NNAカンパサール

アジア経済を視る January, 2020, No.60

すごいアジア人材@日本企業

専門家の視点②

北京博瑞智明諮詢(BHCC)首席顧問
田中信彦 氏

日本人上司は発信せよ、
企業価値に共感する人材が集まる

リクルートや大手カジュアルウエアチェーンの中国事業に参画した経験を持ち、現在は上海と東京を拠点に大手企業などの人事コンサルタント、アドバイザーとして活躍している田中信彦氏。近著『スッキリ中国論 スジの日本、量の中国』(日経BP社)では、中国人の行動原理を解き明かしてくれたが、中国人など外国人従業員から見た日本企業の問題点はずばり、発信力の弱さだと指摘する。

「受信」してばかりの日本人

日本企業は、情報を「受信」してばかりで、「発信」が圧倒的に足りない。マーケティングや市場調査などといって競合相手やパートナー、市場の情報を詳細に得ている。こうした情報を受信するという態度は、人材採用の場面でも同じで、履歴書作文、資格などを見て応募してきた彼・彼女がどんな人物かを知ろうとする。

不必要とは言わないが、むしろ日本企業が世界に向けてやらなければいけないことは発信だ。「サービスや技術力でどんな強みを持っているのか?」「何を目指し、実現しようとしているのか?」「どんな価値観を持っているのか?」─などをしっかり発信し続けていれば、それに共感する優秀な人材も集まってくる。

採用後の人事評価でも、「この半年間の売り上げはどうだったか?」「就業態度は?」など彼・彼女の成績や成果しか見ない。これも典型的な受信だ。上司が本来やるべきことは、会社や組織が実現させたいことを部下たちにしっかり伝えること。上司自ら相手と交渉するなど行動して周りを動かし、局面を動かすことも、発信の一つだ。発信しなければ、人は動かせない。リーダーシップ力とは内外への発信能力だと言い換えてもよい。

中国人がやかましいワケ

中国人はやかましいと言われる。実際に声が大きいというのもあるが、とにかく発信量が多いためだ。まず自分のことを理解させ、場の主導権を握ろうとする。

一方、相手に反論し、自己主張をする社員を、日本人上司は「面倒くさいヤツ」「場が読めないヤツ」と丁寧なコミュニケーションを避け、「とにかく黙って働け」と無言のプレッシャーをかける。

中国人など外国人に「暗黙の了解」という文化はなく、基本的に言語化されたコミュニケーションのなかで動く。日本人上司が発信してくれなければ、何をやったらいいのかさえ分からなくなってしまう。日本人だって同じ。あなたが想像する以上に、部下たちはあなたの意図を理解していないものだ。

伝えないと始まらない

中国をはじめ海外で好業績を挙げている生活雑貨店「無印良品」を展開する良品計画も、カジュアル衣料販売店「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングもそれぞれ中国拠点では情報発信を重要視している。それはブランディングという意味合いだけでなく、「こういう価値観を持った会社であり、新たにこれをしたいから決断した」などを末端の社員たちにも共有してもらう意味を持つ。企業の価値観に合う人に来てもらっているから、海外でも安定的な店舗経営が可能になっている。

日本企業に足りないのは発信。伝えないと始まらない。「自社で発信すべきものはあるのか?」「何をどう発信したらいいのか?」を真剣に考えるだけで、自社のコンセプトと強み・弱みを見直すことにもつながる。発信するだけで採用や事業課題の解決の糸口も見つかっていくもの。「部下が悪い」「パートナーが悪い」「市場が悪い」と被害者面をしていないか。もう一度、自らを見つめ直すことが必要だ。

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