NNAカンパサール

アジア経済を視る April, 2023, No.99

【LegalOn Technologies 法務レクチャー】

合意示す書面が命
契約実務の鉄則集

企業が取引を行う際、さまざまなリスクを想定した上でそれらを予防するとともに、万が一のトラブルに備えておく必要がある。今回は書面(電子での契約締結を含む、以下同)による契約の重要性とその一連の流れについて、現場の実務者や契約書の作成・審査(レビュー)を行う担当者の視点から注意すべきことを見ていく。LegalOn Technologiesの軸丸厳弁護士が解説する。

日系企業と地場企業による契約締結=3月、インドネシア(NNA撮影)

日系企業と地場企業による契約締結=3月、インドネシア(NNA撮影)

◆Lecture1
口約束で水掛け論
契約は書面締結を


企業の取引では「契約」が結ばれます。この契約がリスクを予防し、トラブルが実際に発生した場合に解決のよりどころとなります。ただし、内容が適切ではない場合や一方的に不利な場合は、リスクの予防や解決につながりません。

まず、契約とは何かを確認していきましょう。契約とは「法的な効果が生じる約束」の事をいい、申し込みと承諾の意思表示の合致により成立します。

例えば、あるコンビニエンスストア店Aにおいて、客のBさんが「パンを購入したい」という申し込みの意思表示を行い、A店が「売ります」という承諾の意思表示をすることにより両者の意思表示は合致し、パンの売買契約が成立します。このように、契約は書面(電子での契約締結を含む、以下同)によらず口約束のみでも成立します(法律上、書面での契約が必要なものもあります)。

出所:LegalOn Technologies

ただ、企業の取引は金額や影響が大きくなり複雑な合意内容になることも多く、リスク予防のため合意の内容を詳細に記載した契約書を作成することが重要です。良好な関係の企業間では、書面での締結までは不要と感じることもあるかと思います。

しかし、契約を書面で締結していない場合、例えば両者ともに原因のない外的要因によるトラブルが発生した際は、責任の所在を巡ってもめる可能性が高くなります。また、口約束では必要な条件を口頭ですり合わせた上で合意を行うことは非常に困難であり、契約締結後に齟齬(そご)が生じる可能性が高いといった問題点もあります。

トラブルの発生後、当事者間の直接の話し合いでの解決が難しければ、訴訟や調停などにより第三者(裁判所など)が介在して解決することになります。その際、契約書があれば交渉における議論のベースとなり、訴訟などでは証拠として利用することができます。一方、契約を書面にせず口約束だけだと交渉が水掛け論に終始して建設的な交渉ができず、訴訟では自社に不利な認定がされる恐れもあります。

◆Lecture2
国内法か国外法か
準拠法をチェック

出所:LegalOn Technologies

Lecture1は、契約を書面で締結する重要性について確認しました。続いて、契約書の作成(審査)から管理まで一連の流れにおける注意点を、ある企業の取引を例に見ていきます。

【ケース】ベトナム企業から届いた契約書案

日本企業のリーガル社で営業を担当する鈴木さんは、ベトナムのテクノロジー社に羊のぬいぐるみの製造および日本への納品を継続的に依頼しようと考えました。そこで鈴木さんがテクノロジー社に打診したところ、同社から契約書の案が届きました。

1 契約書の作成・審査(レビュー)の注意点

原則として、相手方から提示された契約書にそのまま署名・捺印してはいけません。通常、そうした契約書は相手方が責任を負う場面を限定しているなど、相手方に有利な内容となっております。そのまま署名・捺印してしまうと、自社のリスク予防やトラブル発生時の解決のよりどころとして活用できません。

まずは、契約書レビューを行う部門に確認を依頼しましょう。逆に言うと、契約書を自社が作成する場合は自社に有利な内容を記載することが可能です。しかし、あまりに有利過ぎる内容だと相手に悪印象を与えて締結できなくなったり、締結まで時間を要したりする可能性もあります。相手との関係性などを踏まえた内容にすることが求められます。

【注意点1】
原則、相手から提示された契約書にそのまま署名・捺印はNG!

鈴木さんは、法務担当の佐藤さんに契約書レビューの依頼を行いました。その際に前提情報として、取引を行うに至った経緯や概要、相手方との関係、今後のスケジュールについて佐藤さんに伝えました。相手方の情報や取引の背景事情が分からなければ、契約書レビューを正確に行えません。不足している情報は、相手方にヒアリングをするなどして収集します。

【注意点2】
契約書レビューには、相手方の情報や取引の背景事情の把握が不可欠!

法務担当の佐藤さんは鈴木さんからの依頼を受け、取引の実情に沿っているか、自社に不利益な点はないかを意識して契約書レビューに取りかかりました。

【注意点3】
契約書は、取引の実情に沿っているか、自社に不利益な点はないかの観点で確認!

佐藤さんは、契約書に記載の「準拠法(※)に関する条項」を修正することにしました。この条項は、ベトナムから送られてきた契約書案では下記のように記載されていました。
※国境を超えて紛争となったときに適用される法律

「(準拠法)
本契約の成立、効力、解釈及び履行については、ベトナム法に準拠し、ベトナム法に従い解釈されるものとする。」

当該条項がこのままでは、日本法ではないベトナムの法律に基づいて取引やトラブルの対応をしなければならなくなります。

日本と海外では法制度が異なることから、どの国の法律が適用されるかが契約の成立条件や契約条項の効力に大きく影響することになります。日本の法律を前提として契約書を作成したにもかかわらず、海外の法律で解釈されると予期せぬ事態が生じる可能性がありますので、海外との取引を行う際には特に注意が必要です。そこで佐藤さんは、日本法に準拠するよう修正を行いました。

「(準拠法)
本契約の成立、効力、解釈及び履行については、日本法に準拠し、日本法に従い解釈されるものとする。」

このように契約書の内容を精査し、自社が許容できる内容に修正を行うことになります。

◆Lecture3
締結後も続く取引
有事に備えた管理


2 交渉

佐藤さんは鈴木さんに契約書の修正案を提示し、修正の意図、修正必須の事項、交渉次第で妥協してもよい事項も合わせて伝えました。

その後、鈴木さんは契約書の修正案を基に修正の意図などを踏まえて、テクノロジー社への交渉を行いました。準拠法の適用はテクノロジー社にとっても重要な事項であり、鈴木さんは交渉が難航する可能性もあると考えていました。

しかし、実はテクノロジー社の親会社は日本企業で、その法務担当者の多くが日本法を理解しており、同社にとっても日本法準拠への修正は許容可能な事項でした。また、同社には取引実績を上げるため何としても日本企業との契約を成約させたいという背景がありました。リーガル社の要望には許容可能な範囲で応じるという交渉態度だったため、無事に修正に応じてもらえて佐藤さんの修正案で契約を締結できました。

【注意点4】  修正を交渉する際は、修正の意図、修正必須の事項、妥協してもよい事項の確認が必要!

3 締結

契約書の締結は署名押印が一般的ですが、海外では署名(サイン)のみが主流です。相手方に確認の上、適宜対応する必要があります。また、電子契約での締結を依頼される可能性もあります。

4 保管・管理

鈴木さんはテクノロジー社との契約を締結し、自社とテクノロジー社の署名がなされた契約書の保管・管理を佐藤さんに依頼しました。

契約の締結後、契約書の管理はないがしろにされる事が多々あります。あくまで契約の締結は取引のスタートであり、実際の取引は締結後も継続して行われるものなので、契約書の管理も重要な業務です。また、契約書の管理は、リスクマネジメント(情報セキュリティー対策)と業務の効率化(検索性の確保)のためにも重要です。なお、法人税法第126条第1項、法人税法施行規則第59条第1項第3号などの法律において、一部の契約書には保管義務が定められています。

契約書の管理は、適切な管理をしなければなりません(必要な人がすぐに取り出せる状態)。今回のテクノロジー社との取引は継続的な取引であり、特に有効期間の管理や有事の際にすぐに参照できるようにしておく必要があります。

佐藤さんは、リーガル社の契約書保管ルール(規程)に基づいて締結済みの契約書をスキャンし、契約書管理システムへと格納しました。同社は契約書を単に保管するだけでなく、必要なタイミングで契約書を検索し、さらに関係者のみが閲覧できるように閲覧権限も設定し、期日管理を確実に行うために契約書の一元管理を行っています。

【注意点5】
契約書管理のポイント!
①ルール(規定)の策定 ②検索性の確保 ③有効期間の管理 ④閲覧権限の設定

◆Lecture4
煩雑な書類とリスク
テクノロジー活用を

Lecture2の初めに示した「契約」に関する一連の業務の流れにおいて、テクノロジーを活用することで効率化や品質向上を行えます。

具体的には「1 契約書の作成・審査(レビュー)」においては、当社が提供するAI契約審査プラットフォーム「Legal Force」に登載されている弁護士監修の700点以上の契約書ひな型を用いて、契約書が作成可能。

また、契約書の審査においては、自動レビュー機能を活用することで、契約書に潜むリスクの把握をAIがサポート。抜け漏れがないか、自社に不利益・不公平な内容かを瞬時に表示し、契約条項の不利な内容の合意や抜け落ちなどを防ぐことが可能となります。

「4 保管・管理」の場面では、当社が提供するAI契約管理システム「LegalForceキャビネ」で、締結後の契約書を一元管理することができます。例えば、契約書の管理台帳に自動での情報登録、自由に閲覧権限を設定、契約書の更新期限の自動リマインドなどを行うことが可能。リスクマネジメント(情報セキュリティー対策)と業務の効率化(検索性の確保)につながります。

テクノロジーを活用することで、契約に関する一連の業務の効率化や品質向上を進め、リスクを抑止していきましょう。


     

軸丸 厳(じくまる・げん)

株式会社LegalOn Technologies法務開発、弁護士。神戸大学法科大学院を卒業後、司法修習を経て弁護士登録(第71期)。阪急阪神ホールディングスに入社し、企業内弁護士として同社と阪急電鉄の法務担当を兼務。法律相談、契約書審査、取締役会事務局、グループ全体の個人情報保護法対応、コンプライアンス対応やセミナー講師も行う。2023年2月から現職。


株式会社LegalOn Technologiesは2017年、大手法律事務所出身の弁護士2名によって創業(旧称LegalForce、22年12月に社名変更)。弁護士の法務知見と自然言語処理技術や機械学習などのテクノロジーを組み合わせ、企業法務の質の向上、効率化を実現するソフトウエアを開発・提供する。京都大学との共同研究をはじめ、学術領域でも貢献。19年4月よりAI契約審査プラットフォーム「LegalForce」、21年1月よりAI契約管理システム「LegalForceキャビネ」を提供している。


バックナンバー

国違えば制度変わる 発明を守る「特許」
自社商品いざ海外へ 商標権は抜かりなく
「お得です」掲げる前に 気を付けたい景品表示法
アジア進出では熟知すべき 不正競争防止法の「肝」
「買いたたき」に泣かない 下請法を正しく知る(後編)
無自覚な違反も多い 下請法を正しく知る(前編)
海外の有事に備える 不可抗力条項とは?

出版物