NNAカンパサール

アジア経済を視る June, 2022, No.89

【新企画:アジアに挑む】

鋳物、すし、写真印刷
アジアに挑む日本企業

日本企業にとって、アジアでの事業環境の風向きが大きく変わってきた。新型コロナウイルス感染症による渡航や行動の規制は、各国で緩和に向かっている。円安傾向は、上手に使えばこの上ない追い風だ。輸出や進出に光の差す局面が来た。日本企業のアジアへの挑戦を展望する。


【to 台湾】
老舗の鋳物メーカー
海外初コンセプト店

能作は台北市中山区大直エリアに海外初となるブランドコンセプトストアをオープンした(同社提供)

能作は台北市中山区大直エリアに海外初となるブランドコンセプトストアをオープンした(同社提供)

銅器や錫(スズ)器を扱う老舗の鋳物メーカー、能作(富山県高岡市)は5月7日、台北市中山区に海外初となるブランドコンセプトストアをオープンした。

区北部の富裕層が多く居住する閑静なエリアに、事務所を併設した路面店を開業。店舗面積は138平方メートル。日本人デザイナーと台湾人デザイナーが共同設計した。開店に先立つ5日には、公式オンラインショップも開設した。

富山県の伝統技術で製造したスズや真ちゅうの製品を販売する。台湾人デザイナーと開発した台湾限定販売の新製品もそろえる。いずれも金属部分は日本製。オープンに合わせて発売する新製品は、アロマディフューザー(4,500台湾元=約1万9,700円)と竹をデザインした小物入れ(1個入り4,000元/2個入り6,000元)で、いずれも台湾のプロダクトデザイナー、Pili Wu氏がクリエーティブディレクターを担当した。

台湾では、生活のなかに「香り」を取り入れることがトレンド。デザイナーズブランド「TOAST」と共同でアロマディフューザーを開発した。ポットはスズ100%で、能作の職人による手作り品。台湾で幸運の象徴とされる「りんご(平安)」「ひょうたん(幸福)」「パイナップル(繁栄)」をデザインしたガラス容器と共に用いる。4,500台湾元(同社提供)

能作は、仏具の下請けメーカーとして1916年に創業。下火になりつつある本業に代わるものとして、2000年頃から自社でスズ製品の開発を開始した。合金製テーブルベルから始めた商品のバリエーションは年を追うごとに拡大。手で自由に形を変えられる「曲がる」シリーズや富士山型ぐいのみなど、スズ100%でデザイン性の高い生活雑貨は海外でも評価され、愛好者が増えている。

今後は同社の歴史や職人技術を紹介する特別展覧会、台湾の茶芸やフラワーアレンジメントの講師によるワークショップの開催も予定している。

運営会社は蛇口大手の路達集団との合弁会社で、20年11月に設立した能作貴稀金属。能作貴稀金属は、同ブランドコンセプトストアを日本と台湾のデザイン、技術、観光の交流拠点として、台湾域内での能作ブランドの認知拡大を目指す考えを示した。


【to 香港】
ドンキがすし店で攻勢
豊洲のネタを当日空輸

「本まぐろ食べ比べ」と生サーモン、うには、一押しの定番ネタだ=4月、ビクトリアピーク(NNA撮影)

総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」などを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は、強固な仕入れ網を生かしたすし専門店「鮮選寿司」で攻勢をかける。域内出店を加速し、香港の成功体験をアジアに広げていく考えだ。

PPIHは昨年10月、新界地区・セン湾(セン=くさかんむりに全)に「鮮選寿司」1号店を開業。グループとしてすし専門店は初の試みで、「日本のおいしいをそのまま海外に」をコンセプトに挑んだ。鮮度の高いネタを使ったすしは、香港人の間でたちまち人気となった。

PPIHグループの常務執行役員(香港・台湾・マカオ事業責任者)で、現地法人を率いる竹内三善社長は「開店から半年を経過してもなお、満席が続いている」と手応えを語る。1号店は1時間弱から最長3時間の待ち時間が連日発生するほど盛況だ。

好評を受け、4月末には観光名所のビクトリアピークに2号店を開いた。近隣が高級住宅街で観光名所でもあることから、すしとの親和性が高い立地と見る。1号店は老若男女の幅広い層が対象だが、2号店では近隣の富裕層や域外からの観光客も取り込み、客層を広げる狙いだ。

豊洲とテレビ電話
仕入れネタを目視

鮮選寿司は、東京の豊洲市場経由で鮮度の高いネタを仕入れる。早朝に豊洲の仲買商とテレビ電話をつなぎ、入ったばかりのネタをその目で確認する。

香港への空輸便がある日は早朝4時ごろ、仲買商から当日入った海産物の写真が送られてくる。写真に目を通した上でテレビ電話で実物を確認しながら、仕入れを行う。「提供するネタは、特別メニューも含めて仕入れ次第。納得できるものしか使わない」と同社。最善は尽くした上で納得できるものがなければ、そのネタは当日「売り切れ」とするほどだ。

すしは回転させず、握りたてを専用レーンで客席まで運ぶ=4月、ビクトリアピーク(NNA撮影)

1号店は回転ずし店としたが、2号店は回転させない。「わずかな時間でも鮮度が落ちてしまう」との配慮から、専用の「特急レーン」でテーブルに直接届く仕組みとした。1号店も5月までに特急レーンに変更した。

香港で始めたすし専門店を、今年はタイへも広げる。タイ東部チョンブリ県シラチャーの商業施設「Jパーク日本村」で9月、海外向けの自社系ディスカウントストア「ドンドンドンキ」に併設する形で鮮選寿司のタイ1号店をオープンする。

香港でも出店ペースを速める。5月27日には、香港島・小西湾の商業施設「藍湾広場(アイランド・リゾート・モール)」に3号店を開業した。昨年モールにオープンした「ドンドンドンキ藍湾広場店」の店内で営業する。ゆったりくつろげるようボックス席を多くし、「持ち帰り専用カウンター」も設置した。

竹内氏は「ドンドンドンキの既存店への導入や新店への併設導入など、鮮選寿司の複数店舗の出店を予定している」と説明。「まだスタートしたばかりの事業なので、引き続き来店者にしっかり満足してもらえるよう取り組んでいく」と語った。

(天野友紀子)


【to インドネシア】
対話アプリで写真印刷
「プリント若い世代に」

富士フイルムインドネシアが開始したサービス「チャットフォト」のワッツアップアプリのトップ画面(右)。利用者はチャットボットとリアルタイムでやりとりをする(同社提供)

富士フイルムは4月、インドネシアで対話アプリ「ワッツアップ」を活用した写真宅配サービスを始めた。利用者はスマートフォンから写真のプリントを手軽に注文でき、指定場所に配達してもらえる。同様のサービスはインドネシアで初。新型コロナウイルスの状況を踏まえ、非接触・非対面でプリントを注文できるようにした。

サービス名は「ChatFoto(チャットフォト)」。利用者は富士フイルムインドネシアのワッツアップアカウントにアクセスし、プリントしたい画像の選択から決済まで最短6つのステップで完了する。

注文時はスマホに保存した画像を選び、トリミングや白縁の有無などを編集ができる。最低1枚から注文可。写真サイズは、10センチメートル四方または10×15センチの2種類。料金はいずれも1枚3,900ルピア(約35円)。送料は基本料金1万ルピアからで地域や枚数により変動する。現在は3種類のモバイル決済に対応しており、今後増やしていく予定だ。

注文システムは、小売り向けITソリューションを提供する地場デジタル・メディアタマ・マクシマと共同で開発。宅配のスタートアップ企業シチェパット・エクスプレスと連携し、インドネシア全国への配送に対応する。

店がジャワ島に集中
地方との格差縮める

インドネシアでは近年、写真店が減っている。富士フイルムによると、その数は全国に約1,200店。人口10万人に対する写真店の数は、日本が9店に対してインドネシアは0.4店と、20分の1以下にすぎない。

富士フイルムインドネシアの山本真郷(やまもと・まさと)社長は、写真店の多くがジャワ島に集中していると指摘。新サービスは、プリント注文が難しい地方との格差縮小にもつなげる狙いがあると説明する。同国で利用率が高いワッツアップとモバイル決済を活用し、注文プロセスを再構築することで「写真プリントを若い世代のライフスタイルに取り入れてほしい」と述べた。

新サービス「ChatFoto(チャットフォト)」を紹介する富士フイルムインドネシアの山本社長(左から2人目)ら関係者=4月、ジャカルタ(NNA撮影)

同社は2011年、デジタルカメラの販社として設立。現在もデジカメや写真印画紙などのイメージング事業は、売上高の4割ほどを占める。日本本社では全体の13%にとどまるのに対し、インドネシアでは重要な事業となっている。

富士フイルムのシンガポール法人、富士フイルムアジアパシフィックの岩田治人(いわた・はると)社長は、今回の新サービスについて、インドネシアを皮切りにアジア太平洋地域にも広げていくと述べた。また、需要状況を見ながら、その他の地域にも広げていく計画を明らかにした。

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