NNAカンパサール

アジア経済を視る April, 2022, No.87

【アジアエクスプレス】

飲んで良し投資に良し
台湾ウイスキーに脚光

台湾でウイスキー人気が高まっている。食生活の欧米化などを背景に、本場・英スコットランド産の輸入額は世界上位に入る。地場ブランドの成長も目覚ましく、金車集団(キングカーグループ)が手掛ける「カバラン」は国際的な賞を獲得した。投資対象としても注目を集め、オークションでの高額取引が話題を呼んでいる。(NNA台湾 卓吟錚)

地場ブランドの中で高い知名度を誇るカバランのウイスキーの新商品=台湾・宜蘭(NNA撮影)

地場ブランドの中で高い知名度を誇るカバランのウイスキーの新商品=台湾・宜蘭(NNA撮影)

業界関係者によると、台湾ではもともと高粱酒(コーリャン酒、白酒とも呼ばれるアルコール度数の高い中国発祥の蒸留酒)など伝統的な酒が好まれてきたが、食生活の欧米化のほか、海外の文化を柔軟に受け入れる台湾人の気質もあり、幅広い年代の台湾人がウイスキーを飲むようになった。近年はレストランやバーだけでなく、自宅などプライベートな場所で楽しむ傾向も強まっているという。

英スコッチウイスキー協会によると、2020年のスコッチウイスキー輸出額のうち台湾向けは米国、フランス、シンガポールに続く4位で、1億8,200万英ポンド(約284億円、前年比11.5%減)。輸出額7位の日本(1億1,400万英ポンド、同22.1%減)や10位の中国(1億700万英ポンド、20.4%増)など人口規模で上回る国々を抑え、東アジアでは台湾が1位だった。

一方、同年の輸出量を見ると、台湾は上位10位の圏外だった。台湾のウイスキー製造企業の関係者は「単価が3,000台湾元(約1万2,400円)以上する、比較的高額な輸入ウイスキーの販売が急速に伸びた」と分析し、「台湾人は量ではなく質を求めている」と指摘した。

品評会で金賞の常連
台湾誇る「カバラン」

カバランウイスキー蒸留所の第1熟成倉庫=台湾・宜蘭(NNA撮影)

カバランウイスキー蒸留所の第1熟成倉庫=台湾・宜蘭(NNA撮影)

一方、台湾産ウイスキーも人気を確立している。その中でも高い知名度を誇るのが、金車集団が手掛けるカバランだ。同社は05年、宜蘭県に台湾初のウイスキー工場を開設して以来、一貫してウイスキー生産に力を注ぐ。現在は需要拡大に向け、3カ所目の熟成倉庫の建設を進めている。

輸出も活発だ。カバランの販売額は全体の半分が台湾で、残りを欧米や中国が占めるが、日本にも積極的に展開する。世界のウイスキーを品評する「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)」では19年から21年にかけて3年連続で最高金賞を獲得した。

「SNS(会員制交流サイト)を見ると、日本でカバランに関する投稿が増えている」。ブランドのPRを担当する蔡欣イ(イ=女へんに意)氏は手応えを口にする。知名度の向上を追い風に日本市場での販売は成長しており、一層の業績拡大を目指す。

新北市でウイスキーを製造する合力酒業(ホーリー・ディスティラリー)の張佑任最高経営責任者(CEO)は「カバランが海外の品評会に出品したり、広告を出したりすることは、『台湾がウイスキーの製造に適している』というイメージの形成につながっている」と評価する。

輸出先として有望なインド。特にウイスキーの人気は高く、消費量は世界全体の5割弱を占める(2018年時点)。最近はビールを飲む人が増えてきたものの、100年以上の歴史を持つインドのウイスキー文化は依然として根強い=インド・北部ハリヤナ州グルガオン(NNA撮影)

輸出先として有望なインド。特にウイスキーの人気は高く、消費量は世界全体の5割弱を占める(2018年時点)。最近はビールを飲む人が増えてきたものの、100年以上の歴史を持つインドのウイスキー文化は依然として根強い=インド・北部ハリヤナ州グルガオン(NNA撮影)

各国で酒販や外食業界を苦しめる新型コロナウイルス感染症の影響については、海外向けのオンライン販売の業績も伸びており、蔡氏は「感染拡大による打撃は大きくない」と強調する。感染対策のため飲食店が営業規制を受ける中、消費者向けの販売に力を入れる。台湾全域に約50の専門店を展開しているほか会員システムを構築し、マーケティングに生かしている。

実は感染の拡大が、地場ブランドが台湾でのシェアを拡大するチャンスになるとの見方もある。コロナの影響で台湾へのウイスキー輸入が困難になっているからだ。蔡氏は「この時期にしっかり準備することで、台湾メーカーがシェア拡大できると信じている」と話す。

投資対象としても人気
今後は高級品が主流に

ウイスキーは、コレクションや投資の対象としても脚光を浴びている。台湾で19年に行われたオークションでは、サントリーのウイスキー「山崎50年」が1,351万2,500元で落札された。日本のウイスキーの落札価格としては当時の最高を記録した。

そのオークションの運営会社、羅芙奥芸術集団(Ravenel)で酒類を扱う部門の唐維怡副総経理は「オークション市場の盛り上がりを受け、ウイスキーは飲んで楽しむだけでなく、投資価値のあるコレクションの対象となっている」と指摘する。

ウイスキーのオークション。サントリーの「山崎50年」は1,351万2,500元で落札された (羅芙奥芸術集団提供)

ウイスキーのオークション。サントリーの「山崎50年」は1,351万2,500元で落札された (羅芙奥芸術集団提供)

唐氏によると、ウイスキーの購買層は若者も含めて年齢が幅広いことが特徴だという。ワインと比べて保管が容易で、オークションの価格帯が1万~1,000万元超と幅広いためだと説明する。

台湾のウイスキー製造会社の創業者は「味わいやパッケージなどを通常の商品とは異なる特別な仕様にすることで、消費者の購買意欲を喚起できる」と話す。

カバランPR担当の蔡氏は、今後の台湾市場はハイエンドな高価格帯のウイスキーが一つのトレンドになるとみている。羅芙奥芸術集団の唐氏は「果物の風味を取り入れるなど、台湾ウイスキーならではの特徴を打ち出していくことが重要だ」と個性化の必要性を強調した。

「やるからには成功あるのみ」
 台湾ウイスキーの革命児
 金車集団(キングカーグループ)李玉鼎(アルバート・リー)総経理

李玉鼎総経理。1965年生まれ。日本に留学経験があり、明治大学卒。父である李添財董事長とともにグループの経営を担う=台湾・宜蘭(NNA撮影)

李玉鼎総経理。1965年生まれ。日本に留学経験があり、明治大学卒。父である李添財董事長とともにグループの経営を担う=台湾・宜蘭(NNA撮影)

世界各地の品評会で激賞され、台湾産ウイスキーの名を世に知らしめた「カバラン」。「南国でウイスキー造りなど不可能」という固定観念を打破したのが金車集団(キングカーグループ)だ。祖業は日用品メーカーで、1979年に飲料業へ進出。台湾では誰もが知る「伯朗珈琲(ミスター・ブラウン)」ブランドの缶コーヒーやカフェを送り出した。創業者の父の後を継いだ李玉鼎総経理は「やるからには成功あるのみ」という哲学を胸に、挑戦を続ける。

――なぜ酒造業界に進出したのか。

私も父も酒に対する興味はずっと持っていた。97年にはビール製造を画策した。ただ、当時は酒が政府の専売品だったこともあり、良質な水資源を利用して「波爾天然水」などの飲用水を製造することにした。水は現在、カバランにも使用している。

――2002年、酒類販売が自由化された。

どの分野の酒にするか父と一から考え、目を付けたのがウイスキー。台湾市場はぐんぐん成長していた。外国ではウイスキーの消費に占めるシングルモルトの割合が約20%なのに対し、台湾は70%にも上った。台湾で上質なシングルモルトを作りたいと思った。

――熱帯でウイスキーを醸造するのは前代未聞。

日本やスコットランドをはじめ複数のコンサルタントに聞いたが、全員「不可能だ」と一笑に付した。しかし、父は「台湾独自のウイスキーを造れば良い。他人がなんと言おうと挑戦したい」と。

――ウイスキーは投資回収に時間がかかる。

確かに、ウイスキーは熟成に時間がかかる。おまけに、ブランドの認知度はゼロで、上質なウイスキーができてもすぐに買い手がつくわけではない。長期事業になることを覚悟し、計画を練り上げていった。当然、最初は赤字だが撤退は全く考えなかった。私も父も「やるからには成功あるのみ」という強い決意を常に持っている。

――どのように販路を拡大したのか。

一番の課題は知名度だった。ブランド力は一朝一夕に獲得できるものではないから、地道に努力した。専門店や代理業者に工場を見学してもらったり、著名な評論家を招いたりした。15年に世界的な品評会「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)」で「世界のベストシングルモルトウイスキー賞」を受賞した。権威ある賞で知名度が一気に上がった。

――世界の銘酒に仲間入りしたカバランだが、今後の展開は。

最初の10年は製造、次の10年は販路拡大と考えていた。08年12月に販売開始して10年たった。これからは販路、特に海外売上高を拡大させたい。現在は売上高の4割を輸出が占め、この部分を増やしたい。数年以内に海外比率が台湾を追い抜く。

――将来の夢は。

今ちょうど53歳。残りの人生は30年ほど。この30年で事業を2倍、3倍に広げていきたい。これが1つ目。2つ目の夢はワイン。いつかワイン事業にも進出したいと思っている。

(吉田峻輔)
NNA台湾版 2018年7月30日付インタビューを再編集

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