NNAカンパサール

アジア経済を視る February, 2018, No.37

【アジア取材ノート】

LRTの建設急ピッチ 脱クルマの街づくりも

インドネシア

インドネシアで、ジャカルタ都市高速鉄道(MRT、2018年以降に工事完了予定)とともに、首都圏の鉄道交通網の一翼を担う軽量軌道交通(LRT)の建設が急ピッチで進んでいる。MRTがジャカルタ市内を走るのに対し、LRTは主に市内と郊外を結ぶ。LRT沿線では、鉄道建設と並行して各所で、車に依存しない公共交通指向型都市開発(TOD)も行われており、駅を中心とした新しい街づくりも一挙に進みそうだ。(高越咲希=取材・写真)

ジャティチュンパカ駅に建設されるLRTシティー「ゲートウェイパーク」の完成予想図(LRTシティー公式ホームページより)

ジャティチュンパカ駅に建設されるLRTシティー「ゲートウェイパーク」の完成予想図(LRTシティー公式ホームページより)

建設中の首都圏LRT(NNA撮影)

LRTは、15年に工事が始まったものの資金不足などが原因で2回も頓挫したモノレール事業に代わるプロジェクトとして計画された。ジャカルタと西ジャワ州ボゴール、ブカシなど周辺都市を結ぶ政府プロジェクトの「首都圏LRT」と、ジャカルタ特別州が主導する「ジャカルタLRT」がある。

首都圏LRTは、全3期の工事から成る。19年の運行開始を目指す第1期工事は、東ジャカルタ・チャワンを起点に、南は西ジャワ州チブブール、東は東ブカシ、西は中央ジャカルタ・ドゥクアタスまで、3方向に総延長42.1キロメートルが建設される。

首都圏LRTの建設を手掛ける国営建設会社アディ・カルヤのキ・シャーゴラン秘書役によると、チャワンからいずれの終着駅へも20~25分で運行。3ルート全てが開通すれば、日系メーカーの工場が集中するブカシのMM2100工業団地から約10キロ離れた東ブカシ駅~ドゥクアタス駅間が約40分で結ばれる。ドゥクアタス駅にはMRTや空港鉄道、国鉄、公共バスなどさまざまな公共交通機関と接続する構想があり、実現すれば利用者にとって利便性ははるかに向上する。

LRT路線図

運行開始当初の1日当たりの目標利用者数は17万人。15%ほどの渋滞軽減が実現できると期待されている。

首都圏LRTは、運輸省とアディ・カルヤが管理、建設を行う。政府は第1期路線について、19年4月の試験運行、翌5月の運行開始を目指している。

「運賃は妥当」

運賃は1万2,000ルピア(約100円)を目安とする案が出ており、通勤に利用したいと考えている人たちの多くは「妥当な料金設定」と評価している。チブブール在住の会社員イルマさん(30)は普段、通勤電車を利用している。電車の運賃は3,000ルピア程度と安いが、自宅から駅、駅から会社までのバイクタクシー代がかかるため、結局、片道で2万ルピア程度になってしまうという。勤務先近くにも駅が建設されることから、「2万ルピア程度までなら利用したい」と話した。また主婦のレニーさん(46)も「ジャカルタ中心部へ出るときには便利」と話し、1万5,000ルピアまでなら利用すると答えた。「買い物荷物を抱えてバイクタクシーを利用するのは大変。かといって車を使えば道路の渋滞がひどい。通勤電車も混雑している」と、新たな交通手段誕生に期待を寄せている。

全駅でTOD事業

首都圏LRTで最も進ちょく率が高いチブブール付近の建設 状況=西ジャワ州(NNA撮影)

首都圏LRTでは、第1期工事で設置が確定している18カ所の駅すべてで、自動車に依存しない街づくりを目指すTOD事業が進んでいる。LRTの建設を手掛けるアディ・カルヤに加え、政府系のプロジェクトに民間企業が積極的に参加しているのも特徴だ。TODの総事業費は48兆2,000億ルピア以上に上ると試算されている。

TODは、駅周辺に商業施設やアパート、住宅を重点的に配置し、通勤や通学、買い物などにできるだけ車を利用しない社会をつくるための開発を行う。駅から離れた住民のためには、自宅から車で最寄りの駅やバス停まで行き、そこで鉄道やバスに乗り換えてもらえるよう、駅やバス停の近くに駐車場を整備する。

アディ・カルヤはプロジェクトを「LRTシティー」と銘打ってTODを進めている。開発には住宅建設や小売り、通信などの分野で民間企業も参加する。

アディ・カルヤ関係者によると、LRTシティーにはそれぞれ名前がつけられ、ジャティチュンパカ駅周辺エリアの「ゲートウェイパーク」ではアパート5棟のうち1棟が着工し、既に完売した。うち半数以上が投資目的での購入という。

東ブカシ駅の「イースタン・グリーン」では建設中のアパートの8割以上が販売済みで19年に引き渡しを予定。チラチャス駅の「アーバン・シグネチャー」でも近くアパートの販売を開始する。

日系も参入

東急不動産インドネシアが開発する「サクラ・リージェンシー3」の2階建てタイプ(NNA撮影)

LRTの整備によって将来、日系企業が多く進出する西ジャワ州の工業団地と首都中心部の接続がスムーズになり、住宅地が大きく広がることが予想されることから、日系の不動産会社も同州ブカシ周辺で住宅開発に取り組んでいる。ブカシでは東急不動産インドネシアと同社子会社のハトモハジダンカワンが開発する大規模分譲地「サクラ・リージェンシー3」の開発、販売が進んでいる。

住宅はジャカルタ首都圏の通勤電車の国鉄東ブカシ駅から南に約4キロ、LRTの東ブカシ駅からは同2キロの距離に位置しており、総戸数467戸の建設・販売が進んでいる。

東急不動産インドネシアの大坪知巳取締役によると、約7割が販売済みで、約70世帯が既に入居しているという。「計画当初から駅周辺の開発を見越していたわけではないが、17年10月の初めには国鉄の新駅が開通した。LRTの建設も進みつつあることから、結果的に公共交通網にアクセスの良い立地の住宅開発となった。投資目的の購入者も増えた」と話す。大坪氏は「インドネシア人の会社の部長、課長クラスが主な顧客層」と説明。国鉄とLRTのいずれの駅からも距離が近く、バイクで駅まで通えることから、「市内へ通勤する人を中心に、実需がさらに増える」と予想している。

大和ハウス工業も、LRTの新駅が建設される地区で都市開発事業に参画する。事業は「サクラ・ガーデンシティ」と名付けられ、ジャカルタ中心部から南東約24キロメートルにあるシパユン地区の約12ヘクタールの敷地に高層分譲マンション12棟約5,000戸を建設する。24年6月の完工を予定する。このほか商業施設やホテルなども開発する。

大和ハウス海外事業部の一木伸也・第四事業部長は「投資よりも上位中間層までの実需向けをターゲットとしており、15億ルピアまでが主要な価格帯となる」と説明した。開発地区には高速道路のインターチェンジも建設される予定で、「注目度の高いエリアだ」とも強調した。

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