NNAカンパサール

アジア経済を視る September, 2022, No.92

【LegalForce 法務レクチャー】

海外の有事に備える
不可抗力条項とは?

各国の渡航規制が緩和され、進出企業の活動が本格化してきた。一方、感染症や政情不安、物価高といったリスクも依然多い。本連載では日系企業が踏まえるべき法務リスクや対応について、企業法務をサポートするLegalForceの専門家が解説していく。初回は、企業にとっての「有事」と契約書の「不可抗力条項」の重要性を同社の柄澤愛子弁護士が語る。

国軍に抗議するデモを行うミャンマー国民=2021年2月、ヤンゴン(NNA)

新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻など、予想の難しい「有事」が相次いでいます。「VUCAの時代」(※)と言われる昨今、企業が直面するリスクは想定困難になっています。加えて、コンプライアンスの重要性の高まり、レピュテーション(評判)リスクの増大など、対応すべき事項は格段に広がっています。
※変動性(Volatility)、複雑性(Complexity)、不確実性(Uncertainty)、曖昧性(Ambiguity)

企業はさまざまなリスクを想定し、備えておく必要があります。このとき、非常に重要なのが「契約書」です。企業の取引では多くの場合「契約」が結ばれますが、契約書の内容は企業の存続に大きな影響を与えます。契約書の内容や締結後の契約書の管理をどのようにするか、これが重要です。

契約書にはさまざまな条項がありますが、有事への備えとして特に重要なのが「不可抗力条項」です。リスクが複雑化して予測も困難になる今、重要性が増しています。

◆Lecture1
企業の「有事」とは?
有事が及ぼす影響は

企業にとって「リスク」とは何か。社内ではハラスメントや不正、従業員の退職など、社外では顧客からのクレームや取引先との紛争、取引先の倒産などが挙げられます。社内なら制度の整備や研修など、リスクを抑えるためにできることが比較的多くあります。一方、社外のリスクはコントロールの難易度が高くなります。取引先との間で生じるリスクに備えるには、契約書をしっかりと作成し、管理することが重要です。

いわゆる「有事」には、社会全体に影響を及ぼす天災や戦争、感染症の流行などが挙げられます。これらの有事は、先に上げたリスクの例に比べて予測やコントロールが非常に困難です。しかも、発生時の損害は膨大になる恐れがあります。

事業や有事の種類にもよりますが、従業員や顧客(取引相手)、株主など多方面に影響が及び、企業が機能不全になる場合もあります。例えば天災です。地震大国の日本はリスクを常に考えておかねばなりません。「交通が遮断されて荷物を輸送できない」「工場や店舗が倒壊して生産・販売できない」といった影響が生じる可能性があります。

そして、新型コロナで身近になった感染症の流行。これは現在進行形で大きな影響が生じています。「従業員の欠勤が増えて生産体制が機能しない」「政府による緊急事態宣言で店舗営業できない」といった事態となる懸念があります。

また、ロシアのウクライナ侵攻により世界中の企業に影響が及んでいます。「ロシアにある生産拠点の撤退」「ロシアに本社を置く企業との取引解除を検討」「ロシアに対する輸出規制で物を運べなくなる」といった弊害が起きています。

こうした有事が起きると取引相手が義務を履行できない、あるいは逆に自社の製造や輸送が困難となり義務を履行できない恐れが生じます。自社が義務を履行できなければ、取引相手から損害賠償を請求される可能性もあります。場合によっては取引の停止、損害賠償などにより自社が倒産することにもなりかねません。

◆Lecture2
海外との取引で重要
不可抗力条項とは?

こうした有事の際、企業に求められるのは適切に対応し、被害を最小限に抑えることです。そこで重要なのが契約書の 「不可抗力条項」です。

その前に、そもそも契約とは何かという定義を確認しましょう。契約とは「法的な効果が生じる約束」のことで、当事者同士の意思表示の合致により成立します(図)。口約束のみでも成立しますが、売買や業務委託など企業間の取引においては合意内容(約束の内容)を記載した契約書を作成することが多くなります。

出所: LegalForce提供

契約書ではさまざまな条項を定めますが、不可抗力条項もその1つです。不可抗力条項では「契約当事者の合理的な支配を超えた事象の発生により、(契約上の)義務の履行ができない、または義務の履行が遅延した場合に、義務を負う者が責任を負わない」旨を定めます。

契約の当事者にはどうしようもない不可抗力といえる事象、例えば地震の発生で契約上の義務を履行できない場合は、契約違反のペナルティーを負わないというようなことを定めておきます。条項は、おおむね以下のように定めます。

第●条(不可抗力)
 本契約の当事者は、天災、地変、火災、ストライキ、戦争、内乱、疫病・感染症の流行その他の不可抗力による本契約の全部又は一部の不履行につき、その責任を負わない。

「金銭債務(金銭を支払う義務)については免責しない」と定めることもあります。有事であっても金融制裁や金融機関のシステム障害といった例外を除き、基本的にお金の支払いは可能だからです。また、免責だけではなく、もはや取引継続が困難になってしまった場合のために「一定期間を経過すると契約解除する」旨を定めることもあります。

では、不可抗力条項がないとどうなるのでしょうか。実は、日本では条項がなくても民法で免責される可能性があります。

民法415条1項
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

民法では、契約違反をした相手に損害賠償を請求するには、相手の帰責性(相手に責任があること)が必要です。一般に不可抗力による契約違反には帰責性がなく、賠償請求できないとされます。

ただ、条文の「債務者の責めに帰することができない事由」を具体的に定めた条文はなく、学説や判例にも明確な定義があるわけではありません。このため、不可抗力条項で具体的な不可抗力事由を定めておくことが望ましいです。

海外企業との取引では、不可抗力条項の重要性が相対的に高くなります。日本より訴訟のハードルが低い国もあり、国内取引に比べて紛争となる可能性が高い傾向にあります。地震で被災した国内メーカーが海外企業に部品を送れず、訴訟を提起された事例もあります。海外との取引では文化の違いという背景もあり、「黙示の合意」に頼るのは危険です。契約書で事前に細かく定めておくことが非常に重要です。

不可抗力条項を定める際、不可効力事由として何を定めるかについては、取引の相手国によっても変わってきます。例えば、政情が不安定な国の企業と取引を行う際は革命や暴動などの有事を想定し、それらを不可抗力事由として明記しておくことが考えられます。

◆Lecture3
契約書はどう見直す?
有事の際の対応

有事の際、企業はどう対応すべきでしょうか。主に法務の観点から考えてみます。例えば、自社による納品が遅れそうな場合、次のような対応が考えられます。

1 納品が遅れそうな取引の特定
2 該当の取引に関する契約書を探す
3 契約書内容の見直し
4 取引先(契約相手)と交渉

出所: LegalForce提供

このうち、3の「契約書内容の見直し」を詳しく見ていきます。

契約書の内容を見直す際は、まず不可抗力条項があるかを見ます。記載があるなら、発生した有事が記載の不可抗力事由に当たるか確認しましょう。該当する場合は、取引先に免責を主張するという選択肢が出てきます。

逆に条項がない場合は、契約に対して適用される法律に不可抗力免責の規定があるか、あるならその有事が法律上定められた不可抗力に該当するか検討します。

また、不可抗力条項では、免責を主張する際の必要手続きを定めていることがあります。不可抗力事由が発生した場合、相手に通知する義務や政府発行の証明書などが必要と定めている場合もあります。こうした手続きについても確認しておきましょう。

不可抗力条項と併せて確認したいのが「準拠法条項」と「紛争解決条項」です。「準拠法条項」とは、契約に関して紛争が生じたとき、どの国の法律を適用するか定めるものです。「紛争解決条項」は、契約に関して紛争が起きた場合の解決手段を定めます。管轄条項を定めて、どの国の裁判所で紛争解決するかをあらかじめ合意したり、あるいは仲裁条項を定めて、仲裁により紛争解決することをあらかじめ合意したりするものです。

こうした対応が重要なのはもちろんですが、まずは契約書の作成・審査を行う時点で有事に備えておくことも大切です。具体的には、以下のような対応が重要となります。

1 「不可抗力条項」をしっかり定めておく
2 「不可抗力条項」で起こりうる不可抗力事由をできる限り詳細に定めておく
3 「準拠法条項」「紛争解決条項」はできれば日本法、日本の裁判所での紛争解決
  (または仲裁)と定める

海外との売買契約では、CISG(国際物品売買契約に関する国連条約、ウィーン売買条約)が適用されることもあります。条約には不可抗力免責を定める条文がありますが不可抗力の立証のハードルがやや高いため、自社が受注側の場合は契約書で本条約の適用を排除すると定めることも考えられます。

さらに、契約書でリスクを手当てするのも重要ですが、有事の際でも生産を継続できる体制や、取引先との信頼関係を構築しておくことも大切です。

出所: LegalForce提供


◆Lecture4
見直し作業どう進める?
人力よりテクノロジー活用を

最後に、テクノロジーの活用について紹介します。有事に取るべき対応(納品が遅れそうな取引の特定、該当の取引に関する契約書を探す、契約書内容の見直し)を紹介しましたが、人力で契約書を探したり見直したりするのは煩雑な作業です。紙の契約書を1枚ずつ確認するのはもちろん、PDFファイルなどのデータでもファイルを逐一確認するのは思いの外、時間がかかります。そこで、テクノロジーを活用するのも選択肢の1つです。

具体的には、「AI契約管理システム」の力を借りることで業務効率を上げることができます。当社が提供する「LegalForceキャビネ」では、契約書のPDFファイルをアップロードするだけで、AI(人工知能)が自動で全文をテキストデータ化し、データベースを生成します。過去の契約書をすぐに探せるだけでなく、特定の条項が入っていない契約書を瞬時に抽出することもできます。

契約書の作成・審査にもテクノロジーを活用できます。当社が提供するAI契約審査プラットフォーム「LegalForce」を使えば、一般的な必要条文の抜け漏れの防止をサポートし、不可抗力条項など条項の入れ忘れを減らすことが期待でき、契約書の作成・審査の効率化につながります。

少子高齢化による労働人口の減少もあり、業務の効率化は日本企業にとって喫緊の課題です。さまざまな分野でテクノロジーの活用が進む中、法務においてもリーガルテックの活用が期待されています。

今回は、有事に備えるリスクマネジメントとして不可抗力条項が重要という話でしたが、企業が複雑化したリスクと向き合う上で法務の役割は非常に大きくなっています。先行き不透明な時代を生き抜くため、リーガルテックなどを取り入れながら法務やリスクマネジメントの体制をしっかり構築していくことが、企業にとって欠かせないと考えます。

出所: LegalForce提供


     

柄澤愛子(からさわ・あいこ)

株式会社LegalForce法務担当弁護士。慶応義塾大学法科大学院修了。2012年弁護士登録。東京都内の法律事務所、特許庁審判部(審・判決調査員)を経て、19年にLegalForce参画。法務開発、マーケティング部門でのLegalForceのウェブメディア『契約ウォッチ』の企画・執筆を経て、現職。


株式会社LegalForceは2017年、大手法律事務所出身の弁護士2名によって創業。弁護士の法務知見と自然言語処理技術や機械学習などのテクノロジーを組み合わせ、企業法務の質の向上、効率化を実現するソフトウエアを開発・提供する。京都大学との共同研究をはじめ、学術領域でも貢献。19年4月よりAI契約審査プラットフォーム「LegalForce」、21年1月よりAI契約管理システム「LegalForceキャビネ」を提供している。

出版物

各種ログイン