NNAカンパサール

アジア経済を視る March, 2018, No.38

【アジアで発見 ロングセラー】

シドムンチュルの「トラック・アンギン」
老若男女に愛される伝統生薬

インドネシア

西川口で味わう本場の中国

トラック・アンギンには、オリジナルのほか、子ども用、ハーブ増量版、インフルエンザに効く強力版、錠剤タイプなどさまざまな種類がある

インドネシア人なら誰でも知っている黄色いパックのジャムー(伝統生薬)、それが大手シドムンチュルの「トラック・アンギン(Tolak Angin)」。風邪っぽいときや疲労を回復したいときの一服として、1941年の販売開始以来、老若男女問わず愛飲されている。

インドネシアでは植物の根や葉などを原料とするジャムーが、今でも多くの人に愛飲されている。インドの伝統医学、アーユルヴェーダの流れをくんで、天然ハーブや蜂蜜など自然素材の生薬を配合して作る薬で、中国の漢方と同様に、風邪っぽい、せきが出る、滋養強壮など、病気の予防やリハビリで使われている。飲むだけでなく、湿布や外皮用薬としても用いられる。症状にあわせてジャムーを調合する屋台や専門店「ジャムースタンド」だけでなく、スーパーや薬局ではパッケージ化されて売られているものもある。屋台での個人販売から大企業まで、ジャムーの販売業者はインドネシア全土で数え切れないほどだ。

シドムンチュルは、ジャムー販売最大手の老舗製薬会社で、シム・ティアムヒーとラクマト・スリシティオ夫妻が創業した。夫妻はジャワ島内を転々としながらさまざまな事業を手掛けてきた。夫人が各種ハーブやスパイスの配合を身につけたことから、1940年にジャワ島南部ジョクジャカルタでジャムーの専門店を始め、翌年に作り出したジャムーが「トラック・アンギン」(当時は「トゥジュ・アンギン」)だった。夫妻は49年、中ジャワ州スマランで「シドムンチュル」を立ちあげた。シドムンチュルはジャワ語で「夢は叶う」を意味する。

「薬」より「栄養剤」?

ビタミン剤や市販の風邪薬などと並んで、トラック・アンギンをはじめとするシドムンチュル製品専用の棚が設けられている

トラック・アンギンは、女性なら1パックはバッグに忍ばせていると言われるほど大衆化したジャムーブランドだ。「トラック」は「断つ」、「アンギン」は「風邪、風」と言う意味。直訳すると風邪薬のようだが、「発熱」「鼻水」「寒気」のほか、「疲労」「だるさ」「膨満感」「目の潤み」「無気力」などの症状にも効果があるとされる。原材料はショウガ、蜂蜜、ミント、クローブ、大黄(漢方の生薬の一種)、コメなど。コンビニやスーパーに行くと1包から売っているので、体調不良を感じたら、気軽に1包買って飲む。漢方薬というより、栄養ドリンクの感覚に近いかもしれない。20代のローカル女性は、「普段からちょっと体調が悪いかな、というときに愛飲している。ハーブが自分の体質に合うみたい」と語った。

オリジナルのトラック・アンギンは、ファストフード店でもらえるケチャップ袋のように、パックの中に茶色っぽい液体が入っている。飲んでみると意外と色に似合わず甘さが先に来て、後から植物の味がやってくる。好みはあるが、飲みやすいと思った。

薬局で売られているジャムーには競合も多数あり、味の好みからトラック・アンギンよりも競合の製品を選ぶ人もいる。ただ、シドムンチュルが2018年の今でも近代的な工場の中で、製品を手作りで作り続けていることを特徴としており、そのことからトラック・アンギンを選ぶ人もいるという。

最近では、さまざまな種類が販売されており、ミント味を強めたもの、ロイヤルゼリーや朝鮮人参エキスを多めに配合した「強力版」、子ども用、インフルエンザ予防に風邪成分を強くしたものなどがある。液体のほか、錠剤や粉末タイプもあって、液体に抵抗がある人でも飲みやすくなっている。日本への帰国時の土産に買っていく観光客や駐在員も多い。(文・写真=六角耕治)

【製品DATA】
名称  :トラック・アンギン
製造企業:シドムンチュル(PT.Sido Muncul)
展開国 :インドネシア
店頭価格:1包(約15グラム)約3,900ルピア(約30円)から

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