NNAカンパサール

アジア経済を視る May, 2020, No.64

【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”

テイクオフ ─在宅編─

ベランダから「STAY AT HOME」と書かれた自家製のカードを掲げて外出自粛を呼びかけるインドの市民たち=4月12日、インド・トリプラ州アガルタラ(新華社)

シンガポール

シンガポールで陽気なインド系のお父さんが話題になっている。現地では新型コロナウイルス対策で、海外からの帰国者には14日間の外出禁止命令が課されるようになった。話題のお父さんは、日本への出張から帰国後、外出禁止になっており、自宅から一歩も出られない状況に置かれていた。

ネット上で出回った動画では、玄関の外で夫人と子どもたちが待機する中、くだんのお父さんが踊りながら登場。一歩外に出ると、夫人から花の首飾りを渡され、ダンスのキレは一層激しくなる。夫人と子どもたちも踊りに加わり、家族全員全力で外出解禁を祝う姿が収められていた。ボリウッドムービーを思わせる動画にネット市民も和んだ様子だ。

現在は全居住者の外出が制限されるサーキットブレーカー措置が導入され、息の詰まる在宅期間が続く。このお父さんを見習って、もっと陽気に日々を過ごすことにしよう。(薩)


台湾

「リモート飲み会をやろう」。最近日本に住む友人からこんな誘いを受けることが多くなった。各自飲み物とつまみを用意して、ビデオ通話の画面越しに乾杯。「何を飲んでるの」なんてワイワイ盛り上がるのが楽しい。

ビデオ通話はこれまで、家族やごく親しい友人とするプライベートなものというイメージが強かったが、飲み会という体裁のせいかそうでない人も誘いやすい。新型コロナウイルスの感染拡大で外出が控えられている今、在宅勤務のリモート会議などオフィシャルの場面でも活用が急拡大している。そんな背景もあって、人々のビデオ通話との関わり方が変わってきているのかもしれない。

暗いニュースが多く気分がふさぎがちなこの頃だが、在宅需要の増加が新たな楽しみをもたらしてくれた。普段文字でしかやり取りしていなかった友人との距離も近くなった気がする。(屋)


韓国

ついに、ネットフリックスを始めた。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で在宅時間が増えたためだ。懐かしいドラマやアニメーションだけでなく、オリジナルコンテンツもあり、その魅力にはまっている。

ネットフリックスなどネット映像配信サービスだけでなく、在宅向けサービスが新型コロナ流行を境に盛況だ。スーパーマーケット大手EマートはSNS大手のカカオと手を組み、新鮮な野菜を素早く配達するサービスを開始。コンビニのCUも配達サービスを拡大している。韓国はもともと出前が盛んだが、今では自宅にいながら生活に必要な全てのことをネット経由で行えるようになった。

韓国では新型コロナの感染は収束に向かっているように見える。しかし全て元に戻るのではなく、これを機に、暮らしのパターンが大きく変わることは間違いないだろう。(岳)


マレーシア

新型コロナウイルスの流行を機に、日本に住む学生時代の友人たちと連絡を取り合うようになった。

2児の母になった友人は、勤め先が在宅勤務となったと同時に保育園から登園自粛要請を受けた。幼児2人が走り回る日中は集中できないので、毎日午前3時起きで仕事に取り掛かるのだそうだ。連絡した時は、子どもと一緒にクッキーを手作りしている最中。「子どもを午後6時半に寝かせるからまたね!」と言うので早々にお開きになった。華人系マレーシア人の夫は「日本のお母さん業はなんて大変なんだ」と目を白黒。

学生時代は遠くなり、仲良しグループの暮らし向きもさまざまになった今、同じ話題で盛り上がることは少なくなった。新型コロナの世界的流行は貴重な共通話題ともいえるが、ウイルスの話ばかりでは気が滅入る。早く明るい話題をシェアできる世の中になればいい。(旗)


インドネシア

首都ジャカルタで「大規模な社会的制限」が施行された。表通りは普段より歩行者も二輪車の数も少なかった。配車アプリの二輪車サービスは出前だけでタクシー業は禁止されたからか、いつもバイカーの皆さんが集まっているバス停周辺には、人も二輪車もいない。ジャカルタも大変な状態にあることを嫌でも肌で実感させられる。

近所のファストフード店では店内で飲食できなくなり、お持ち帰り専門になっていた。これで外食もできないとなると、散歩と食料調達以外に外へ出ることはなくなる。既に在宅勤務で生活の公私の区別が付けにくく、これから一層ストレスがたまるだろう。

部屋の片付けや掃除、料理のレパートリー充実、外で野良猫との会話でストレスを解消する人もいるという。注意するのはコロナやデングだけではない。心と体のバランスを保つのも一段と大事になる。(角)


オーストラリア

自主隔離生活が長くなってきたので、少しでも日を浴びようとアパートのバルコニーで仕事や食事をするようになった。

ある日、隣の窓から隣人が一服するため顔を出したので、バルコニー越しに話をすると、彼も在宅勤務で家にこもりっぱなしだという。そのため、家の中でも運動できるように自転車をエアロバイクに改造できる器具を購入したらしい。

人々はそれぞれの方法で隔離生活を乗り切ろうとしているようで、向かいのアパートでは薄着のオージーが日焼けを楽しんでいる。かく言う筆者も、バルコニーでの読書が週末の楽しみになっており、気付けば日に焼けて腕の皮がむけていた。隣人に「quarantine tan(隔離焼け)だね」と笑われながらも、バルコニーが新たな社会交流の場になりつつあることに、不安な世の中での人々の前向きさを感じている。(岩下)


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