NNAカンパサール

アジア経済を視る October, 2022, No.93

【LegalForce 法務レクチャー】

無自覚な違反も多い
下請法を正しく知る(前編)

親事業者から下請け事業者に日々発注される、さまざまな委託業務。その取引を公正に行うため存在するのが「下請法」だ。紛争、感染症の流行、原価高騰など下請け事業者に厳しい情勢下で重要性が高まるこの下請法について2回にわたり見て行く。今回は経営者や取引の当事者が知っておくべき下請法の基本を、LegalForceの髙澤和也弁護士が解説する。

ビルメンテナンス業者が、請け負うメンテナンス業務の一部を別の業者に委託する場合は、下請法の適用対象となる取引内容に当たる(NNA撮影)

◆Lecture1
そもそも下請法とは?
現場が気付かぬ違反も

「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)とは、下請け取引において親事業者が優越的な地位を生かして下請け事業者に不当な取り扱いを行うことがあることから、下請け取引の公正化と下請け事業者の利益保護を目的として制定された法律です。

公正取引委員会の資料を見ると、公取委による下請法違反の指導は2019年度まで年々増え続け、直近3年間も毎年8,000件前後行われています(指導は中小企業庁も行いますが、この件数は公取委のみの実績です)。

かねて問題視されているにもかかわらず、改善が見られないのはなぜでしょうか。違反事例の中には親事業者側の苦しい経営状況がうかがえるケースもありますが、それよりも現場の担当者が下請法を正確に理解できていない場合が多いのではないかと考えられます。

親事業者側の立場からすると、自社は法務・コンプライアンス部門を整備しているから問題ないと思うかもしれません。しかし、それらの部門がどれだけ下請法に精通していても、実際に下請け取引に携わるのは現場の担当者です。下請法は規制内容や運用基準が複雑であるため、現場の担当者も気付かないうちに違反してしまっていることが多いのではないかと推測します。

本記事により下請法の基本を理解し、自社の下請け取引に問題がないか、あらためて社内の法務・コンプライアンス部門や顧問弁護士に確認してみると良いかもしれません。

◆Lecture2
下請法の適用場面とは?
取引内容、資本金に注目

そもそも下請法は、どのような場合に適用されるのでしょうか。その適用対象は「①取引の内容」「②取引当事者の資本金の額」の両面から明確に定められています。

まず「①取引の内容」については、以下の4つの取引内容に大別されます。

【製造委託】

物品を販売し,または製造を請け負っている事業者が,規格,品質,形状,デザイン,ブランドなどを指定して,他の事業者に物品の製造や加工などを委託すること

例:自動車メーカーが、販売する自動車の部品の製造を部品メーカーに委託する場合

【修理委託】

物品の修理を請け負っている事業者がその修理を他の事業者に委託したり,自社で使用する物品を自社で修理している場合に,その修理の一部を他の事業者に委託すること

例:自動車販売業者が、請け負った自動車の修理作業を修理業者に委託する場合

【情報成果物作成委託】

ソフトウエア,映像コンテンツ,各種デザインなど,情報成果物の提供や作成を行う事業者が,他の事業者にその作成作業を委託すること

例:ソフトウエアメーカーが、ゲームソフトの開発を他のソフトウエアメーカーに委託する場合

【役務提供委託】

運送やビルメンテナンスをはじめ,各種サービスの提供を行う事業者が,請け負った役務の提供を他の事業者に委託すること(ただし、建設工事を除く)

例:ビルメンテナンス業者が、請け負うメンテナンスの一部であるビルの警備を警備業者に委託する場合

(公正取引委員会「ポイント解説下請法」参照)

以上のように、適用対象となる取引は多岐にわたります。他の事業者に業務を委託する場合は、下請法の適用対象となる取引内容に該当しないかを確認すると良いでしょう。

次に「②取引当事者の資本金の額」についてです。取引の発注者が優越的地位にあるといえるかどうかの判断基準となり、①の取引内容の区分によって規制対象となる資本金額の基準が変わります。整理すると以下の表のようになります。

出所: LegalForce提供

では、海外の事業者との取引についても下請法が適用されるのでしょうか。公取委および中小企業庁が実施している親事業者に対する下請け取引に関する調査のFAQ(よくある質問)によると、海外の事業者との取引であっても、日本国内において行われた取引であれば対象となる旨が説明されています。そのため、海外法人の日本支社との取引は回答の対象になっています。

下請法においても、下請け取引の公正化と下請け事業者の利益保護により、「国民経済の健全な発達に寄与することを目的とする」と規定されているため(第1条)、基本的には、日本国内で行われた取引のみに適用があると考えれば良いでしょう。

反対に「親事業者が海外の事業者」で「下請け事業者が国内の事業者」の場合に下請法の適用はあるのでしょうか。こちらは公取委が現在公表している資料などからは定かではありません。少なくとも、海外の事業者を取り締まっている実態は見受けられません。

◆Lecture3
親事業者が順守する
義務と禁止事項は?

下請法が適用される場合、親事業者は4つの義務を課されます。さらに、11項目の禁止事項を順守しなければなりません。

(1)義務

まず、親事業者は以下の表のとおり4つの義務を負います。いずれの義務も重要ですが、ここでは指導件数が多い「発注書面を交付する義務」と、うっかり違反する恐れがある「下請代金の支払期日を定める義務」を取り上げます。

<発注書面を交付する義務>

口頭で発注を行うと、取引条件が不明確となって後にトラブルが発生しやすいため、下請け取引においては口頭での発注は認められていません。発注の際は必要事項を記載した書面(下請法第3条に規定されていることから「3条書面」と呼ばれています)を交付する必要があります。

注文書を発行していても、必要事項を記載できていなければ違反となります。自社の注文書が必要事項を網羅できているかどうか、あらためて確認すると良いでしょう。

なお、あらかじめ下請け業者から書面または電磁的方法による承諾が得られれば、書面の交付に代えて、3条書面に記載する事項をメールなどの電磁的方法で提供することもできます。しかし、下請け業者に無断でメール等で発注をしてしまうと違反となりますので、注意が必要です。

<下請け代金の支払期日を定める義務>

下請け代金の支払期日は、発注した物品などを受領した日、役務提供委託の場合は下請け事業者が役務を提供した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で定める必要があります。

例えば「毎月20日締め、翌月末日払い」とした場合、7月21日に納品された物品は8月20日締め、9月30日払いとなります。これでは支払期日が物品などを受領した日から60日を超えてしまい、違反となります。このような月単位の締め切り制度を採用する場合、締め日と支払日の間が1か月以内となるように注意が必要です。

出所: LegalForce提供

(2)禁止事項

次に、禁止事項についてです。親事業者には、以下の表のとおり11項目の禁止事項が定められています。

これらのうち、圧倒的に違反件数が多いのが支払い遅延です(公取委の公表資料によると21年度には4,900件もの違反が確認されています)。続いて、下請け代金の減額(同1,195件)、買いたたき(同866件)の順で違反が多くなっています。

支払い遅延については、新型コロナウイルスの影響による資金繰りの悪化などでやむなく遅延しているケースも報告されています。しかし、支払い遅延の件数が多いのはコロナの拡大前からです。支払いサイトを誤って設定しているケースや、支払いの遅延が法令違反になることを理解できていないケースが相当数あると思われます。

下請け代金の減額については、違反件数としては2番目ですが、現時点における下請法の運用状況からすると、違反した場合のリスクが高い禁止事項となっています。

下請法に違反した場合、事案の重大性によっては単なる指導を超えて勧告がなされる可能性があります。この勧告がなされた場合は公表されることになっており、マスコミも大きく報道します。ここ数年、勧告がなされる事案は年に10件にも満たない程度ですが、大半が下請け代金の減額の事案となっています。

下請け事業者側に責任がある場合を除き、下請け代金の減額は名目や方法、金額にかかわらず一切認められません。「歩引き」や「リベート」など、何らかの名目によって発注後に下請け代金を減額していないか、いま一度確認すると良いでしょう。

買いたたきは、原材料費の高騰により大変注目されているトピックになりますので、次回の記事で詳しく解説します。

出所: LegalForce提供

◆Lecture4
記載文言のチェック
AIでもれなく精査

最後に、テクノロジーの活用について紹介します。これまで見てきたように、下請法が適用される業務委託契約においては、親事業者に多くの義務や禁止事項が課されます。発注時の3条書面の交付や支払期日の設定など、契約書の作成段階から留意すべき事項も多いので、まずは契約書を適正に作成することが重要です。そこで、テクノロジーの活用をお勧めします。

当社が提供しているAI契約審査プラットフォーム「LegalForce」では、「下請法チェッカー」を搭載しています。この機能は、①下請法に基づいて記載すべき事項が記載されているかどうか、②一般的に見て下請法違反の恐れがあると解される可能性がある文言が記載されていないか――AIがチェックを支援します。

また、「LegalForce」では700を超える契約書のひな型を提供しております(22年7月時点)。その中には、下請法を順守した3条書面のひな型(弁護士の解説付き)もあります。

下請法が適用される業務委託契約において、契約書の審査担当者は通常の契約審査に加えて下請法違反がないかも確認しなければなりません。そのため、どうしても負荷が大きくなってしまいますが、このようなリーガルテックを活用することで業務の効率化が期待できます。


     

髙澤 和也(たかざわ・かずや)

株式会社LegalForce法務開発部、弁護士。慶応義塾大学法学部、慶応義塾大学大学院法務研究科卒業。2014年司法修習修了。東京都内の法律事務所で勤務した後、大手メーカーの法務部門に所属し、契約書の審査・作成、法律相談、内部通報窓口などの業務に従事。22年3月から現職。


株式会社LegalForceは2017年、大手法律事務所出身の弁護士2名によって創業。弁護士の法務知見と自然言語処理技術や機械学習などのテクノロジーを組み合わせ、企業法務の質の向上、効率化を実現するソフトウエアを開発・提供する。京都大学との共同研究をはじめ、学術領域でも貢献。19年4月よりAI契約審査プラットフォーム「LegalForce」、21年1月よりAI契約管理システム「LegalForceキャビネ」を提供している。

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