NNAカンパサール

アジア経済を視る April, 2022, No.87

【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”

テイクオフ

アジア各国・地域の拠点から届いたNNA記者のコラムを紹介。新型コロナウイルスの感染爆発が起こった香港からは、検査から見えた地域性について。マレーシアからは、買い物中に偶然耳にした歌からウクライナ情勢に思いをはせたエピソードなど、計11本をピックアップ。

台湾はバンレイシの日本向け輸出を拡大する=2021年9月27日(中央通信社)

台湾はバンレイシの日本向け輸出を拡大する=2021年9月27日(中央通信社)

中国

中国は押すに押されぬ「ネット通販大国」で、市場規模は世界1位。それに伴って物流網も発達している。ただ、「荷物を受取人に無事に届ける」というごく基本的なサービスに目を向けると、まだまだ発展途上の段階と言わざるを得ない。

ある報道では、利用者が高価な骨董(こっとう)品の配送を大手宅配会社に委託。丁寧に取り扱いをするよう何度もしつこいくらいに念押ししたが、到着した骨董品はなんと破損。こうした記事をたびたび目にする。かく言う自分も被害者の一人で、先日、切れた電灯を買い替えようと、ネット通販で注文したところ、到着した商品は見事に割れていた。無料交換してもらえるか、現在交渉中だ。

広州の街中を歩いていると、宅配の荷物を放り投げるように扱う配達員を見ることもしばしば。中国が胸を張って「物流大国」と名乗れる日はもう少し先なのかもしれない。(川)


香港

コロナの迅速検査キットが届いた。香港政府は域内各地の汚水を検査し、ウイルスが検出された地域の住民に無償で検査キットを配っている。わが家の周辺もついに汚染エリアになったということだ。

「届いた」と書いたが、実際は各戸に手渡されたわけではなく、マンション入り口の郵便受けに入っていただけ。最近は郵便のチェックをおろそかにしていたため、何日も気づかなかったようだ。当局からは迅速検査の結果はおろか、検査をしたかどうかの確認すらない。

お隣の深センでは週明けからロックダウンが始まった。「香港のやり方では感染を止められない」。わずか1週間で全市民が3回受けさせられるという統制のとれたPCR検査の様子は、さながら香港にダメ出しをしているかのよう。テレビから流れる映像に感心しつつ、自主性任せの香港式になぜかホッとする。(港)


台湾

緑色のごつごつとした皮を割ると、中には白くて柔らかい果肉がぎっしり。台湾産の果物バンレイシは、その甘さと食感から「森のアイスクリーム」と呼ばれ、中華圏で高い人気を誇る。

先日、台湾人の友人が出してくれたのだが、実は個人的に苦手。そう言うと、「何のために台湾に来たのか分からない」とあきれられた。果物好きの台湾人に言わせれば、バンレイシを食べられないなどあり得ないことで、人生を損しているように見えるのだという。

台湾産果物の輸出額は直近で急減しており、台湾政府が輸出や販路の拡大に注力している。このうちバンレイシの2022年1~2月の輸出額は前年同期比85.9%減った。食べて応援したいところだが、苦手なものはどうしようもない。代わりに同じく輸出額が減少しているパイナップルやレンブを買い支えることで見逃してもらいたい。(屋)


韓国

「甘言蜜語をろうして取り入る」という表現があるが、韓国語の「クル(蜜)」は活用度がとても高い。「クルチャムルチャッタ」は、蜜のように甘い(深い)眠りだったの意。絶品料理に出合えば、それが蜂蜜でなくても全て「クルマッ(蜜の味)」と表現する。

若い頃。まだそこがソ連と呼ばれていた当時、新潟からハバロフスクに飛び、モスクワまでシベリア鉄道にゆらゆら揺られて旅をした。どこも深刻な物不足でまともな食べ物がなく、モスクワにできたばかりだったマクドナルド1号店を目指した。飽き飽きした行列も我慢し、ついに口にした資本主義の味。それは紛れもなく「クルマッ」だった。

かの地から外資撤退が相次ぐ中、「M」の黄色いロゴも全店舗が営業を停止するという。その大国に甘言蜜語をろうした隣国も制裁対象に。スマイルはいつ戻るのか。(葉)


タイ

露天商で1袋20バーツ(約70円)のパパイアを買うために財布を探ると、あいにく500バーツ札しか見当たらない。年かさのおばちゃん店主が露骨に嫌な顔を見せる。「2つ買うから」となだめて、何とか取引が成立した。

以前は日常的に見られた露天商とのこうした「商談」が減っている。コロナ禍で露天商そのものが減ったことに加え、キャッシュレス決済の普及も一因だ。米クレジットカード大手のVISAによると、タイ人の9割近くが日常的にキャッシュレス決済を利用している。このうち43%は1週間以上、現金決済を利用していないと答えた。

新型コロナの流行下、非接触で決済ができ、釣り銭がごまかされる心配もないキャッシュレスは確かに安全で便利だ。だが、古くから繰り返されてきた人間同士の生のやりとりの機会が減ることに一抹の寂しさを感じるのは自分だけだろうか。(須)


ベトナム

成田発ホーチミン市行きの飛行機の乗客は多くがベトナム人の若者だった。隣の席も若いベトナム人の女性で、聞いてみれば福島県のスーパーで働いていた技能実習生だという。中食コーナーで巻きずしを巻いたり、揚げ物を調理したりしていたと日本語で話してくれた。

約4年ぶりの帰国で、両親と2人の妹、1人の弟が待っているという。帰国後は出身地のドンナイ省には戻らずホーチミン市で日本語が生かせる仕事を探すんだと意気揚々と語ってくれた。父も母も定職に就いていないと話す彼女は一家の大黒柱なのかもしれない。

反対隣の男性も神戸で働く実習生で、機内のベトナム人の多くが実習生か留学生だと教えてくれた。女性とはホーチミン市内での再会を約束したが、日本で働く実習生の中でベトナム人が最も多い一方、帰国後に活躍できる場の提供が不十分だという見方があることを思い出し少し不安になった。(黒)

同版コラム「徒然サイゴン」から選定


インドネシア

インドネシア国歌が染み入ったのは初めてかもしれない。東カリマンタン州に建設する新首都「ヌサンタラ」行政機関の正副長官任命式で演奏された「インドネシア・ラヤ」は味があり、生中継された式典の録画を何度も聞き返した。

前半の低音階から駆け上がる金管楽器の音色は、新型コロナ禍からの着実な回復を感じさせる。中盤の滑らかなメロディーを聴けば、カリマンタン島の自然が思い起こされる。後半は、新首都という新しい目標に向かう力強さが表れているようだった。

演奏は1番のみで終わったが、2番と3番には豊かな土地や海について歌われる節もある。完成した新首都で演奏される国歌は、どのような風景を思い描かせてくれるのか。それぞれの楽器が特徴を出しつつ調和のとれたオーケストラのように、自然と都市が一体となった新首都であってほしい。(高)


シンガポール

隣国ということもあるためか、シンガポールにはマレーシアと同じような料理が多い。ただラクサやバクテー(肉骨茶)など、同じ料理名で味付けや見た目が違うものもあり、時々無性に「マレーシア版」の料理が食べたくなる。

当地の屋台街(ホーカーセンター)には名店がたくさんあるが、マレーシアも安くておいしいB級グルメの宝庫だ。車でしか行けない辺ぴな場所に隠れた名店が多く、同国の料理と聞くだけで「おいしそう」というイメージが湧く。ただコロナ禍で気軽に遊びに行くのは難しい。そんな自分のような考えを持つ人に配慮してくれたのかどうかは分からないが、近所にマレーシアの料理を集めたフードコートが相次いで開業した。週末は多くの人で混み合っている。

濃い味付けのマレーシア風ワンタン麺を食べながら、今度、隣国に行けるのはいつだろうかと思いをはせた。(雪)


マレーシア

食料品店でレジを待つ長い列に並んでいると、後ろにいた華人男性が店内のBGMに合わせて口ずさみ始めた。流れていたのは、米女性ユニット、バングルスの1980年代の名曲「エターナルフレーム(胸いっぱいの愛)」だ。

何げなく耳を傾けていたが、心地よいハミングに参加したくなる。振り返ると、華人男性に続く形で、その後ろの白人の初老女性がハモり始めた。華人男性の隣では友人がリズムを取り、こちらを見て「どうぞ仲間に」とでも言うかのように眉を少し上げた。

ウクライナ情勢の緊迫化で世界の協調が崩れそうになっている、このご時世。「わたしが夢を見ているだけ? それともこれは永遠の炎?」。ちょうどサビの部分で輪に入った。歌に国境はなく、この即興も夢ではない。本来の世界の出発点は、このような人々の融和ではなかっただろうか。(丑)


フィリピン

身の回りの色に気を配るようになった。5月9日の大統領選を前に、熱心な支持者がそれぞれの候補者カラーを身に付けているからだ。ロブレド副大統領のカラーであるピンクは街でよく見かける。マスクにポロシャツ、髪を結うひも。住居の外にはピンクのリボンがはためき、車体には特注ステッカーが貼られている。まるでアイドルの「推し色」のようだ。

食品・飲料業界の選挙商戦も熱を帯びる。パンや菓子を販売する店では、主要候補者5人をイメージしたカップケーキを発売した。週末に訪れると、昼にはもう完売していた。コンビニエンスストアの「セブン―イレブン」と飲料スタンド「フルータス」は、候補者5人の似顔絵が描かれたカップから選んで飲料商品を購入できる。

セブンでは2016年の大統領選で、実際に当選したドゥテルテ氏の売れ行きがよかったという。道行く人の手元や装飾にも注目だ。(堀)


インド

新型コロナウイルス禍でもインドの鉄道サービスの改善が進んでいるようだ。鉄道委員会は、17地域の鉄道部門に対し、駅の空きスペースにフードコートやファストフード店の設置を認めた。今後数カ月で75カ所にフードコートが設置されるとの報道もある。駅の自動券売機では、決済アプリ「ペイティーエム」を通じてデジタル発券ができるようになったという。

インドの鉄道駅と言えば、列車を待つたくさんの人が構内で寝そべっていたり、思わずゾッとするほどプラットホームに人がごった返していたりした光景が目に浮かぶ。駅も列車も「前時代的」という印象だったが、ファストフード店の設置をきっかけに駅の開発が進んだり、アプリの活用でどんどん便利になっているのかもしれない。

鉄道サービスや駅が便利できれいになるのはうれしい。だが一方で、寂しい気もしている。(榎)

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