NNAカンパサール

アジア経済を視る December, 2021, No.83

【アジア取材ノート】

韓国コンビニが攻勢
アジアの市場争奪戦

韓国のコンビニエンスストア各社が、海外展開に拍車をかけている。今年上期、大手2社が相次いでマレーシアに進出。別の大手はベトナムで100号店を達成し、モンゴル進出も果たした。各社とも、飽和した国内より東南アジアなど海外事業の拡大が成長につながると判断するためだ。後発の韓国勢は「韓流」を追い風に、先行する日系や米国系のライバルを追う。(NNA韓国 清水岳志)

今年6月24日にオープンしたEマート24のマレーシア1号店=マレーシア・クアラルンプール(新世界グループ提供)

韓国コンビニ業界ではマレーシアへの進出が相次いでいる。CU(BGFリテール)は今年4月、Eマート24(新世界グループ)は6月、それぞれ首都クアラルンプールに1号店をオープンした。

マレーシアのコンビニ市場は、1万店以上を展開するセブン―イレブンを筆頭に、2016年に参入したファミリーマートやローソン108など日系の牙城だ。新参者の韓国勢はまず、堅実に店舗を増やして認知度を高め、韓流ブームに乗って現地の消費力を取り込みたい考えだ。

CUはマレーシア進出に当たり、地場マイニュース・ホールディングスの子会社MYCUリテールとブランド使用のライセンス契約を締結。マイニュースはコンビニチェーン「マイニュース・ドットコム」を展開し、パンなどの中食商品にはマイニュースと日系企業の合弁も参画する。韓国系のマレーシア進出は受注拡大につながると好意的だ。

バンサーサウス店の外観。その後も出店を重ね、11月末時点で計8店舗まで増 やした(Eマート24マレーシア公式サイトより)

バンサーサウス店の外観。その後も出店を重ね、11月末時点で計8店舗まで増 やした(Eマート24マレーシア公式サイトより)

Eマート24は、クアラルンプールのオフィス街に1号店「バンサーサウス店」を開業。外食の利用率が高い現地の食習慣を考慮し、広めのイートインスペース(40席)を設けたのが特徴だ。5年以内に300店の展開を目指す。

現地の事業は、新世界グループとマスターフランチャイズ契約を結んだ同国の食品・流通専門投資会社ユナイテッド・フロンティア・ホールディングス(U.F.H)が運営。展開に向けて両社は「Eマート24マレーシア」を合弁で設立した。同社のイ・ダルス常務(マーケティング担当)は、「ベトナムやインドネシアなど東南アジア諸国へも進出する計画。マレーシア進出をグローバルブランドへの足掛かりにしたい」と述べた。

市場調査会社のユーロモニターによると、マレーシアの19年のコンビニ市場(売上高ベース)は前年比12%増の80億2,500万リンギ(約2,080億円)で、24年にはその2倍近い150億リンギに迫るとみられている。大韓投資振興公社(KOTRA)は「所得の増加と多忙な日常生活による消費パターンの変化が、食事をコンビニで済ます要因になっている」と分析する。

【動画リンク】バンサーサウス店の様子(公式フェイスブックより)

【動画リンク】バンサーサウス店の様子(公式フェイスブックより)

韓国での成長に限界
ベトナムで勢力拡大

韓国のコンビニ大手、CUの店内。新型コロナ下でも巣ごもり需要をうまく取り込んだが、飽和する国内市場から海外への展開を進めている(BGFリテール提供)

韓国のコンビニ大手、CUの店内。新型コロナ下でも巣ごもり需要をうまく取り込んだが、飽和する国内市場から海外への展開を進めている(BGFリテール提供)

韓国のコンビニ市場は、GS25とCU、Eマート24の地場3社と、日系のミニストップ、セブン―イレブンを加えた計5社が激しい競争を繰り広げる。CUが1万4,923店で最も多く、GS25が1万4,688店で後を追う展開となっており、20年末時点で5社の総店舗数は約5万店に達した。

新型コロナウイルス感染症の流行で、昨年は流通業の販売チャンネルがリアル店舗からオンラインに移る動きが目立ったが、そうした中でもコンビニは3,000店以上増やした。デパートや大型スーパーマーケットよりも「身近な存在」である点を生かし、短距離のデリバリーサービスを強化してコロナ禍の巣ごもり需要をうまく取り込んだ。

しかし、国内での成長には限界があるというのが各社の見解だ。急激な店舗数の拡大は、むしろ店舗当たりの売上減を招いた。韓国コンビニ店主協議会によると、16年以降は店舗当たりの売上高が年平均0.9%減少している。さらに、文在寅(ムン・ジェイン)政権になって急激に上がった最低賃金も足を引っ張る。同協会は「10店中2店は人件費と賃貸料を支払う余力がない」と説明する。

こうした国内事情を背景に、「GS25」を運営するGSリテールは、18年のベトナム進出から店舗を積極的に増やし、今年3月には同国100号店を達成した。進出初期はホーチミンを中心に、昨年下期からはビンズオン省やブンタウなど出店地域の拡大に乗り出し、昨年だけで新たに33店をオープンした。

GSリテールの「GS25」はベトナムで100店舗を運営。先行する日系コンビニを追う=ベトナム・ホーチミン(NNA撮影)

GSリテールの「GS25」はベトナムで100店舗を運営。先行する日系コンビニを追う=ベトナム・ホーチミン(NNA撮影)

3,000店近く展開する地場「ビンマート・プラス」がリードするベトナムのコンビニ市場。韓国勢にとっては「ファミリーマート」(取材時点147店、各社ホームページの店舗案内基準)や「ミニストップ」(同118店)など、日系が目下のライバルとなる。GSリテールは「今年から加盟店事業を本格化する」としてハノイでも初出店するなど、今後は年100店以上のペースでさらなる店舗数の拡大を図る方針だ。

後発のGS25だが、反響は悪くないようだ。現地消費者にGS25の評判を尋ねると、「清潔で商品の配置が分かりやすい」「屋内外のイートインスペースが広い」「品ぞろえは若者のトレンドをよく捉えている」といった声が聞かれた。

その一方で、「値段が高い」「セブン―イレブンやファミリーマートのような特徴的な商品が少ない」という厳しい意見もあった。また、先行する地場や日系コンビニに比べて知名度が高いとは言い難く、今後はブランド力の向上も課題と言える。

モンゴル進出CU
米系抑えて首位に

東南アジアの外に目を向けると、韓国系コンビニの躍進が目立つのはモンゴルだ。このニッチ市場に目を付けたのが、国内最大手のCUだった。

CUは18年8月にモンゴルに進出し、6店舗を同時オープンした。積極的に投資して現在は140店余りにまで拡大。モンゴルのコンビニ市場で74%のシェアを獲得した。新型コロナの拡散以降も店舗拡大を続け、年末には170店に達する見通しだ。

モンゴルに進出した「CU」のテラス席でくつろぐ現地の消費者=モンゴル・ウランバートル(BGFリテール提供)

今年7月に開港した新ウランバートル国際空港内にも2店を開業し、韓国コンビニとして初となる海外の国際空港への入店を果たした。外資系コンビニとしては米サークルKに続く進出だったが、先に進出したサークルKを押しのけて同国のトップシェアを維持している。

モンゴルでは、自社企画のプライベートブランド(PB)商品のラインアップを充実させた。現地で販売するスナックや麺類、飲料水など商品の約2割が韓国製だという。CUの運営元であるBGFリテールの関係者は、「韓国の商品を積極的に扱うことで、中小企業の輸出や海外進出の支援にもつながっている」と話す。

なお、CUとマスターフランチャイズ契約を結んで現地運営を担う地場セントラル・エクスプレスは11月15日、モンゴル証券取引所に新規株式公開(IPO)を実施。公募価格は、モンゴルで過去最高となる401億トゥグルグ(約16億円)に達した。

BFGリテールの李建俊(イ・ゴンジュン)代表は、今回の上場について「セントラル・エクスプレスのIPOは、グローバル市場でCUのブランド力が高まっている証明だ」とし、モンゴルCUへの事業協力を一段と強化していく考えだ。

同じくGS25も今年5月、首都ウランバートルに3店を同時オープンしてモンゴル進出を果たした。「25年までに500店」という目標を掲げ、先行するCUを追う。

運営するGSリテールは、モンゴル財界2位のShunkhlaiグループとマスターフランチャイズ契約を結んでCU事業を展開する。Shunkhlaiはモンゴル国内の酒類・飲料市場でシェア7割という大きな飲料メーカーを傘下に持っており、「大きな相乗効果」(GSリテール)を狙う構えだ。

インドネシア上回る
モンゴルの経済指標

日本ではあまり身近ではない、新興モンゴル市場の有望性はどうか。同国の人口は335万7,500人(20年、モンゴル国家統計局)と東南アジアの主要国に比べて少ないが、1人当たりの名目国内総生産(GDP)はここ十数年で10倍に成長した。

国際通貨基金(IMF)の統計によると、19年のモンゴルの購買力平価(PPP)基準の1人当たりGDPは1万2,558米ドル(約138万5,400円)で、ベトナム(1万535米ドル)やインドネシア(1万2,483米ドル)をも上回る。25年には1万6,000米ドルに迫る見通しだ。

無人店化に弾み、コンビニ内にたばこ・酒自販機

コンビニ大手CUが設置した酒類の自動販売機=韓国(BGFリテール提供)

コンビニ大手CUが設置した酒類の自動販売機=韓国(BGFリテール提供)

韓国のコンビニエンスストアで、たばこ・酒類の自動販売機を設置する店舗が増え始めている。購入者が成人かどうか従業員が対面で確認しなくても、自販機は先端技術を活用して本人確認を行うことができる。コンビニ無人店舗の普及にもつながりそうだ。

CUを運営するBGFリテールは5月、ソウル市内の店舗でたばこ自販機の運用を開始した。利用者はCUアプリで生成したバーコードか、通信大手3社の本人認証アプリ「PASS」の認証書を自販機のスキャナーで読み取らせ、年齢確認を終えたらクレジットカードで支払いをする。

セブン―イレブンの場合、金融監督院や大企業の本社ビル、工場内にある特殊店舗9店にたばこ自販機を置いている。事前登録した静脈情報を本人確認と決済手段に活用したほか、PASS認証書での本人確認とカード決済でも購入できる。

これらの決済方法は、従来の住民登録証やクレジットカードなどで本人確認する自販機に比べ、不正のリスクが小さいという。

リゾート地で酒の無人販売

CUは7月、江原道高城郡のR雪岳サンバレーリゾート店で、韓国の業界初となる酒類の自動販売機の営業を開始した。深夜に無人営業となる店舗を中心に設置先を拡大していく。

自販機では焼酎やビール、伝統酒、ワインなど計45種類の商品を販売。たばこと同じくPASS認証を通じて年齢確認した後、クレジットカードやモバイルで購入可能だ。

従来、酒類販売は許可を得た場所で対面による年齢確認が必要だったが、韓国政府は酒類の自販機設置を、新事業創出のため一時的に規制緩和する「規制サンドボックス」の対象に指定。一般小売店での無人販売が可能になった。

CUを運営するBGFリテールは、ホテルやリゾート地などで運営する夜間無人営業の店舗に設置する方針。消費者の利便性向上と売り上げ増を期待する。

競合のEマート24も、人工知能(AI)技術を活用して年齢確認と決済を完了できる酒類販売機を本店に設置している。

(NNA韓国版 2021年7月14日付、8月18日付を再編集)

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