NNAカンパサール

アジア経済を視る August, 2021, No.79

【プロの眼】ゲームビジネスのプロ 佐藤翔

第5回 中国ゲームが圧倒する
    現地化ノウハウを学ぶ

ローカリゼーション(現地化)は、日本企業があまり得意としていない分野であると言われています。企業は努力しているものの、人材不足などの理由であまり上手くいっていないのが現状です。今回は新興アジアのゲーム市場において、各国のゲーム会社がどのようなローカリゼーションを行っているのか見ていきます。

タイのサッカーゲームコーナー。東南アジアや中東ではサッカー専門のゲームカフェを見掛ける(筆者提供)

タイのサッカーゲームコーナー。東南アジアや中東ではサッカー専門のゲームカフェを見掛ける(筆者提供)

日本では以前、中国製のゲームに「パクリ」のようなイメージが強くつきまとい、外注先としては関心があっても、中国製ゲームのデザインやマーケティングのやり方について能動的に勉強しようという人はほとんどいませんでした。

しかし、最近では日本国内でも『原神』」や『荒野行動』のような中国製タイトルが大きな成功を収め、その実力が知れ渡ってきました。また、新興国においては中国や韓国のゲームが現地化に成功し、市場を席捲(せっけん)しています。

まずは日本国外、アジアのゲーム市場の構造について簡単に見ておきましょう。東南アジア、南アジアといった地域におけるマーケットの中心はモバイルゲームです。

ハード(据え置き型の本体機器)が必要な『ニンテンドースイッチ』や『プレイステーション』といった家庭用ゲームでは、最近はハードやソフトを手掛けるメーカー各社の努力のおかげで東南アジアや中東などの市場が着実に伸びているのは確かです。しかし、新興国における所得が低いため高額な製品はなかなか購入できず、スマートフォンさえあればプレイ可能なモバイルゲーム市場よりもかなり小さな市場となっています。

パソコン(PC)ゲームでは、2000年代から中国・韓国企業にとって東南アジアは裏庭のような存在になりました。また中東のアラブ圏で中国企業が、トルコでは韓国企業のMMORPG(※1)、FPS(※2)などのジャンルのタイトルが成功を収めていました。

※1 大規模な人数で同時に遊べるオンラインRPG。RPGは架空の役割を演じて物語などを楽しむゲーム
 ※2 一人称視点の射撃ゲーム

現在では、これらのジャンルに加えて『PUBG(PLAYER UNKNOWN'S BATTLE GROUNDS)』のような多人数の戦いの中で生き残りを目指す「バトルロワイヤル系ゲーム」や『LoL(リーグ・オブ・レジェンド)』のような「MOBA」(※)が市場を席捲するようになっています。

※「マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ」の略。プレイヤーがチームに分かれ、敵チームと何らかの勝利条件を競うゲーム

中国製が各国を圧倒
モバイルゲーム市場

モバイルゲームの各国におけるランキングを見ると、アジア地域では中国製ゲームが他を圧倒しています。騰訊控股(テンセント)が運営する『PUBG MOBILE』や『王者栄耀』は、どの国でも売り上げ上位に食い込んでいます。

最近東南アジアや南アジアで人気の高いゲームが『Garena Free Fire』です。このバトルロワイヤル系ゲームは、米グーグルのアプリストア「グーグルプレイ」での提供が10億ダウンロードを達成し、同種のタイトルである『PUBG MOBILE』と覇を競っています。

「Esports Charts」というゲーム競技会のデータベースによると、シンガポールで開催されたこのゲームの世界大会ではオンラインストリーミング(配信)の視聴者数が最大541万人に達しました。このうちヒンディー語圏の視聴者が160万人、インドネシア語圏が63.3万人ですから、東南アジア・南アジアのユーザーを取り込んで世界的な成功にうまく結びつけているわけです。

同作を出したのはGarenaというシンガポール企業ですが、テンセントとの関係が深く、開発は中国で行っているので、実質的には中国製ゲームと言ってもよいと思います。

中国製に続くのが韓国製のゲームです。具体的には、東南アジアで言えば『MU』や『メイプルストーリー』といったタイトルがそうです。

日本の作品では、コナミのサッカーゲーム『eFootball』(旧日本名『ウイニングイレブン』)が東南アジアで健闘しています。東南アジアでは『ドラゴンボールZ』、中東では『キャプテン翼』など人気アニメや漫画のIP(※)を使ったモバイルゲームがリリースされています。

※知的財産。この場合はキャラクター、設定、曲など作品の要素を主に指す

ただ、全体として販売規模や認知は中国作品が圧倒的で、韓国のいくつかのタイトルがそれに続き、日本、米国、欧州製のゲームは一部を除き、いまひとつとなっています。

中国企業の影響は表に見える部分だけではありません。日本のIPである漫画『BLEACH』のゲームは東南アジアでは実際は中国企業であるEfunが運営しています。『Ragnarok X』という韓国発のIPは、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)の子会社Nuverseが運営しています。

『Call of Duty』は米Activision Blizzard社のIPですが、モバイル版の『Call of Duty: Mobile』はテンセントの子会社であるTiMi Studiosが開発を行っています。このように、一見すると中国製とは分からないけれども、実際は中国のゲーム会社が開発や運営を行っているゲームがたくさんあるのです。

見た目は現地好みに
ローカライズの実例

それでは、アジアや中東で成功しているゲームはどのようなローカリゼーションを行っているのでしょうか? ここでは、ゲーム内容、マーケティング、企業自体、それぞれの観点で現地化の実例を紹介しようと思います。

まずはゲーム内容のローカリゼーションについて。新興国で成功した中国のゲームは、画像などのビジュアル素材を徹底して現地ユーザーの好みに合わせています。

例えば、ベトナムのように中国系のオンラインゲームにユーザーが慣れている国では、中国風そのままの画像を使うこともありますが、中国風の雰囲気やビジュアルに不慣れな地域では、一見しても中国製か分からないほど画像を変えて展開します。

トルコで人気の『Game of Sultans』。中国厦門(アモイ)のMechanist Gamesが運営(公式サイトより)

トルコで人気の『Game of Sultans』。中国厦門(アモイ)のMechanist Gamesが運営(公式サイトより)

『Identity V』のソンクラーンキャンペーンのイベント画像(公式フェイスブックより)

『Identity V』のソンクラーンキャンペーンのイベント画像(公式フェイスブックより)

例えば上にある画像の『Game of Sultans』は、トルコなどで人気がある中東風の雰囲気の作品ですが、制作しているのは中国・福建省厦門(アモイ)の会社です。中国のゲーム会社は、ゲームの中身は同じでも画像などの素材をそれぞれの国に合うように切り替えるという手法を得意としています。

さらに、現地ユーザーのカスタマーサポートなども現地語できちんと対応しているので、ユーザーは中国のゲームという意識が薄いのではないでしょうか。内容やサポートが充実していれば、どこの国のゲームかは気にしないものです。

また、現地のイベントを取り込むのも良く見られる手法です。例えばタイでは、中国の網易(ネットイース)という会社が制作した『Identity V』というゲームの宣伝素材で、タイの水掛け祭り「ソンクラーン」にちなんだキャンペーンを行っています。

2019年にはインドでヒットしていた『PUBG MOBILE(インド名『Battlegrounds Mobile』)が、インドの祭事「ディワリ」に合わせてゲーム内でキャラクターの着せ替えを楽しめる仕掛けを用意していました。中東に展開する中国製ゲームでも、イスラム教の宗教行事「ラマダン」時にキャンペーンを行う例が多く見られます。

ゲーム実況者に任せる
マイナー公用語の宣伝

次は、プロモーション・マーケティングのローカライズです。中国のゲーム会社は新興国で現地企業と連携し、eスポーツ(※)やタイアップのイベントを盛んに実施しています。以前に紹介した、ミャンマーで年末年始に行われた『PUBG MOBILE』のeスポーツ大会は、華為技術(ファーウェイ)と提携してショッピングモールで開催していました。

※ゲームの競技、興行。プロスポーツのような賞金大会やイベントを行う

スリランカのeスポーツイベント。現地通信キャリアと『PUBG』のタイアップ(筆者提供)

スリランカのeスポーツイベント。現地通信キャリアと『PUBG』のタイアップ(筆者提供)

右の写真は、私がスリランカのeスポーツイベントに参加した時に見つけたもので、現地の携帯電話キャリア会社と『PUBG』がタイアップしたものです。このようにショッピングモールや現地のホールでモバイルゲームの競技会を行い、多くのユーザーを巻き込んでいくというのは新興国で定番のプロモーションとなっています。

現地のストリーマー(※)を上手に巻き込むというのも効果的です。下は、インドのゲーム中継プラットフォーム「Rheo」のトップページ。実況されるのは中国製のゲームばかりですが、面白いのが動画中継に使用している言語です。

※ゲームをプレイしながら、その様子をインターネットで実況、配信する人

インドのゲームストリーミングプラットフォーム「Rheo」のトップページ(公式サイトより)

インドのゲームストリーミングプラットフォーム「Rheo」のトップページ(公式サイトより)

トップにある『Free Fire』の実況はタミル語、左下の『Battlegrounds』はテルグ語です。動画配信サービス「ユーチューブ」のインド担当者によれば、こうしたゲームの実況がユーチューブにおける地域言語を使用した中継全体を押し広げている、とのことです。

インド憲法によると同国は20以上の公用語が存在しますが、この全てにローカライズ対応を行うのはコスト面から現実的ではありません。しかし、ゲーム自体がローカライズされていなくとも、さまざまな言語で話すゲーム動画の配信者たちを味方にできれば、各言語ユーザーへのアプローチがより密接かつ容易になるわけです。

ローカライズ手法の最後が、会社自体の現地化です。現地に開発会社を設立する、地元の会社に資本を提供する、あるいは教育機関と連携して優秀な人材との関係を作るなど、現地の優秀な人材やマーケティングのノウハウを取り込むことが積極的に行われています。

一例として今年6月、テンセントは「Green Game Jam for Youth」というイベントを世界各国の教育機関と連携して実施することを発表しました。

世界各地の学生を集め、テンセント傘下のゲーム開発教育機関が蓄積したノウハウを学生に共有しつつ、環境問題を意識したゲームを短期間で作らせる――というスキームとなっています。優勝者には1万米ドル(約110万円)の賞金が出るそうです。

東南アジアでは、マレーシアのアジアパシフィック大学、シンガポール国立大学、タイのバンコク大学、インドネシアのバンドン工科大学などと提携して実施されます。こうしたイベントの主催を通じ、現地人材との関係を深めていこうとしているわけですね。

中国は進出ノウハウ紹介
韓国は進出依頼に助成も

日本企業もグローバル市場への対応のためにさまざまな努力をしていますが、中国や韓国に比べて海外関連のビジネスに対応できる人材が決定的に不足しているように感じます。

中国ではゲームやITの海外進出専門のメディアが存在し、「China Joy」のような業界の展示会でも地域ごとの進出ノウハウを紹介する会議が開かれています。そうしたところで情報交換し、人材募集を行い、グローバル人材の融通を図っているわけです。

一方、韓国では中小ゲーム会社に対する開発費の補助はもちろん、海外進出のためのマーケティングやローカライズについてもサポートを行います。韓国のゲーム会社が、それらの専門会社やコンサルタントに依頼すると、それに対して助成金が入る仕組みです。

こうした中国や韓国などの海外進出の成功例を参考に、日本のゲームがもっと新興国でも遊んでもらえるような仕組み作りを考えていきたいところです。


佐藤翔(さとう・しょう)

京都大学総合人間学部卒、米国サンダーバード国際経営大学院で国際経営修士号取得。ルーディムス代表取締役。新興国コンテンツ市場調査に10年近い経験を持つ。日本初のゲーム産業インキュベーションプログラム、iGiの共同創設者。インドのNASSCOM GDC(インドのIT業界団体「NASSCOM」が主催するゲーム開発者会議)の国際ボードメンバーなどを歴任。日本、中国、サウジアラビアなど世界10カ国以上で講演。『ゲームの今 ゲーム業界を見通す18のキーワード』(SBクリエイティブ)で東南アジアの章を執筆。ウェブマガジン『PLANETS』で「インフォーマルマーケットから見る世界」を連載中。


バックナンバー

第4回 政治利用に社会啓発も シリアスゲームの世界
第3回 ゲームに見るお国柄 整い半ば規制と振興
第2回 インフラの3大要素 「通信・決済・販促」
第1回 ミャンマーとインド 有望市場の境界とは

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