NNAカンパサール

アジア経済を視る December, 2017, No.35

【アジア取材ノート】

「韓国の秋葉原」、50年ぶりリニューアル

韓国

「韓国の秋葉原」として知られたソウル市の複合商業施設「世運商店街(セウンサンガ)」(鍾路区)が、50年ぶりにリニューアルした。1970〜80年代を通じては、電機・電子など都心産業のメッカとして人気を博したが、90年代に入ってからは、同様の施設の出現や江南エリアの発展、再開発計画の失敗などから訪問客が急減。衰退の一途をたどった。今は、ソウル市による「再生」計画の下、江北エリアの第4次産業革命の拠点に生まれ変わろうとしている。(坂部哲生=取材・写真)

様変わりした世運商店街。キーワードは「再開発」ではなく「再生」だ(NNA撮影)

様変わりした世運商店街。キーワードは「再開発」ではなく「再生」だ(NNA撮影)

韓国で初めての商業と住宅の複合施設とされる世運商店街は1967年に開所。電機・電子関連の商店がテナントとして連なり、韓国の秋葉原や、「韓国のシリコンバレー」ともいわれた。上層階の住居部分には国会議員や芸能人が多数入居した時期もあった。施設名の「世運」には「世の中の運気が全て集まるように」という意味が込められているという。

建物の老朽化もあり、今では「ソウルの名物」としての面影がすっかりなくなった世運商店街の再生プロジェクトは、建物の1〜4階に入居しているテナントが営業を続けたまま、2014年7月に始まった。

前市長が再開発を好んだのと対照的に、11年に就任したソウル市の朴元淳市長は建物の再生事業に力を入れている。今年にはソウル駅前に1970年に造られた自動車専用の高架道路を、花壇や文化施設が続く「散歩道」に改修する工事が完了した。

世運商店街の第1段階の再生事業は、ソウル市が計535億ウォン(約55億円)を投じて完成し、今年9月に市民に公開された。

8階の屋上スペースに設置した展望デッキからは、南山や世界文化遺産に指定されている宗廟などの都心の風景を一望できる。ソウル市関係者は「市の新しい名所になれば」と期待を寄せる。

展望デッキから眺めた風景。ソウルの「新名所」となるか(NNA撮影)

8階の屋上スペースに設置された展望デッキ(NNA撮影)

ソウル市の中心を流れる清渓川(チョンゲチョン)を挟んだ南側の商業施設「大林商店街(テリムサンガ)」との間を行ったり来たりできるよう、歩道橋を建物の両翼に設置した。ビル3階ほどの高さで、長さは500メートル。エスカレーターやエレベーター、階段などで地上とつながり、清渓川に簡単にアクセスできるようになった。歩道橋にはおしゃれなカフェやレストランが増え始めている。プロジェクト関係者によると、歩行者が増えたために3階に入居しているテナントの売上高が増加するなどの経済効果が現れているという。

世運商店街の建物の前は、さまざまな文化行事を開催できる広場にした。

一方、大林商店街からさらに南側に連なる「三豊商店街(サンプンサンガ)」と「ホテルPJ明洞」、「晋陽商店街(チニャンサンガ)」を歩道橋で連結させる第2期工事は来年着工予定。438億ウォンを投じ、20年の完工を目指す。

スタートアップを支援

教育プログラムなどを手掛け、世運商店街に入居した「ファボラボソウル」のオフィス(NNA撮影)

リニューアルした世運商店街では、スタートアップ(創業間もないベンチャー企業)を支援する。ソウル市は、コワーキングスペース(共有オフィス)「世運メーカーズキューブ」を設立。現在、知能型ペットロボットを開発した「Cirulus」や3Dプリントを使った電動義手を開発した「Mand.ro」など高い技術力を持つ計17社が入居している。

江南エリアにもコワーキングスペースが多く、ソフトウエア関係のスタートアップの入居が目立つ。一方、世運メーカーズキューブは製造業が多いのが特徴だ。関係者は「(電子商店街という)必要な部品をすぐに調達できる環境にあるため」と説明する。

優れた技術者がスタートアップに助言したり、相談に乗ったりするなど、世運商店街に古くから入居している企業との相乗効果を高めるための工夫も凝らす。世運メーカーズキューブはまた、ベンチャーキャピタル(VC)業界との結びつきも徐々に強めていく計画だ。

世運商店街は今後、有望なスタートアップが集まり、韓国の第4次産業革命をリードする拠点として生まれ変わることが期待されている。

記者の所感:

朴元淳市長の下では、モーテルを市が買い上げ、市民の憩いの場や学びの場に転換するプロジェクトも進行しつつある。ソウル市にはまだまだ老朽化した建物が多いので、昔の面影を残しながら地域を再生するプロジェクトはいい試みだ。

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