NNAカンパサール

アジア経済を視る January, 2020, No.60

すごいアジア人材@日本企業

日本で活躍するアジアの高度人材たち③

山西省太原市出身の温超さんは、訪日客専門の新興旅行会社FREEPLUS(大阪市)の中国大陸チームの一員だ。中国と香港・マカオの案件を担当し、個人旅行や団体ツアーまで、あらゆる訪日客の旅行サポートに携わる。周囲から熱心な仕事ぶりを評価されている温さん。所属チームのメンバーからは、「先頭に立ってグループを引っ張ってくれる人」「気配り上手で頼れる兄貴分」と慕われている。FREEPLUSに就職したのは、母国である中国に関連する業務があり、企業理念に共感できたこと。社員に中華圏出身者が多かったことも理由だ。「中国語が通じる仲間がいると安心する」。現在の業務で使うのは中国語と日本語が中心だが、英語のコミュニケーションもこなす。

「日本を訪れる外国人に日本の良いところをもっと知ってもらいたいし、それによって日本人にも元気を与えられるような仕事がしたい」と温さん。同じ外国人として、訪日客が日本観光に求めるポイントが分かるからこそ、他の日本人の社員にはないプラスアルファの能力を発揮できればいいと考えている。

来日は2010年。中国国内でテレビ放送されていた「ドラえもん」や「聖闘士星矢」、「スラムダンク」を見て育った温さん。もともと中国では就職せず、米国か日本の大学院に進む予定だったといい、既に習得していた英語よりは未知の言語である日本語を勉強したい、と香川大学大学院への進学を決めた。太原市と香川県で日本語学校に通ったが、来日直後は日本人とのコミュニケーションにも苦労した。「香川では英語が通じない場所も多かった。歯ブラシ売り場をジェスチャーで尋ねたり、おばあさんが営む理髪店で希望の髪形を伝えられず『短くしてください』とだけ伝えて大失敗したりした」と振り返る。

温さんが日本に来てから始めた趣味の一つが料理。「故郷の味が恋しくなって、母親にテレビ電話で教えてもらいながら練習した」。週末は友人を招いて手料理を振る舞うこともあるそうだ。


韓国・ソウル市出身の朴相勇(パク・サンヨン)さんと中国・四川省成都市出身の刘梦寅(リュウ・メンイン)さんは、共に羽田空港旅客ターミナルの運営・管理会社である日本空港ビルデングで働いている。同社グループは、ターミナルビルの保守管理の他、旅客サービス業務・ターミナル内の物販・飲食・店舗管理運営業務・警備業務といった空港利用者に対するサービス提供を行う。

空港事業課の主任を務める朴さんは、主に海外の空港運営権を取得するため、商社や建設会社などとコンソーシアム(企業連合)を組んで入札参加や調査、海外政府・企業との交渉を担う。直近ではモンゴルの新ウランバートル国際空港やロシアのハバロフスク国際空港での旅客ターミナルの運営権取得に関する案件に携わっていた。

もともと海外で働きたかったという朴さん。4年の兵役を経て、大分県の立命館アジア太平洋大学(APU)に進学した。日本で就職したのは、海外進出に関わるチャンスが日本企業の方が多いと考えたからだ。

「海外の企業に比べて温かみのある日本企業は居心地が良い」という朴さんだが、「日本企業のキャリアアップはそれぞれの社員に応じてもう少し柔軟性があっても良いのでは」と話す。

目標は海外への新規開拓に積極的に携わり、日本空港ビルデングのインフラ事業を6大陸全土に広げることだ。

同じく空港事業課に所属する刘さんの主な業務は、海外空港との連絡・相互交流、コンサルタント等の新規事業開拓。国際空港評議会(ACI)や東アジア空港同盟(EAAA)といった世界の空港の国際会議も担当する。

高校卒業までを中国で過ごし、米国・リンフィールド大学へ進学。2012年に新卒で入社後は成田空港第1ターミナルの免税店に出向し、接客を経験した。もともと人見知りな性格で、日本語も現在ほど流ちょうではなかったが、「みんな優しくて上司や周囲の人がとても支えになってくれた。毎日仕事に行くのが楽しかった」と、当時を振り返る。

今は業務を通して自分たちの足元のことを学んでいきたいという刘さん。「自社が何をしているか理解していないと単なるメッセンジャーになってしまう。羽田空港のことをもっと知り、羽田空港を知らない人に魅力を伝えていきたい」

外国人留学生の日本企業への就職を阻む壁

高度な専門知識と複数の言語を操るコミュニケーション力を持ち、国際感覚に優れた外国人留学生は、少子化が深刻な日本にとって救世主となり得る存在だ。だが、現状はこうした人材を積極的に活用しているのは一部の大企業などに限られ、十分に生かし切れているとはいえない。外国人にとって異質な日本の就職慣行や日本企業の外国人留学生に対する先入観などが採用の障害になっている。

横浜国立大学が外国人留学生の就職支援プログラムの一環として実施している「ビジネス日本語」の特別講義(同大学提供)

横浜国立大学が外国人留学生の就職支援プログラムの一環として実施している「ビジネス日本語」の特別講義(同大学提供)

日本学生支援機構によると、2018年5月1日時点で日本の大学や日本語学校などに在籍する外国人留学生は過去最多の29万9,000人に上る。横浜国立大学と横浜市立大学で外国人留学生の日本企業への就職を支援している担当者によると、日本の大学や大学院に在籍する外国人留学生の6割ほどが日本国内への就職を希望するが、実際に日本で就職するのはその半分の3割にとどまる。

背景にあるのは就職活動に対する留学生の準備不足と企業の受け入れ態勢の不備だ。企業が卒業予定の学生を対象に、年度ごとに一括して求人し、在学中に採用試験を行って内定を出す、いわゆる「新卒一括採用」は海外にはない日本独特の雇用慣行だ。世界的には、学生は大学や大学院で専門知識を高めることを本筋とし、就職活動は卒業してから行うのが一般的。在学中からインターンシップなどの実質的な就職活動が始まる日本の就職慣行に疎い外国人留学生が、就職活動に乗り遅れてしまうケースが目立つ。

外国人留学生の就職先も、東京都内に本社を置く大手企業に集中している。横浜国立大と横浜市立大についても、昨年度に神奈川県内に就職した外国人留学生はわずか5%。母国でも聞いたことのある国際的な大企業2、3社の求人に応募し、それで不採用なら日本での就職を諦めるという外国人留学生が多いという。外国人留学生に対する日本企業側からの積極的なアプローチが必要と考えられている。

一方で、日本企業側も外国人留学生を優秀な人材として積極的に採用するという雰囲気にはなっていない現状もある。「人手不足で日本人が採れないから、仕方なく外国人留学生を採用している」と話す企業の採用担当者もいる。こうした「日本人の代替」として採用した留学生は、しばしば短期での退職につながる。「日本人同士なら言葉にしなくても分かり合う事柄」でも外国人には分からないことも多い。外国人留学生出身者は、日本人の代替ではないという前提で、文化的な違いからくる悩みや戸惑いに対するきめ細かな配慮も必要だろう。

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