労使関係を築いていることが基礎となっている。

---アジアでの課題は何ですか。

アジア地域での事業拡大に向けて、今後特に営業系を中心に優秀な人材を確保していく必要がある。その際、社外から経験者を採用すると、それなりの給与を支払う必要があり、社内の賃金体系と合わないことも出てくる。メリハリのある賃金体系の構築、業績見合いのボーナス制度の活用、キャリアパスの明示などさまざまな工夫が求められている。(聞き手・写真 中村正)

<メモ>
東レの従業員数は連結ベースで4万5,881人(14年3月末)。このうち海外は2万8,511人で、アジアは2万人を超える。日本を除く24カ国・地域に関係会社151社(3月現在)がある。


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